【1分小説】夕焼けとブラックボックス
お題:「箱の中の人体」
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
※サービス終了しています
-----------------------------------------------
「待って」
ちょうど箱のフタに手を掛けたところだった。
エミの張り詰めた声に、思わず手が止まる。
「なんだよ。早く終わらせるんだろ」
「嫌な予感がする」
理科室は夕焼けの赤に染まっていた。
夕焼けを裂くように、何か小さな影が音もなく飛び去る。コウモリだ。
「またバッシーに怒られるぞ」
「それ。そのバッシーなんだけど」
バッシーはこの教室の管理者、すなわち我々の理科教師である。
エミはいつになく真剣な顔をしていた。
「手、怪我してたよね」
「あー、そういや。包帯巻いてたな」
「気付かなかった?」
「何が」
「なくなってた」
「だから、何が」
「右手の中指」
俺たちの沈黙を埋めるように、下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。
「……どういうことだよ」
エミが唇を噛み、人差し指を向ける。
俺が手を掛けていた、黒い箱へ。
「ねえ、その箱、変な臭いがしない?」
嫌な予感。俺は電撃が走ったように、箱から飛びのいた。
「おい、何してる」
理科室のドアが開く音。
振り返ると、そこにバッシーがいた。