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SDGsは原発の夢を見るか?

著者:ケイヒロ、ハラオカヒサ

生活と環境と次世代のための踏み絵

手垢にまみれ汚されたSDGsの主張と本来のSDGsの区別をつけるための踏み絵だ。

原子力発電を利用しないかぎり脱炭素化は不可能だ。脱炭素なら火力発電は撤廃せざるを得ず、再エネだけではとうてい電力をまかないきれないのだからしかたない。いかに原発再稼働から逃げ回っても、今冬の電力事情と電力価格を日本だけでなく世界各国まで見回してみれば実情がよくわかる。

こうなると原子力発電を利用しないかぎり社会、経済の発展も不可能ということになる。社会、経済の発展はSDGsの目標のひとつだ。そして社会、経済の発展なくして貧困の解消以下、SDGsの目標達成もまた不可能だ。

では「原子力発電所を再稼働させよう」とあなたは声をあげられるだろうか。もし意に沿わないのなら反SDGsを表明しなければならなくなる。SDGsは17項目の問題を等しく解決しようとする目標なのだから。

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2011年3月11日14時46分18.1秒から

そのとき東日本大地震が発生した。

ハラオカヒサはとにかく避難するほかなかった。

ケイヒロは情報を得る術を失い途方にくれた。

ハラオカヒサは戻る選択肢を失い、自動車をひたすら走らせ関東に入った。

ケイヒロは信号が消えた幹線道路の混乱に巻き込まれ、夜になって市街地の暗さに圧倒された。

都心から自宅を目指して歩き続ける人が絶えず、歩き疲れて靴を脱ぎ車止めの突起に腰をおろしてぴくりとも動かない人がいた。

小学生が自宅前のまっくらな道に立ち尽くしていた。両親は帰宅難民になっていた。

ケイヒロは小学生の子らに食事や懐中電灯を買い与えようとコンビニに向かったが買い物ができる状況ではなかった。

ハラオカヒサは運転席をリクライニングさせて眠ろうと努めた。駐車場は死の世界のような漆黒の闇だった。緊張を鎮め不安を癒すものは何ひとつなかった。

この間に震源地から500km以上離れた関東で、停電による酸素吸入装置の停止から女性が死亡し、灯した蝋燭が倒れて男女2人が焼死していた。

被災地では凍えながら救出を待つ人がいた。停電で生命維持装置が止まり最期をむかえざるを得なかった人がいた。被災地では最大466万戸が停電していたのだった。

これらはほんの一部だ。ほんの一部だが、坂本龍一が「たかが」と取るに足らないもののように言った「電気」を失ったことで発生した不幸である。電気がなくなることで生活と文化は破壊され、人は死ぬのである。

坂本龍一/
「言ってみれば、たかが電気です。たかが電気のためになぜ命を危険に晒されなければいけないのでしょうか?たかが電気のために、この美しい日本、そして、国の未来である子供の命を、危険に晒すようなことをすべきではありません」


2011年3月12日から

被災者の鎮魂歌レクイエムと題された歌だった。

この国を歩けば原発が54基
教科書もCMも言ってたよ安全です
俺たちを騙して言い訳は「想定外」
懐かしいあの空くすぐったい黒い雨
ずっとウソだったんだぜ やっぱバレてしまったな
ほんとウソだったんだぜ 原子力は安全です
ずっと嘘だったんだぜ ほうれん草食いてぇなあ
ほんと嘘だったんだぜ 気づいてたろうこの事態
風に舞う放射能はもう止められない
何人が被曝すれば気がついてくれるのこの国の政府
この街を離れてうまい水見つけたかい?
教えてよやっぱいいやもうどこも逃げ場はない
ずっとクソだったんだぜ 東電も北電も中電も九電ももう夢ばかり見てないけど
ずっとクソだったんだぜ それでも続ける気だ
ほんとクソだったんだぜ 何かがしたいこの気持ち
ずっと嘘だったんだぜ ほんとクソだったんだ

斉藤和義からはじまったと言い切るのは正しくないが、反原発のおためごかしな他人事感、それまでの自らの生活を支えてきたものへ知らないふりをする態度はここに極まっていたと言える。

原子力発電所から送電された電気で暮らしを成り立たせているのを誰もが知っていた。絶対安全とは断言できないから安全であるため努力が積み重ねられているのも誰もが知っていた。だが原発を見て見ぬふりをして、直視しなければならないときは穢れたものとして扱い、原発がある地域を魔境のようにさえ表現してきたのではなかったか。このうえで日本の豊かな生活があった。

3月11日の死の世界のような暗闇は、斉藤和義をはじめとする無邪気な嘘つきたちが感謝すらしなかった電気が止まった結果だ。そして反原発派と賛同者たちは、原発を止めたあとの日本についてまともに考えようとしないまま現在に至った。

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被曝デマや風評加害への抵抗と、傷つけられた人の問題に関わることで筆者2名は反原発派の内情に触れる機会があった。反原発運動に参加する動機は人それぞれであったが、政治側からもビジネス側からも再エネ商売へ誘導したい人々がたむろしていたのである。

筆者は再エネを否定しない。だが設置場所、効率、送電などの難題を抱えた太陽光を代表とする再エネだけでは電源の主力になりえないのを知っている。電源構成はバランスで考えなくてはならない。自然まかせの太陽光発電には臨機応変な火力発電がなくてはならないし、脱炭素化を進めるなら原子力発電をベースに電源構成を発想しなくてはならない。

だがこうした提言に対して「原子力ムラ」「汚い大人」など侮蔑的な言葉を投げつけ発言を封じてきたのが、無邪気な嘘つきたちやビジネスのためきれいごと捲し立て法螺をふき続ける輩だった。そして彼らの中からSDGsのカラーホイールバッジを胸につけオフィス街を闊歩するてあいが登場したのだった。

SDGsは、その政治的な正しさゆえに異論を唱える者や立場が異なるものを殴りつけ黙られる道具として使われた。「エス・ディー・ジー・エス」とさえ言えば相手を跪かせることができる魔法の呪文とも言える。

これは再エネ屋だけの仕草ではない。SDGsのパブリックイメージを利用して環境活動家や、環境ビジネスの現場で常套手段となっている。

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原発の利用を語れるかで問われるSDGs

■ 貧困をなくそう (No Poverty)
■ 飢餓をゼロに (Zero Hunger)
■ 人々に保健と福祉を (Good Health and Well-Being)
■ 質の高い教育をみんなに (Quality Education)
■ ジェンダー平等を実現しよう (Gender Equality)
■ 安全な水とトイレを世界中に (Clean Water and Sanitation)
■ エネルギーをみんなに、そしてクリーンに (Affordable and Clean Energy)
■ 働きがいも経済成長も (Decent Work and Economic Growth)
■ 産業と技術革新の基礎をつくろう (Industry, Innovation and Infrastructure)
■ 人や国の不平等をなくそう (Reduced Inequalities)
■ 住み続けられるまちづくりを (Sustainable Cities and Communities)
■ つくる責任 つかう責任 (Responsible Consumption and Production)
■ 気候変動に具体的な対策を (Climate Action)
■ 海の豊かさを守ろう (Life Below Water)
■ 陸の豊かさも守ろう ( Life on Land)
■ 平和と公正をすべての人に (Peace, Justice and Strong Institutions)
■ パートナーシップで目標を達成しよう (Partnership)

SDGsが掲げる目標の中に「原子力発電推進」は含まれていない。

しかし気候変動に対して具体的な対策を考える際に脱炭素化が必須で、再エネだけで電力が十分に賄えないなら原子力発電の有効利用を考えざるをえなくのは必定というものだろう。

だが「豊かさはいらない」と主張する脱炭素化かつ反原発派の人々がいる。この発想は「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」という目標に叶っているようにみえて、エネルギーが行き渡らず権力側や富裕層に独占されかねないのを認めろと言っているようなものだ。

また「働きがいも経済成長も」必須であるとする目標をも無視している。人々に「人々に保健と福祉を」を行き渡らせるためにも電力が必要なのは前述のとおりだ。

豊かさや将来への発展性が貧困、飢餓を解決したり平和と公正の実現する手立てなのである。

ある種の方々が大好きなグレタ・トゥーンベリは、原発に対して複雑な心境をあきらかにしている。彼女個人としては原発反対だが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に基づき脱炭素エネルギーの解決策として原発を容認という立場だ。これはよく知られた話だろう。

責任を回避しようとまわりくどい発言になっているが、グレタ・トゥーンベリは脱炭素化のため原発は不可欠であると認めざるを得なかったのだ。

U2のギタリストで環境活動家として強い影響をもっているThe Edgeは、太陽光発電等の再エネを推進していたが、これらの効率の悪さからくる土地利用の問題が重大すぎると原発推進に態度を変えた。

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ダライ・ラマは「自然エネルギーで電力をまかなえる可能性があるのは先進国だからであり、発展途上国には原発は必要だ」と言っている。

ダライラマ

先進国もまた再エネで電力をまかなえないことは明白になったのだから、先進国も発展途上国も原発は必要ということになる。

環境問題を懸念しながら原発を再稼働させようと言えない人々は、もはや偽善的な臆病者で不勉強のそしりを免れないのである。



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