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2022.08.26 山陰旅・後編~滝詐欺、郷愁、ヤマタノオロチ~

泊駅で降りて宇野地蔵ダキ ※1 という名水に向かった。鳥取の日本海沿いの道を延々と歩いた。富山や京都で眺めてた日本海よりも水が青々としてて、沿岸にある岩がデカくて、波がその岩にぶつかって水しぶきを上げて荒々しかった。

滝(ダキ)とはいうものの実際は湧き水で、竹筒の水路を流れていた。飲めないこともなさそうだったから飲んでみた。雑味が無くていい水だった。暑い中、潮風がビュービュー吹いてる道を歩いていたから、喉が渇いてたというのもあるのかな、結構うまいと感じた。

宇野地蔵ダキも徒歩で向かってたらかなり時間がかかってて、もう10時くらいになってた。やっぱり布勢の清水はやめといてよかった。

それで次の淀江駅に着いて12時。昼ご飯にしようと思ったが飲食店が無く、地図に表示されたパン屋も店じゃなくて工房らしく、販売はしてなさそうだった。

ここで名水への経路を調べたら、あと5分で近くのバス停から、1日2便のコミュニティバスが出ると知り、もう昼ご飯は後回しにして名水に行くことにした。

そのコミュニティバスが凄くよかった。小型バスなだけあって、大型バスでは入れないような細い道にズンズン入っていく。片側1車線もないような細道に入っていくバスが好き。途中、曲がり切れなくて切り返しをすることによってなんとか進んでくこともあった。

両サイドを墓場に挟まれた道だったり、田んぼのど真ん中の道だったり。そう、田園地帯の中にある名水なのだ。いい味のするバス停で降りて、また田んぼ道を走ってく無人のコミュニティバスを見送るがてら写真に撮った。俺以外に乗客がいなかったのだ。

天の真名井(あめのまない)※2 という名水だ。伝統的な集落の中に湧き水と泉があり、飲むことはできない。というのも、ここで鱒を養殖してるのだ。それくらい澄んだ水というのも分かるが、やっぱり魚を養殖してるとこから直に掬って水を飲みたくはない。

名水百選、あるあるとしてデカい鯉がいがちだが、デカい鱒がいたのは初めて。キレイだった。

天の真名井からは歩いて淀江駅に戻った。途中、さっき乗ったであろうコミュニティバスを遠くに見かけた、2回も。別の乗客が乗ってるのも見えた。そしてさっき乗り込んだバス停付近のスーパーでパンとかを買った。13時半くらいだったかな、まだ昼ご飯にはありつけてなかった。

海沿いのスーパーだったし、せっかくだからということで海で食べることにした。鳥取の海だったからなのか、砂浜がすぐ近くまで迫ってた。そこで食べたのが今川焼き。なんか最近、今川焼きの気分だなーって思ってた。普通のよりもしっとりしてて、もちっとした食感だったのが嬉しかった。カスタードもみっちり入ってた。

乗り継ぎとかもあってここでタイムアップ、出雲のホテルで1泊。安い宿を予約したらホテルなのに平屋建てで、部屋数も10室くらいしかなくて、部屋の造りもワンルームのアパートみたいで、大学生の1人暮らしの気分だった。いつもの生活、旅感ゼロ。晩飯はホテルの近くのかつやにした、名物とか探しに行けないくらいに疲れてた。

3日目。京都に帰る前に出雲の名水、浜山湧水群 ※3 に寄った。駅周辺のメインストリートから県道を歩いたものの、次第に建物は少なくなり田んぼが増え、山がデカく見えた。8月の終わりだからか、6時くらいは結構涼しく、日が昇ってきても時折吹く風も冷ためだった。

浜山湧水群にはドラゴンのオブジェの水汲み場があった。営業時間外だったので水は出なかった。出たとしても1回沸かしてから飲んでくださいとあったけど。

ドラゴンの頭が8つあって、そのうち3つが水道になって水が出る。なんだこれは、しこたまダサいじゃないか。しずるのKAƵMAさんがプロデュースしたのか?

一応「八雲立つ出雲」という歴史的伝承をモチーフにしているらしいのだが、竜にまつわる記述はどこにもなかった。市役所の職員は何を考えているのか。

そこからもう少し北上して大社線の駅舎を2か所撮り、グルーっと回って出雲市駅に着いて帰ることにした。ただ意外と長距離を歩いていたようだった。6時半にホテルを出て駅に着いたのが9時、そしてそこから米子に向かう電車が10時発だった。このままじゃ家に到着するのは夜遅くになるだろう。確実にスマホの電池も無くなる。

そして米子でも電車の乗り継ぎに2時間の空白があった。山陰の電車は少なすぎる。駅構内のポスターで「475パフェ」というのを知った。米子は今、パフェがアツいらしい。美味しそうでキレイなパフェが並んでて、この2時間でパフェを食べに行こうと思った。

ただそのポスターやサイトにパフェが食べられる店のマップがあるわけでもなく、時間を考えるとしらみつぶしに回っていくこともできず。仕方ないから地図アプリで「パフェ」と検索し、出てきたとこに行くしかなかった。

出てきたカフェは確かにパフェを取り扱ってたが、店員さんに475パフェの加盟店ですかと聞くと違いますと言われたのだからさあ大変。米子駅に比較的近いのに475パフェじゃないなんてことある? せっかくならちゃんと認定されてるとこがよかった。

でも情報も時間も無いし、そこで妥協した。米子で食ってるのに475パフェじゃないってのが納得いかなかったし。俺は米子で食ってんだぞ。

季節のフルーツパフェ。全部のフルーツが乗ってるかのような勢いで、美味しかった。今年初のスイカだった。それだけじゃ足りないからそのあとすぐに吉野家に入って牛丼を腹にぶち込んだ。今夜は長期戦になるからだ。


※1 この水が具体的にどう使われてたのかという伝承は特にないが、地域住民が毎日のように清掃活動を行っていて、この辺りにはゴミ1つ落ちてないとされている。なぜ滝扱いされているのかは不明。

名水の選定条件は水質だけでなく「地域住民による保護活動が行われているかどうか」というのもある。珍しく清掃一本で名水百選にまでこぎつけたスポット。

※2 「天の真名井」とは、清浄な水に付けられる最大級の敬称とされている。その敬称がそのまま名水の名前になっている変な泉。これまた伝承は無く、環境省によるホームページも非常に簡素なものになっている。

※3 かつて井上恵助という人物が砂丘に植林活動を行った。そのおかげで水不足だったこの地域の水持ちがよくなり、干ばつの時でも水が湧き続けた。その功績を称えられて名水認定された。ホームページには「無限の水である」と紹介されているが、証拠は何だよと思う。無限なんてものは存在しないんだよ。


「今夜は長期戦になるからだ」と残して日記が途切れている。このあと1日の休憩をはさみ、青春18きっぷの残り2日間で広島に旅をしたから、日記に書きたいことが多すぎたのだ。

結局米子を出発した後も乗り継ぎ乗り継ぎで長い時間待たされたが、兵庫の播州赤穂駅で快速よりもさらに速い「特急快速」的な名前の電車にタイミングよく乗ることができて、兵庫~大阪~京都は割とスピーディーに抜けられた記憶がある。家に着いたのは20時くらいだったかな、思ってたよりかは早かった。書くことがなかったから書いてなかった、ということだ。

日頃は「水に味なんてあるわけねぇだろうが」とシニカルな態度で名水を巡ってる自分だが、珍しく日記には「うまい」と書いていた。あの時の自分をぶってんなぁと小馬鹿にしつつも、まあそんな自分が書いたんならその感想にウソは無いんでしょう、ということにしておきたい。

ロケーションがいいんだろうな。最寄駅から海沿いの道をひたすら歩き、潮風を浴びに浴びて、そうしてたどり着いた名水。言うならば砂漠の中のオアシス的な存在だろう。海岸線のキワキワにあるのに一切塩っ気の無い真水が湧いているというのも不思議なところだ。

天の真名井は最寄駅からの道のりも絶景だったから写真を載せてアピールしている。何にもない、でも何かがある。あの時胸をかきむしられるくらいの郷愁に浸っていたことにウソはない。

今しがた写真を見返しても、水が透き通りすぎて水面の境界線が分かりにくい。鱒が泳いで波が立って、そこに光が当たって初めて水位を知る。集落の中にあるというのもいい。昔の人はこの水でスイカを冷やして食べていたんだろうな。

浜山湧水群の水汲み場にはなんで竜なのかということまでは書かれてなかったが「出雲 ヤマタノオロチ」で検索すると、かつてこの出雲の地でスサノオがヤマタノオロチを退治したという神話があると出てきた。だから出雲は恋愛成就の神社だけでなく竜も有名なのだ。

だからといって名水とヤマタノオロチをくっつけるというのも意味わかんないんだけどね。たまに他の名水や神社の手水でも「竜の口から水が流れている」というのを見かけるけど、それってゲボじゃんかって思っちゃう。竜のゲボ。その美的センスが分かんない。

だったらいっそのことありふれた井戸にでもしてくれたら、美的センスはないけど昭和のノスタルジーは出てくるよ。竜を眺めるよりも、井戸のポンプを上げ下げする方が興奮するもん。

これから名水を巡ろうと考えている方には、島根県の天の真名井をオススメしたい。駅から歩いて30分というのはまだアクセスがいい方だし、集落の静けさと水の美しさは、落ち着いた空気感なのに確かに心にざわめきをもたらしてくれますよ。