「簡単に辞めたはずが…」退職代行が人生を狂わせた瞬間
「退職の手続きをお願いできますでしょうか」
その短い一文を送信した瞬間、俺の2年間にわたる職場での生活は終わった。木下遼、25歳。社会人3年目にして、退職という決断をあっけなく済ませてしまった。退職代行サービスを使えば、面倒な手続きも、嫌な上司とのやりとりもすべて避けられる。まるで、LINEで誰かをブロックするかのように、関係を断ち切ることができる。
「こんなに簡単に辞められるなんて、便利だな…」
そう思ったのも束の間、この軽率な決断が俺の人生を大きく狂わせることになるとは、この時の俺には全く予想できなかった。
退職後、俺は新しい職場に大きな期待を抱いていた。今度こそ、自分の能力を活かせる場所だと思っていたし、前の会社で感じていたストレスからも解放されるはずだった。待遇も良くなるし、やりがいも増える、そう信じていた。
だが、現実は甘くなかった。新しい職場では、俺は即戦力として期待され、重い責任を背負わされることになった。体育会系の厳しい社風の中で、毎日の業務に追われる日々が続いた。残業も多く、次第に俺の心身はすり減っていった。
「前の会社の方がよかったかもな…」
そんな思いが頭をよぎることが増えていった。だが、もう戻るわけにはいかない。自分でその道を閉ざしてしまったのだから。
そんなとき、ふと思い出したのは「カムバック採用」だった。退職後3カ月が経過すれば、前の会社に再度応募できる制度があるという。それに希望を託すことにした。
カムバック採用に応募し、しばらくして返信が届いた。期待に胸を膨らませてメールを開くと、そこには短い文面が記されていた。
「誠に申し訳ございませんが、今回は見送りとさせていただきます」。
その一文が、俺の心を凍らせた。2年間、真面目に働いてきたはずの職場が、こんなにも簡単に俺を拒絶するとは信じられなかった。理由を知りたくて、担当者に電話をかけたが、返ってきた言葉はさらに冷たかった。
「以前の勤務時に、コミュニケーション不足が問題視されています」。
その言葉が頭に突き刺さる。何も言わずに退職代行を使って会社を去った俺の行動が、今になって大きな代償を払わせる結果になったのだ。
それから数週間、俺は再び転職活動を始めた。次こそは新しいスタートを切ろうと意気込んでいたが、どこへ応募しても面接までたどり着けない。ようやく面接に進めた企業でも、面接官の態度はどこか冷たく、雰囲気が硬い。
ある面接で、ついにその理由が明らかになる。
「木下さん、前職の退職について少し詳しくお聞かせいただけますか?」
面接官の冷淡な口調に、何か嫌な予感がした。俺が答えようとした矢先、面接官はさらに続けた。
「実は、あなたが退職代行を使って前の職場を辞めたという情報が社内に入っています。そのため、我々としても慎重に判断せざるを得ません」。
その瞬間、俺の心臓は止まるような感覚に襲われた。退職代行を使ったことが、どこからか企業に伝わっていた。まさか、それが理由で転職がうまくいかないとは思ってもみなかった。必死に説明しようとしたが、すでに面接官たちの態度は固まり、結局その面接も不合格に終わった。
その夜、俺はネットカフェの個室に身を寄せ、椅子に沈み込みながら、ぼんやりと天井を見上げていた。仕事を辞めたあの日のことが頭から離れない。あの時、ただ面倒を避けるために退職代行を使った。その行動が、今になって俺を苦しめている。
「もっと誠実に対応していれば…」
後悔が胸を締めつける。だが、時を戻すことはできない。企業は情報を共有し、俺の過去がどこに行ってもついて回る。逃げたつもりの過去が、今では俺の未来を押しつぶしている。
何度も転職を試みたが、結果は変わらなかった。どの企業も、俺が退職代行を使って辞めたという事実をすでに知っていて、それが壁となって立ちはだかる。
俺は結局、アルバイトでその日暮らしをする生活に追い込まれていった。ネットカフェに寝泊まりしながら、かつての同僚たちがSNSで輝かしい生活を送る様子を見て、ただ自分の選択を悔やむばかりだった。
「あのとき、なぜこうなったんだ…」
その問いに答えが出ることはなかった。すべては、あの一通のメールを送った瞬間から狂い始めていた。未来への道は閉ざされ、俺はただ日々をやり過ごすことしかできなくなっていた。
私のテーマは「50代で得たリアルな人生戦略」を発信中。ビジネスや人生に役立つヒントや気づきをお届けします。迷いや悩みが生まれた時は、一緒に地図を広げ、進むべき道を探していきましょう!
@morizo_23