【1分小説】てんてけ転職
お題:「シンプルな転職」
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
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「こんな会社辞めます!」
そう叫んで、回転イスに座ったまま机を蹴飛ばした。
この会社は倒産寸前だ。だってこんなにも床が傾いている。
イスは止まることなく、下へ下へと下っていく。
「待てA君!」
部長がやはり回転イスで追いかけてくる。
首から社員証を外すと、カウボーイロープのように振り回し始めた。
部長は呪文を唱えた。
「 “君ハコノ会社ニ必要ナ存在ダ!” 」
「うっ……!」
僕は胸を押さえた。そして隙を突かれた。僕の首に、部長が投げたネックストラップが掛かる。
「 “仕事ノデキナイ君ヲ雇ウノハ、ウチノ会社クライダゾ!” 」
「がはっ……」
部長が僕の首にかかったネックストラップを引くと、僕の回転イスはそこで止まった。
もはやここまでか。
「A君ー!」
ヒュッと音がした。目の前を銀色のものが通り過ぎる。カッターだ。テプラで社用と貼られている。
首が自由になった。ネックストラップのヒモが切られたのだ。
「あたし、A君のこと、応援してるから!」
B子の声だ。
僕の回転イスは再び下り出した。
「B子! ありがとー! 今度一緒に」
バーン! 回転イスがある扉を突き破った。
飛び込んだのは新しい会社。
「本日より入社致します、Aです!」