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言葉で人を動かす人がしていること

ここ数ヶ月で、立て続けに「メンバーとの会話で気を付けていることは?」と質問される機会がありました。

たとえばこんな感じで。

今年はもっと「メンバーを言葉で鼓舞できる人」になりたいと思ってます。諸戸さんが普段、メンバーとのコミュニケーションで大事にしてることって何ですか?

うーん、正直なところ、質問してくれたのは、とても優秀な方ばかりです。自分に何か言えることがあるのだろうか、と戸惑いました。

ただ、よく見ると、質問のメッセージに1つ気になる点があります。

ひょっとしたら、と思って自分の考えをなるべく詳しく伝えることに決めました。少しはお役に立てるかもしれないと思ったのです。

というわけで、今回のテーマは、メンバーと話すとき意識していること。特に1on1の時を想定して書いています。

売れる営業マンは何に注目しているか?

さて、質問メッセージの中で、僕が気になった1点とはなんだったのか。それは、「仲間を言葉で鼓舞できる人になりたい」という部分です。素敵な志ですが、これのいったいどこが気になったのか。

その答えは、もしかすると、彼の中では相手が話している最中に「『次何を言おうか』が主題になっているのではないか?」ということです。

このことについて詳しく話す前に、
すこし寄り道をさせてください。

僕が新卒で入社した会社で、初めてした仕事は、営業でした。

当時、営業部には有名な先輩がいて、彼の営業スタイルはまさに目からウロコ。なんと、営業時間の9割は話を聞いているだけなのです。

実際、1回目の訪問では、ほとんどずっとお客さんがしゃべっていました。

あまりにも質問ばかりしているから「あんた聞いてばかりだけど、何しにきたんだ?」とお客さんに逆に心配されるほど。

でも、2回目の訪問で確実に相手が一番欲しかったもの、一番かゆいと思ってたところに手が届いて受注してしまうんです。

その結果、彼の成績はいつもトップクラス。

僕自身も、彼から営業のコツを学んだあとは、その後一気に成績を伸ばし、トップ営業マンの仲間入りすることができました。

何に注意を傾けるべきか?

それでは、本題に戻ります。

僕は、「次何を言おうか」が主題になっているのではないか、ということが気になったと述べました。似たような例で「どんな鋭い指摘をするか」を一番に気にかけている人もいますよね。

これらは、聞くこと・理解することを妨げる可能性があります。

人間の意識は、同時に一つのことにしか注意を向けられません。

マルチタスクという言葉がありますが、どんな人も同時に2つのことには集中できません。実は、ただ高速で注意を切り替えているだけなんだそう。

そして、注意を切り替える瞬間には0.5秒ほど、精神的な死角が生じます。これは、注意の瞬きと呼ばれる現象です。

このことを先ほどの営業の話と合わせて考えてみてください。

何が言いたいかというと、相手が話している最中にあなたが「次に何を言うか」に焦点を当てた瞬間に、相手が「何を伝えたいのか」「どのように見たり、感じたりしているのか」には意識を向けられなくなるということです。

これを無意識にわかっているから、先輩はまず話すより聞くこと(理解すること)に徹していたのです。

気になるのは、あなたの賢さではなく、自分

あなたのお客さんにせよ、会社のメンバーにせよ、彼ら彼女らがもっとも関心を持っている話題は、自分に関連することです。

人は、いつだって自分に一番関心を持っています。否定されたくない。受け止められたい。共感してほしい。聞いてほしいと熱望している。

だから、理解してもらえたと心底思えたら、好感を抱き、今度は何かお返ししたくなるもの(好意の原則・返報性の原理)。

滑らかに話すことではなく、注意深く耳を傾けることが、相手との間に確固としたラポールを築くための本当の鍵だ。

『RAPPORT 最強の心理術 謙虚なネズミが、独善的なライオンを動かす方法』

そういうわけで、個人的には、営業でもメンバーとの1on1でも、相手にたくさん気持ちよく話をさせるのは賢いやり方だと感じています。

慣れなければ不安になるかもしれませんが、しっかりと聞き切ってから、伝えることや提案することを考えても、決して遅くはありません。

さらに言えば、徹底的に聞くことで、相手がまさに一番ほしいと思っているものを特定して、それから後出しでピッタリの物を差し出すことができるのですから、お互いにとって良い取引ができるというものです。

最後に

今回、僕はなぜ、しつこく同じ(聞くことに焦点を合わせる)ことばかり繰り返し伝えたのか。

それは、注目するポイントが少し変わるだけで、劇的な変化が起きることがあるからです。特に、すでに変化を起こすだけの力がある場合には。

たとえば、バッティングが苦手な少年に、ヒットを打たせたいとします。

そんなとき、少年にかけるべき効果的な一言は「球をよく見ろ」ではなく、「ボールに書いてある文字をよく見て」です。

こう言われると自然に、打つ直前まで球をしっかりと見つめていなくてはいけなくなりますから。断然ヒットを放てるようになります。

僕は、この記事を読んでいる方にはすでに、相手に提案できる優れた知見もそれを言語化する力も備わっているだろうと想定しました。

ですから、ただ意識を向ける先を「次何を話すか」ではなく、「相手が本当には何を言いたいか」にシフトさせることが、ヒットにつながる。そう思ったんです。

この記事が良いヒントとなりますように。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献: