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政治に誘導され利用された人々が犯した罪

山本太郎を支持することで、次々と怒りが焚きつけられ、苛立ちが強くなるいっぽうだった。原発事故にまつわる真偽不確かな情報や、あきらかに誤った情報を拡散した人物は山本太郎以外にも、活動家や政治家に多数いた。マスメディアも「鼻血」や「汚染水」と連呼した。これらすべてが風評被害の原因だった。

加藤文(加藤文宏)

元被曝不安者の告白

 原発事故の直後は被曝への不安でいっばいだったという首都圏在住の男性が、「もし山本太郎支持者のままだったら、安倍暗殺事件を喜んでいたかもしれません」と言った。

 いったいどういうことかと聞き返すと、「参院選に出馬した水道橋博士に、芸人のぜんじろうが応援演説をしたときのことを憶えていますか」と問いかけられた。

 応援演説でぜんじろうは「麻生大臣と安倍元首相と森喜朗が乗った飛行機が墜落しました。助かったのはだれか? 日本国民」と自作のギャグを披露し、山本太郎は「フゥー、しびれる、最高」と絶賛した。暗殺事件の一ヶ月前、6月4日のことだった。

 「『しびれる、最高』に、支持者から歓声があがったとスポーツ紙に書いてありました。安倍さんが暗殺事件で死んだときも、同じように『最高』と喜んだと思います。そういうことではないですか、ぜんじろうのギャグは」

 男性が山本太郎の言動に疑問を抱いて支持者をやめたのは2014年のことだった。

 「支持するのをやめて放射脳でなくなったほかは、自分は変わっていません。今でも山本太郎を支持している人たちは、放射脳のままだけどかなり変わってしまったと思います。あんな『政治』のために、10年前は山本太郎を支持したわけではないんですよ」と男性は言った。

 「あんな山本太郎の政治」を象徴するものとして、れいわ新選組がマルチ商法勧誘の公認市議に処分なしとしたことが真っ先に挙げられた。

 「誰のために政治をやっているのか、ぜんぜんわからないですよ」


山本太郎とハーメルンの笛吹男

 「もし支持者のままだったら」と過去を振り返った男性の証言に基づいて、被曝が不安だった人々が山本太郎とれいわ新選組を支持した経緯を整理したものが次の図だ。

 山本太郎は「ベクレてる」発言以外でも原発事故の影響を過大に表現したほか、「福島に災害派遣されたレスキュー隊隊員が被曝で死亡」など誤った情報を伝え、一切訂正しようとしなかった。

 こうした山本太郎の危機感を煽る発言に、被曝への不安を抱いていた層が誘導されて支持者になり、原発事故をめぐる現状への不満層とも言える集団を成し、誤った情報をもとに原発存続を否定した。

 山本太郎は不安を抱いていた層を支持基盤として選挙に立候補し、のちにれいわ新選組を結党した。活動家から政治家へ転身をはかった山本に引き連れられ、支持者たちは反原発にとどまらない「山本太郎の政治」へと入り込んで行った。そして、与党政治家が事故死する設定のギャグに「最高」と言う山本に歓声をあげた。

 前出の男性は、「『被曝している人がいる。とても危険だ。どうにかしなければ』と言っていた山本太郎を支持しました。これは他の人たちも同じだったと思います。でも、イライラが終わらないんです。どんどんひどくなりました」と言う。

 まず被曝の不安があった。瓦礫処理の問題もあった。原発が全停止しても、それでも解決には程遠いとされた。次々と怒りが焚きつけられるみたいだった。男性は被曝の不安が消えつつあり、やがて違和感が強くなって山本太郎支持をやめた。だが多くの支持者は苛立ちが強くなることに違和感を感じないどころか、自分たちこそが正しいと結束を固めた。この苛立ちを引力にして、山本太郎は支持者を彼の「政治」へ誘導した。

 それはハーメルンの笛吹男が村から子供たちを連れ出したのに似ている。「支持者を続けてきた人たちは、戻ってこれないだろうし、わかっているつもりだろうけど元々の自分がわからなくなっていると思います」と男性は言った。


福島への風評が政治のために利用された

 山本太郎は国会で出される弁当を「ベクレてる(放射能汚染されている)」と言ったほか、「福島に災害派遣されたレスキュー隊隊員が被曝で死亡した」と発言したり「ALPS処理水を汚染水と言い換え」てきた。

 こうした言動に支持者は賛意を示したり歓声をあげ拍手喝采したが、怒りが焚きつけられることになり、あとには苛立ちと、福島県への悪しき風評が残された。

 山本太郎は、震災瓦礫処理をめぐっても「身体に反応が出る」とツイッターで発言して、風評を拡大再生産している。このツイートには賛同が集まり、体調がおかしくなかったと言う者まで現れ、国や自治体への怒りが渦巻いた。

 このように被曝と症状を結びつけて考えがちだった人々は、(ほぼ)首都圏に偏在していた少数の「感じやすく動揺しやすい層」で、山本太郎支持者であったことを『鼻血デマから考える情報災害を拡大した報道災害』であきらかにした。また同記事では、彼らが週刊文春『肥田舜太郎 内部被曝患者6000人を診た医師が警告する』、東京新聞『こちら特報部[子に体調異変じわり]』、朝日新聞『プロメテウスの罠[我が子の鼻血、なぜ]』の影響を受けて、被曝症状で鼻血を流す人々がいると信じ込んだ層だったことも指摘した。

 実際には発生していない被曝による鼻血や体調不良を信じ切ったのは少数派だったが、悪しき風評はさらに幅広い層に福島県への忌避感が広めて定着させてしまった。

 『なぜ首都圏は恐れいつ忘れたのか』で紹介したように、福島県産品は全量全袋検査が行われても事故前の流通量や卸売価格を取り戻すことができなかったのである。これは卸売と小売と消費者に、「売れない」とする思い込み、「売り場になくてもあたりまえ」または「買わなくてもよい」とする意識が植え付けられたことによるものだ。

 真偽不確かな情報や、あきらかに誤った情報を拡散した人物は山本太郎以外にも、活動家や政治家に多数いた。マスメディアのうち原発存続に否定的な立場を取る報道機関もまた、鼻血のほか「汚染水放出」と連呼して危機感を煽りながら「安全より安心。不安に寄り添う」と達成不可能な目標を掲げた。これらいずれもが風評加害行為であり、福島県は被害を被り続けたのである。

 前章で整理した山本太郎が支持を集めた経緯に、活動家や政治家と報道が風評加害を生み出した仕組みを併せて整理したものが次の図になる。原発存続やその他のイデオロギーの支持者を増やし、これら「政治」的な目標を達成するため福島県への風評が利用されたのである。

鼻血デマから考える情報災害を拡大した報道災害』での整理より


政治に誘導され利用された人々が犯した罪

 真偽不確かな情報や、あきらかに誤った情報を信じて、まちがった言動をした人々は被害者と言えないまでも、その選択には「しかたなかった」部分もあり情状酌量の余地が残されている。だが国や自治体、公的機関、専門家などから安全について情報が提供されても耳目を傾けず、批判するばかりか攻撃的な対応をしたり、進んで特定のイデオロギーを選択したのであれば「しかたない」では済まされない。

 あえて耳目を傾けず、特定のイデオロギーを選択したのは意識的な行動であり、攻撃的ですらあったなら本能的な自己防衛の範疇を超えている。

 いままで風評加害者が罪を追及されなかったのは、危機を煽った政治家のみならず、活動家や報道したマスマスメディアまでが、社会的にも政治的にも異論の者を沈黙させ、一地域を抑圧できる権力であったからだ。一地域とは、当然福島県であり被災3県である。この権力性に意識的であるがゆえに、山本太郎を政治家に祭り上げたほか、反原発運動に積極的に参加した者もいたことだろう。なかにはSNSで事実を指摘する者や批判者を蹴散らすだけでなく、御用学者リストをもとに対立する者の人生を破壊することを厭わない者さえいた。

 いつまでも不安を解決しようとしない者や、権力性に意識的であるがゆえに特定のイデオロギーに寄りかかったままの者たちが自省しないなら、彼らは事の大小を問わずの再び政治的混乱や情報災害を発生させ、しかも拡大させるだろう。そして、この者たちが情報災害の後片付けをするはずがない。

 福島県への風評加害を止めるためだけでなく、次なる深刻な情報災害を未然に防ぐためにも、私たちが彼らの罪を問いつつ、彼らがもたらした災厄の後片付けをしなければならないのである。

 最後にネット掲示板「発言小町」への書き込みを紹介して、原発事故直後に私たちが何を感じ、考えていたか思い出す助けにしようと思う。

 2011年3月23日、「まどわされっぱなしの私は、偽善者なのでしょうか。風評被害の加害者なのでしょうか。」と、このとき既に投稿者は風評加害の概念に基づく問いかけをしている。原発事故の直後から、一般市民は「風評加害」の本質に気付いていたのだ。

 真っ先についたレスには「狂牛病のときみたいにパニックしすぎ。研究者を信じて生産者を助けましょうよ!」と書かれている。続くレスは「自分の判断で買わないことを誰にも責められる筋合いはございません」としながらも「風評被害を拡大させるような真似だけはしたくありません。」とまとめられ、さらに次の者は「明らかに健康被害が出るものでないなら私自身は買うつもりです。」としている。

 この掲示板上の会話は、鼻血など危機感を煽る発言や報道が異常な感覚に基づくもので、これらの虚像をもとに権力を振るった「運動」や「政治」がいかに民意とかけ離れていたかを示す証拠のひとつである。

── 関連記事 ──

『鼻血デマから考える情報災害を拡大した報道災害』

『災害時の不安と危機感から発生した攻撃衝動』

『なぜ首都圏は恐れいつ忘れたのか 放射線デマと風評加害発生の構図』

『不安や恐怖を共感しあう。いつまでも安心を得られない。だから怒りと悪意をぶつける。』


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