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参政党は「みんないい人」なぜなら「何を話しているかよくわかるから」と語る女性──短信

どこに惹かれましたか。演説の何が響きましたか。今回は50代女性に話を聞いた。さまざまなタイプの人々が参政党を支持している。速報性を重視した短信記事です。

加藤文宏 (Kヒロ)


参政党に投票した50代の女性

 2022年7月の参議院選で結党間もない参政党が議席を確保した。投票前の7月6日に参政党を分析した記事を公開すると、支持者から記事中で代表例として紹介した人物たちと別タイプの支持者もいるのを知ってもらいたいと複数の意見が届いた。

参政党の支持者から届いたDMの一例

 それは参政党の街頭演説を観察して筆者も気づいていた。たとえば40代以上の主婦と思しき人たちが演説を聞き入ったり、同年代の安定した生活を送っていそうな女性がカフェの店内から候補者たちに手を振っていたのを目撃した。彼女たちは就職氷河期やリーマンショックの影響を受けた「損をし続けてきた層」とはあきらかに違う人たちだった。

 

 投票日を目前にして届いたDMは、まさに街頭演説で見かけた安定した生活を送っていそうな女性からのものだった。彼女は実名と思しき氏名を名乗ったが、ここでは50代で成人した子供がいる山崎洋子(仮名)としておく。

 「参政党が、日本が危ないと教えてくれたので感謝しています」と山崎洋子さんは言った。そして参政党の幹部と立候補者は「みんないい人」なのだそうだ。

 いい人となぜわかったのだろうかと質問すると、山崎洋子さんは「政策がよい」からと参政党の公約をあげていった。たしかによい公約を掲げる人は「いい人」のように思えなくもないが、どこか話が噛み合わない感じがした。そこで「いい人」の条件に話題を転じると、参政党の人たちは「何を話しているかよくわかるからいい人だ」というのだ。


演説のどこがよかったですか

 「何を話しているかよくわかる」とはどのような意味なのか。

 そこで参政党の神谷宗幣氏が2022年2月5日に神奈川で行った街頭演説のビデオを山崎洋子さんに観てもらい感想を聞いた。(注:動画のリンクを送り、感想の聞き取りは電話の通話で行った。双方に言葉足らずであったり回りくどい表現などがあったので書き起こし文は意味を変えない範囲で手を入れている)


加藤「演説のどこが気に入りましたか」
山崎「学校でいい点数を取る取らないは関係ない、生きていくのに必要な知識が大切というところがいいです」
加藤「同じ意味だと思うのですが、このあとにも学者になりたいなら物理や化学を習えばいいけど、微分積分なんて日常生活で使わないからやらなくてもいいって言っていて、やっぱりここがいいですか」
山崎「ぜったい使わないし、そんなことより占領軍が禁止した歴史とか政治の授業をやらないと危険ですよ。日本はもうここまできてしまっていて」
加藤「それがわかっている集まっている人は意識が高いって言ってましたけど、山崎さんも意識が高いってことになりますね」
山崎「どうなんだかと思っちゃいますが、別の演説とかYouTubeとかですごくよくわかったんですよ。それで意識は高くなってるんだと思います」

加藤「税金の話をしてますよね。税金を半分にして、サービスも半分にする。でもこれって何もよくなってないですよね」
山崎「そんなこと言ってないですよ」
加藤「僕らの税金ですから、と言ったあとです。(書き起こしの読み上げ)税金半分くらいにしてほしいです。そのかわりサービスも半分でいいから。無駄なところは削っていただいていいです。でもこういうことを国民が言わないと、政治家はやらないぜったいに。だから国民が勉強しないといけない。こんなふうに言ってますよ」
山崎「ああ……それは無駄を削れば税金が安くなって半分にできるってことです」
加藤「いままでのサービスがなくなったあとは、自分たちが判断してサービスを買えばいいというんですか」
山崎「そうそう、そうで。無駄なものまでいらないですから」

加藤「そういうことが、よくわかるのが参政党なんですか」
山崎「よくわかりますよ。知らないことばっかりなんで。すごく勉強になるし、神谷さんもみんなもすごく勉強してるし」
加藤「ほかの党、自民とか立憲とかの演説を聞きましたか」
山崎「テレビの? とか。なんかこう自分の話でないから腹たちますよ」
加藤「(演説の)動画みたいに税金の話をしてませんでしたか」
山崎「してたとしても、難しく言ってるだけで自分のためにやってくれる気がしないので、まあ観なくなりますね。嫌いだなあと」
加藤「難しく言ってというのは、言葉づかいというか単語とかが悪いのですか」
山崎「それもありますけど、神谷さんは自分の喋りかたをしてい自分で喋ってるのがわかりますけど、ほかの(党や政治家)はなんていうか……台本があって喋ってるとか芝居っぽい」
加藤「直接、山崎さんと話をしている感じ?」
山崎「そうそう。ほんとうに仲がいい勉強してる人と話をしている感じです」

加藤「いい人というのはなんだろうって話なんですが」
山崎「また会いたくなりますよ、そういう人。うるさいことを言わなくても考えてることがすっと入ってくる人」
加藤「参政党にちがうかなと思うところはありますか」
山崎「ないんですよ。アンチみたいな人が混じっていないから強い党かなって気がします」


いい人たちと共感しあう

 山崎洋子さんが演説のなかで「学校の成績より生活の知識が重要」と語られた箇所を気に入っていたのは取材中でもっとも意外だった。参政党の公約がよいと力説する彼女なら、演説で語られた税金半減策などを真っ先に評価すると予想していたからだ。

 演説動画を視聴すればわかるが、神谷宗幣氏はこの箇所で聴衆に当事者であることを意識させている。

 政治への参加を阻止しているのは占領軍が押し付けた教育のせいであると、演説ははじまる。アメリカを敵対視する人なら引き込まれるだろうが、それにしてもテーマが大きすぎる。そこで「ここに集まってるみなさんは、そういう高い意識を持った方ですけど、残念ながら少ないんです」と聴衆を称揚しながら、「生きていくのに必要な知識が大切」であって「学校でいい点数を取る取らないは関係ない」と聴衆の特性を看破して本題に誘導する。

 山崎洋子さんも物理や化学、微分積分なんていらないと言い、意識が高いと評価される側に立った。しかも意識が高くなれたのは神谷宗幣氏はじめ参政党の人々のおかげだ。こうして彼女は参政党の仲間になった。だから、彼女にとって「学校の成績より──」の部分が重要なのだろう。

 山崎洋子さんに限らず参政党支持者は、党幹部や立候補者を「いい人」と評する傾向があった。他の人々は山崎さんとは別の観点から幹部や立候補者を評価しているかもしれないが、参政党を支持するのは仲間同士の共感が期待され土台になっているのはまちがいなさそうだ。


壮大な茶飲み話としてのポピュリズム

 紹介した演説は選挙を意識した参政党の街頭演説としては初期のもので、参政党の骨格がわかるうえに内容がとてもユニークだ。

 占領軍が日本の教育を劣化させたため国民が政治に参加できなくなっているとはじまり、街頭演説の聴衆はこの問題に気づいて危機感を抱く意識が高い人と言い、しかし教えてくれる人がいないため誰に投票したらよいかわからない現状を嘆き、諸外国では政党の歴史を教えていると言い、日本の国民は政治の茶番を見抜いているとも言う。聴衆は賢いのか、愚かなままにされているのか。政治を理解しているのか、していないのか。外国は憎む相手なのか、見習うべき相手なのか。政治に参加できないのか、馬鹿ばかしくなっているだけなのか。行ったり来たりを繰り返している。

 こうした寄せては返す演説の流れに、税金を半分にしてサービスも半分にするという主張が入り込む。税金として支払った額がそのままサービスとして返ってきていると思わせたうえで、自分で取捨選択してサービスを買うほうがよいとしている。誰も誤りを指摘せず名演説とさえ評価されているが、このまま実現されたら参政党支持者すべてが困窮するのはまちがいない。

 だが夫と二人三脚で自営業を盛り立てて今日までやってきた山崎洋子さんでさえ、税金半額サービス半分論の大雑把さを問題視していない。いい人たちへの共感と仲間意識によって、演説や公約は壮大な茶飲み話になっていないか。

 そして参政党の本質は、壮大な茶飲み話をつくりあげる神谷宗幣氏の察しのよさなのかもしれない。掲載した動画では占領軍が教育に介入したと言いながら反知性を好む聴衆を取り込んで税金を半額にしたいと主張し、このようにして反ワクチンからオーガニックまで包括する政党になった。まさにポピュリズムである。

 神谷宗幣氏は既存政党について『ぜんぜん肝心なことを国民に教えずに、パフォーマンスで参議院選挙だったらタレントとか連れてきて、人気だけで票をいれて、終わったら公約と違うことをやる』と批判した。議席を得た参政党が何を実現しようとするか注視したいと思う。


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