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可能性の霧

深い霧の中に迷い込んできてしまった。
あたりは真っ白で、何も見えない。

わたしはひとり。
右も左もわからない。
どうすればいいのか。
どこにいけばいいのか。
目を凝らしても、何も見えない。

ポッケに入ってた。
スマホが入ってた。
これで助かる。

スマホで自宅への経路を検索する。
案内どおりに進んでいく。
右に左に、可能性の高い方へ。
言われた通りに進んでいく。

しばらく歩いたところで、立ち止まった。
自宅に帰っても、誰もいない。
私が帰りたいのは、自宅ではない。
私が帰りたいのは、あなたのところ。

あなたはどこにいるの。
はやく会いたい。

目を凝らしても、見つからない。
スマホで探しても、見つからない。

わたしはここにいるよ。
声を出していた。

僕はここにいるよ。
声が聞こえた。

でも、あなたの姿は見えない。
そっと、目を閉じてみる。

僕はここにいるよ。
声が聞こえた。

声を頼りに歩んでいく。
おそるおそる、歩んでいく。

そっと、温かい手に触れた。
わたしの心に手が触れた。

君を探していたよ。

目をつむったまま、歩んでいく。
あなたに触れながら、歩んでいく。

深い霧の中に迷い込んできてしまった。
あたりは真っ白で、何も見えない。

わたしはひとり。
そっと目を閉じる。

大切なものは目に見えない。
深い霧の中だろうと。
あなたがいれば、それでいい。

わたしの声は、霧は晴らした。




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