【1分小説】今でも君は、かなめ団地のなかにいる
お題:「君と団地」
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
※サービス終了しています
---------------------------------------
かなめ団地が取り壊されるという。
何棟もの建物からなる大きな団地で、町のどこからでも見える、シンボルのような存在。
もう何十年も前に建てられたもので、昔は若い家族がたくさん移り住んできたという。
空っぽの部屋と、たくさんの家族の思い出を抱えたその建物は、今やブルーシートに覆われていた。
かなめ団地には、君が住んでいた。
団地の子供たちになじめず、いつも一人でいた君と、よく二人で遊んだっけ。
大人になっていくにつれて、僕は君のことが好きだと気付いた。
君が僕に告白してくれたのは、中学二年の夏だったっけ。
でも結局、僕らは一日も付き合うことはなかった。
君は罰ゲームで、僕に嘘の告白をしたのだ。
本気にしてるの? 怖いんだけど。君はそう言って笑ったっけ。
僕はかなめ団地に向かった。
あの場所にはまだ、僕と君との思い出がある。取り壊される前に、取り返さなくては。
101号室の鍵は開いていた。中は空っぽだった。中にはいり、押入れを開ける。
そこには、君の右腕がしまってある。