参政党は右のれいわ新選組なのか──弱者の受け皿としてのポピュリズム政党
参政党の活動が参院選をひかえ活発化しています。神真都Qが民族主義陰謀論を掲げたことで、右派で民族主義的な参政党も同類として語られがちです。はたして参政党への理解はこれでよいのでしょうか。
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●参院選半月から2週間前の動向
加藤文宏
聞き取り/加藤・ハラオカヒサ:プロジェクト
彼らはいかにして参政党の党員になったのか
「義父母の動きが活発になってきたので報告します。二人とも参政党の党員になって地方支部の活動にのめりこんでしまい会話が選挙運動一色になってしまいました」
Aさんの義父母が党員になった参政党は神谷宗幣氏、松田学氏、渡瀬裕哉氏、篠原常一郎氏、赤尾由美氏によって2020年に結成され、「先人たちが守ってきたこの国を、次の世代へ引き継ぐために」「身近なコミュニティ活動から始める政治参加」をモットーに活動する民族主義的傾向を帯びた政治団体だ。
二人は民族主義に傾倒して党員になったのかというと、そうではないらしい。
これまでにAさんの義父母は、Aさん宅に届いた接種券を捨てたほか、ワクチンの害を訴求するチラシをポスティングしたり、佐賀市長選に出馬した細川博司医師の反ワクチン運動を支援してきた。そして反ワクチンの立場を鮮明にしている武田邦彦氏が、2021年12月に次期参院選全国比例区の候補者として参政党に擁立されたことが発表されると同党に急接近した。
では参政党は反ワクチン政党なのだろうか。党の公式ページには、『参政党のワクチン政策』と題した記事が用意されていて「新型コロナウイルスのワクチンを接種していない方々の自由や人権を守る」「ワクチン副反応被害者を救済する」と控えめな文言で党の姿勢を表現している。
いっぽう党事務局長の神谷宗幣氏は選挙ドットコム内のブログで「ワクチンに感染予防効果はない、というのは当初から言われていることです」としている。感染予防効果がないので接種する意味がないという論法は、発症予防効果を無視した反ワクチン派特有のものと言わざるを得ない。
武田邦彦氏擁立、『参政党のワクチン政策』と題したページ、街頭演説の内容などから参政党は反ワクチン色の濃い政党であると言ってよいだろう。
支持者からみた参政党の位置付け
1.ノーマスクばかりの支持層
参政党の街頭演説に集まる人々は演説者を前にして密集するにも関わらずノーマスクの人たちばかりである。地域地区ごと行われている支持者の集会では「ワクチン接種をして死亡」「接種者からシェディング(毒素などが伝播・暴露)」といった反ワクチン派特有の言葉が飛び交い、これらを党として容認していると参加者が筆者に証言している。
この集会の様子をAさんに伝え、街頭演説に集まる人たちの様子や参政党のYouTubeチャンネルへの反応を見てもらったところ、「(支持者たちの言動は)義父母の考え方とそっくりでとても似ています」と類似性を指摘した。
参政党支持層は突如出現したのではなく、Aさんの義父母のみならず反ワクチン派から相当数が参政党支持に回ったと言ってよいだろう。
2.彼らはどこから来たのか
反ワクチン層とはどのような人たちなのか、『反ワクチン派・陰謀論者・神真都Q──彼らはどこから来たのか』と題した記事で成り立ちから現在の状況まで説明をした。ここで分類した人々だけが反ワクチン層のすべてではないが、層の原型をかたちづくって性格づけをしたのは彼らであるのはまちがいない。
上掲の論考は原発事故後にTwitterで「鼻血、癌、不妊、奇形、東京壊滅」などとデマを拡散し続けた805アカウトを追跡観察した副産物で、こうしたデマ拡散アカウントが初期反ワクチン層を形成し(下図❶、❷)、のちに別系統から流入した人々によって反ワクチン派が形づくられたのがわかった。別系統の人々とは、上図❸・❹を経て反ワクチン派となった「素朴な民族意識」を抱く層だった。
彼ら別系統の人々は2010年代のヘイト・反差別運動のなかでは素朴な感覚でヘイトを口にするようなタイプだった。もちろんヘイト発言をする人々のすべてではなく、彼らのすべてが差別発言を連発したわけではない。「素朴な民族意識」とは、家の前を見知らぬ人が通ったから怪しんで睨みつけてやるという単純なナワバリ意識に似たものだった。
素朴さはヘイト発言だけではなく、当時の社会的トピックについて素朴なアンチ生活保護であったり、素朴な自己責任論者だったりした。上級国民論が盛んになれば、これを支持した。煽り運転問題では感情をたかぶらせ、犯人探しで無関係な人を攻撃した者もいる。NHK解体論にのってN国党を支持したりもしている。(これらもまたすべてではない)
前述のように民族意識、アンチ生活保護、自己責任論の背景に社会意識や政治意識が希薄で、俺の庭とあいつら、俺の金とあいつら、俺の人生とあいつらといった程度の感覚だったのである。したがってプロフィールで大和民族と名乗ったり日本の国旗を貼ったりしていても、本質はノンポリに近いと言ってよいだろう。
3.線引きと不満と憎悪
2000年代以降のトピックであるアンチ生活保護、自己責任論、上級国民論、煽り運転の犯人追及現象、N国党支持を振り返ると「うまいことをしている連中と割を食っている自分」とする被害者意識が感じられる。この善と悪で自他の線引きした他罰的な姿勢の背景に、「危機に瀕しているのに何もできない自分との葛藤」があるのではないか。
アンチ生活保護を例に考えてみる。生活保護は税金を原資にしていて、元はと言えば自分の稼ぎだと彼らは考えている。自分は労働して稼いでも税金を取られて苦しい生活をしているのに、あいつらは生活保護で楽をしている。これが「うまいことをしている連中と割を食っている自分」の構図だ。
だが裏を返せば、労働して稼いでも苦しい生活をしている自分は生活保護を受ける人々と紙一重であり、いつ生活保護を受けざるを得なくなるかわからないのである。上級国民論やN国党が掲げるNHK解体論では特権的な人々と自分との間にある格差、煽り運転では教養がなく品位に欠けた富裕層と自分との間にある格差の問題がある。だが、いずれも現実を直視して問題を我が事として考えるのが苦しいため「自分とあいつらはまったく違う」「あいつらが悪い」とレッテルを貼ったうえで善悪の線引きをして攻撃対象にした。
これらは、目の前で繰り広げられるいじめについて「やめろ」と思いつつも「介入して止めたら、いじめの矛先がこちらに向く」と葛藤状態になって苦しむ様子に似ているかもしれない。葛藤状態が続くのは苦しいため「いじめられるのは、それなりの理由があるからだ」と考えるようにして、自分はいじめられるような奴とは違い、いじめられている奴の落ち度で自分も被害を受けていると納得する。自己正当化のために付和雷同していじめに加担する人もいるだろう。
反ワクチン層のうち山本太郎氏とれいわ新選組を支持した人たちはれいわ新選組を善、自民党政権を悪と線引きしてさまざまな葛藤を合理化した。不満や憎悪をすべてれいわ新選組に預けてしまい、感情の負担を減らしているのだ。神真都Qの構成員たちも、陰謀論にすべてを投げ出して現実と向き合って葛藤しなくて済むようになった。しかし、反ワクチン主流派には葛藤の預け先となり得る受け皿がないのである。
4.反ワクチン右派の誕生
反ワクチン主流派の受け皿として平塚正幸氏の国民主権党が選択肢になり得なかっただけでなく、彼らにとって神真都Qは支持するに値しないものだった。また平塚正幸氏を生んだ自粛不満層も、とくに受け皿がないまま現在に至っている。
ここに参政党が民族主義と反ワクチンを掲げて登場したことで、コロナ禍に不満を募らせる層のうち左派のれいわ新選組に共感できなかった人々の感情と葛藤の預け先ができたと言える。参政党には民族主義があるが国民主権党には平塚正幸氏しかなく、参政党には民族主義のロジックがあるが神真都Qにはロジックがなく、この違いはあまりに大きい。
Aさんの義父母は素朴な民族意識を持っているにすぎなかったが、反ワクチンの立場から参政党を支持したことで「愛国的な言葉がぽんぽん飛び出す」かなり意識的な民族主義者になった。こうして反ワクチン主流派は右派反ワクチン層としてまとめられようとしている。
危機と不満と弱者とポピュリズム
参政党は反ワクチン一辺倒のワンイシュー政党ではない。しかし山本太郎氏が東日本大震災と原発事故による危機感から噴出した不満を回収する大衆迎合路線でれいわ新選組支持者を獲得したように、参政党もまたコロナ禍の危機感と不満を回収するポピュリズム政党としてスタートを切ったと言ってよいだろう。
山本太郎氏は2013年の「ベクレてる」発言に先立つ2011年11月に「大阪のレスキュー隊が内部被曝で亡くなった」というデマを公演後の質疑応答で発言するなど、かなり初期から大衆迎合路線を打ち出していた。
また2013年には「大阪の瓦礫焼却が始まり母の体調がおかしい。気分が落ち込む、頭痛、目ヤニが大量に出る、リンパが腫れる、心臓がひっくり返りそうになる、など」とツイッターで発言したが、これもまた科学的見地から一蹴されている。
こうした山本太郎氏の言動を支持したのは、原発事故を契機にこれまで溜め込んできた不満や憎悪を発散した人々だった。山本太郎氏は地面にスコップで穴を開けて不満や憎悪の噴出口をつくるように次々と被曝ネタを提供し、彼の単純な善悪論は不満層の葛藤を合理化していった。
よく似た大衆迎合路線をとったものの支持者獲得に失敗した例が、のちに日本維新の会公認で出馬する長谷川豊氏の「人工透析患者は殺せ」論だ。
2016年9月、フジテレビの局アナからフリーランスになった長谷川豊氏は保険診療を食い潰しているとして「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!」と題した一文を発表した。はてな匿名ダイアリーに掲載された「保育園落ちた日本死ね」をタイトルの参考にしたという長谷川豊氏の発言から、福祉や医療などの恩恵を受けている高齢者、貧乏人、病人、障害者への憎悪を噴出させようと意図したのはあきらかである。
この発言を支持する者もいたが批判が圧倒的に上回り、長谷川豊氏は番組を降板させられただけでなくメディアから追放された。長谷川豊氏は翌年の衆議院議員選挙で日本維新の会公認で出馬するも落選し、出馬した彼だけでなく公認候補にした党に真意を問う声があがった。
「人工透析患者は殺せ」論の1ヶ月前、NHKの貧困特集番組に登場した女子高生が贅沢であり浪費癖があるのではないかとネット上に批判が渦巻く騒動があった。さらに4年前の2012年にはお笑いコンビ「次長課長」の河本準一氏の母親に生活保護の不正受給疑惑がもちあがって、片山さつき議員などが不正受給にかぎらぬ生活保護抑制を強く訴え、生活保護バッシングとも言える騒動に発展した。
だが2021年にタレントのDaiGo氏がホームレスや生活保護受給者への差別につながりかねない主張を展開すると、厚労省が「生活保護は権利」と周知するまでもなく批判の声が沸き起こっている。これは2016年頃から「うまいことをしている」のは生活保護受給者とする構図が揺らぎはじめ、東池袋自動車暴走死傷事故が発生した2019年になるとうまいことをしているのは勝ち組として逃げ切ろうとする上級国民と目されるようになっていたのと関係しているだろう。
右派ポピュリズム政党の日本維新の会がコロナ禍の不満勢力を獲得できなかったのは、反ワクチンを訴えなかったからだけでなく同党が長谷川豊氏やDaiGo氏のように勝ち組の不満を回収する「うまいことをしている連中」と目されていたからではなかったか。対して参政党は反ワクチンの立場を明らかにするだけでなく、日本人が労働して稼いだ金を外国人が収奪していくと主張して素朴な弱者層を獲得しようとしている。
山本太郎氏とれいわ新選組が不満層を左派にまとめたように、神真都Qが荒唐無稽な民族主義で構成員たちを目覚めさせたように、参政党が支持者の素朴な民族意識の次元を高めたのはまちがいない。そして深刻なレベルに達している格差の拡大とコロナ禍によって鬱積した弱者の憎悪が向かう先は、彼らの受け皿になった参政党次第なのはれいわ新選組と神真都Qの例からもわかる。参政党を泡沫政党と表現しておしまいにできる政治団体ではないのだ。
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