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BOOK REVIEW vol.073 プレゼントでできている

今回のブックレビューは、矢部太郎さんの『プレゼントでできている』(新潮社)です!

心がぐらぐらする夜。布団の中に潜り込み、その日に購入したばかりのコミックエッセイ『プレゼントでできている』を読み始めると、いつの間にか涙が出ていた。最近流したどの涙ともすこし種類の異なる、心の澱までもが一緒に流れ落ちていくような浄化の涙。その涙は、忘れてはいけない大切なこと、あなたと私をつなぐ「目に見えない何か」を思い出すことができた、一つの“しるし”のようにも感じられた。

『プレゼントでできている』には、“いただきもの”が多い矢部太郎さんの、「もらうこと」と「あげること」にまつわる体験が漫画で描かれている。ほのぼのとした世界観の中には、生きていく上で避けては通れない、切なさや悲しみ、心の痛みなどもあり、ほっこりしたり、ふふふと笑ったり、切なくなったり、ホロリとしたり・・・一冊でたくさんの感情を味わうことができた。(どのお話も好きだけれど、とくに「モンゴルの絨毯」、「香川の鳥」、「祈り」が、優しくてあたたかくて切なくて心に残りました🥹)

イラストもエピソードもさらりとしていて、とてもシンプル。でもシンプルだからこそ、一つひとつのセリフや、セリフとセリフをつなぐ“間”、登場人物たちの表情、微細な心の動きなどに敏感になれたような気がした。一つのエピソードを読み終えた後、「ふんふん、なるほど・・・ん??」と何かに気づき、ページを遡って、もう一度心に浸透させるように読んだことも何度もあった。さりげなく真理を突いたエピソードの数々。シンプルさの奥にある“深さ”に感動した。

「プレゼント」とは、形のあるものばかりではない。矢部太郎さんのお話を通して、私たちは目には見えない、“心”も日々送り合っていることに気づいた。私も、私自身が今までに受けとった「プレゼント」を思い出してみると、有形無形問わず、本当に多くのものをたくさんの方からいただいている。その贈りものは、お金にはかえられない、かけがえのないものばかり。思い出すと、「ありがとうございます」の想いであらためて胸が一杯になった。。

人は決して一人では生きていけない。私自身も身近な家族や友人、遠く離れているけれどつながっている方々、そしてもう会えなくなってしまった誰か・・・多くの方から、今日もさまざまなものを受けとって生きている。「もらう」ばかりでも、「あげる」ばかりでも成り立たない。「もらってばかりいるけれど、、はたして私はちゃんとお返しができているのだろうか…?」と不安になるけれど、矢部太郎さんの考え方(ネタバレになるので詳しくは触れないけれど)に、何だかとてもホッとした。

読み終わるころ、ぐらぐらと心許なかった心は、根っこの方からじんわりと熱を取り戻し、頬で感じる涙もとても温かった。きっと・・・この命もプレゼント。今日も元気に生きていることに感謝して、今を最大限に楽しむこと。そうすることで、空の上にいるあの人ともつながれているような感覚になる。

あなたも私も、きっと「プレゼントでできている」。とても大切なことを教えてもらえた一冊だった。

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