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BOOK REVIEW vol.097 どこでもいいからどこかへ行きたい

今回のブックレビューは、phaふぁさんの『どこでもいいからどこかへ行きたい』(幻冬舎)です!

著者は、ブロガーで作家のphaさん。『どこでもいいからどこかへ行きたい』というタイトルに惹かれて、思わず衝動買いをしてしまった一冊です(今の私の気持ちにぴったり!笑)。phaさん流の「旅」や「移動」の楽しみ方を綴ったこちらのエッセイを読んでいると、phaさんと一緒にあちこち移動しているような感覚や軽快さもあって、すいすい読み進めることができました。(※こちらの作品は、2017年に刊行された『ひきこもらない』を改題し再構成されたものです。)

旅というのは日常を見直すための、頭の中の整理に役に立つ。
「旅で自分探しをする」と言うとちょっと笑われたりするけど、僕は全然ありだと思う。人間というのは周りの環境にすごく影響を受けるものだから、身を置く環境を変えてみると、自分の行動のどの部分が周りの影響でやっていたことで、どの部分が環境によらず自分がやりたいことなのかが見えてきたりするからだ。

『どこでもいいからどこかへ行きたい』P8より引用

エッセイの冒頭、8ページ目に書かれた一説にとても共感しました。時々、旅に出て普段と異なる環境に身を置くと、いつもより冷静に“自分自身”を俯瞰して見ることができるような気がします。それまで頭の中で鳴り響いていた雑音が消え、「私はどうしたいのか」という本音の部分が見えてくる…私もそんな経験をした日のことを思い出しました。

著者のphaさんが紡がれているエッセイは、行ってよかった観光地やその土地での思い出、おすすめスポット等を紹介するものとは少し異なります。この作品には、定住が苦手で、(ご本人曰く)誰よりも飽きっぽいphaさんが、いつもの日常から抜け出し、普段とは異なる環境の中で“自分なりの面白み”を見出しながら移動を続ける様子が綴られています。それはご当地グルメを楽しむものでも、ラグジュアリーな旅でもなく、“日常から距離をとるための旅や移動”です。移動は高速バスや青春18きっぷを使い、行き先はスーパー銭湯やサウナ、ファミレス、宿泊先は格安のビジネスホテルや漫画喫茶。「えぇ〜」と思われる方も多いかもしれませんが、そこにはphaさん流の面白がり方、言うなれば「哲学」のようなものがあり、エッセイの中でそのこだわりや考察を読むのがとても面白く感じました。

“日常から距離をとってよかった”と思えた経験は、実は私にもあります。今から4年前、毎週、大阪市内の書道教室に通っていた時のことです。その日はとある家庭の事情から(苦笑)、書道の後に自宅に帰らず、そのまま市内のホテルに宿泊することにしました。当時の私には清水ダイブばりに勇気のいる決断です。電車に乗れば1時間もかからずに帰れる距離なのに…電車代の何十倍もの金額を支払ってホテルに泊まる…。大きな罪悪感を感じつつ、それでも必要に迫られて一人でホテルに泊まる決断をしました。オープンしたてのまだ新しい部屋はこじんまりとしていたけれど、一人で考え事をしたり、リラックスして過ごすには十分。たった一晩でしたが、頭の中を整理でき、自分自身に向き合うことができたおかげで気持ちがスッキリしました。冒頭にご紹介した一説にも繋がるのですが、環境を変えたことで「自分はどうしたいのか」が見えてきたのです。これは一般的な「旅」とは違うかもしれませんが、翌日、自宅に帰った私には、“日常から距離をとるための旅”を終えたような爽快さがありました。

phaさんの紡がれる言葉には、どこか共感する部分が多くありました。また私が、「旅」や「移動」に求めるものを言語化してもらえたような気もします。本当は私も、phaさんのようにもっと気軽に「旅」がしたいのです。今までは、肩に少し力が入りすぎていたかもしれません。エッセイを読んで、「旅はこうでなければならない」という固定観念が良い意味で崩れ、縛りのない“自由さ”にわくわくしてきました。

このエッセイには、phaさんの「旅」と「移動」の楽しみ方とその考察、そしてさまざまな思い出が綴られています。一冊を読み終えたあと、不思議と私も旅から帰ってきた後のようにリフレッシュしていました。phaさんの文章を読みながら、あらゆる場所を一緒に旅していたのかもしれません。そして、やはり私もそろそろ旅に出たくなっていることに気づきました。それは海外旅行でも良いし、日常からちょっと距離をとるためのささやかな移動でも良い。この文章を書いている今まさに、「どこでもいいからどこかへ行きたい!」、そんな気分になっています。

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