【1分小説】焚火と読書
お題:「今日の本」
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焚火の光に照らされて、本の文字が揺らめいている。
周りには何もない。森のさざめきも、川のせせらぎも、命あるものの息遣いもない。ほの白く光る荒野が広がるばかりだ。
頭上にはいちめんの星が広がる。
血の雫のような赤い星、卵の黄身のような色の星、緑青色の星。
七宝のように艶めいている。
本のページをめくる。文字が震えている。
あやすように、そっとなでる。
いつの間にか、紙面が白く明るくなり、私は焚火が消えかけていることに気付いた。
息をひそめて、炎の最後をそっと見守る。火はゆっくりと、透けるように、空気に溶けるように消えていった。
私は読んでいた本を閉じてわきにおき、灰の中に手を入れ、四角い塊を取り出した。黒い灰を払うと、それは一冊の本である。
この焚火は、空のどこかの惑星に生きる命の火。命の火の燃えた跡には、一冊の本が残る。
これが今日よむ本。