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子どもの頃のことを思い出す瞬間~「田中清代絵本原画展」学芸員日誌

皆さんは子どもの頃の記憶をどんな瞬間に思い出しますか?

子どもの頃に読んだ絵本を大人になった時に見かけると、その絵本を読んでもらったり、自分で選んだ時のこと、読んでいる時の情景などがよみがえる体験は皆さんしているのではないでしょうか。
ですので、絵本にまつわるお仕事をしている私は、子どもの頃のことを思い出すことは比較的多い方なのかもしれません。

ところが、現在、森のおうちで開催中の「田中清代絵本原画展」の絵本『くろいの』(偕成社)、『おばけがこわいことこちゃん』(ビリケン出版)、『トマトさん』(福音館書店)を原画を見ながら読んだ時、絵本の出てこない子どもの頃の記憶を次々と思い出しました。


『くろいの』

特に、2020年に日本絵本賞・大賞を受賞するなど様々な賞をとり人気の作品『くろいの』は、ファンタジーながら、自分が子どもの時にした不思議な体験を思い起こさせました。

『くろいの』は、主人公の女の子はがひとりで帰るいつもの道で、子どもにしか見えないらしい“くろいの”に出会い、一緒に楽しい一時を過ごすお話です。

『くろいの』 田中 清代/作  (偕成社)

女の子が“くろいの”におもいきって声をかけてみると、歩き出したのでついて行くと、ある家に入っていく。
くろいのは、お茶を入れてもてなしてくれ、案内してくれたのは特別な空間……。

“くろいの”はしゃべりません。
でも、そのしぐさから、ひとりでいる子どもの心に優しく寄り添ってくれている様子がよく分かります。

田中さんのインタビュー記事ブログなどを拝見すると、どの作品にもご自身の子どもの頃の記憶や体験が活かされていることがよく分かります。

絵本美術館 森のおうちの玄関では、今、“くろいの”がお出迎え。
館内のいろいろなところで皆さんをお待ちしています。


『くろいの』を読んだ時、私が思い出した光景

それにしても、田中さんは子どもの頃のことをなんて鮮明に覚えている方なのでしょう。
その表現がすばらしく描写が生々しいのか、見ている人(絵本の読み手)を自然に子どもの頃の感覚に戻させる力があります。

私は、こんなことを思い出しました。

たぶん、小学校3年の頃だったと思います。
地区の盆踊りのイベントに、いとこ6人と出かけた時のことです。
広場の向かい側に田舎道をはさんで建築資材置き場がありました。いとこの一人がなぜかその内の1本のパイプ(大人が親指と人差し指で円を作った位の大きさの穴)を覗いて「小さな骸骨がいる!」と言うのです。
おそるおそる私も覗いてみると、本当に横を向いておやま座りをした頭が大きめな骸骨らしきシルエットが!
なんとなく可愛い姿で、でも、もちろんぞっとする気持ちもあり……
穴をのぞいている間、賑やかな盆踊りの音が消えました。
いとこたちの「うわぁー」「きゃー、にげろー」という騒ぎで我に返り、一緒にその場から走り去りました。
後日、学校の帰りにどのパイプをのぞいてもそのシルエットは見つかりませんでした。

大人の目線で言ってしまえば、ツル植物が絡まったような長い間放置されていたパイプですので、枯れ葉や泥が入り込み、たまたま形作っていたに過ぎないのかもしれません。
でも、あの子どもの時の不思議なものに出会った感覚は、何とも表現しがたいものです。

この“くろいの”も森のおうちのどこかにいます


ご来館の皆さんの体験

こんなふうに、田中清代さんの作品を見ていろいろと子どもの頃のことを思い出したので、「田中清代絵本原画展」を見て下さった皆様にもどんな体験をしたことがあるか聞いてみようと思いました。

原画をみながら挑戦してもらうワークシートに「あなたがこれまでに出会った不思議なものや体験した不思議なことをおしえてください」という問いかけを入れてみました。
少しご紹介します。

●夜に白いふわふわしたものを見た。さわろうとしたら消えた。

●小学校の頃に階段で転げ落ちそうになったら、後ろから何かにひっぱりもどされた。

●10年くらい前、自宅の庭に雪が降りつもっていたが、3mくらいはなれたところに1つずつ足あとがあり、その他はそこにもつながっていなかった。誰も歩いていないのに……。

●旅した先で手袋を落としてしまったが、翌日違うところで偶然、その愛しい手袋とまさかの再会!

●夜に部屋の中でキラキラ光っている何かを見た。

このほか、“おばけ“や“夢”に関することを書いて下さった方が多くいました。
サンタクロースも出てきましたよ。

おばけは、『おばけがこわいことこちゃん』の原画をご覧いただいているので、皆さんそんな体験を思い出すこともあるのかなーと、楽しく拝見しています。

作者・田中清代さんが来館します!

これまで、ご紹介したように、田中さんの創作する絵本は、大人の目線からしたら子どもの頃の記憶をたどる素敵な作品です。
子どもにしたら、どんな個々のナイーブな心にに寄り添ってくれることでしょう。
子どもたちがなかなか言葉には表せない、ところを絵本にしてくれているのですから。

絵本ショップ・星めぐりにも田中清代さんの絵本並んでいます

こんな素敵な作品を届けてくれる作者・田中清代さんが来館してくださることになりました!

2022年1月23日(日)

こまかなお時間などは、改めて当館のHPやSNSでお知らせ致します。ご注目くださいませ。

そして、森のおうちは年末年始も開館しています!
ちょっと寒いですが、ぜひお越し頂いて、絵本の原画をご覧下さい。
ご紹介したワークシートもご用意してお待ちしております。

2021年10月8日(金)~2022年1月25日(火)
「田中清代絵本原画展」
【展示作品】
『くろいの』 田中 清代/作 (偕成社)
『おばけがこわいことこちゃん』 田中 清代/作 (ビリケン出版)
『トマトさん』 田中 清代/作 (福音館書店)

「森のおうち所蔵バーナデット・ワッツ絵本原画展」
【展示作品】
『マッチ売りの少女』アンデルセン/作
『くつやのマルチン』トルストイ民話、
『こまったクリスマス』R.ジョンソン/文
『リサの小さなともだち』ジョック・カール/作
『つぐみひげの王さま』グリム童話(以上4作、西村書店)

絵本美術館&コテージ 森のおうち
開館時間●9:30~17:00(12月~2月16:30閉館、最終入館は閉館30分前まで、最終日15:30閉館)
休館日●木曜(臨時休館10/20、11/13、12/15、冬休み2022.1/6~1/14、祝日振り替え有り)
入館料●大人800円 小・中学生500円 3歳以上250円 3歳未満無料
399-8301 長野県安曇野市穂高有明2215-9
TEL0263-83-5670 FAX0263-83-5885


学芸員・米山裕美


最後までお読みいただきありがとうございます。 当館“絵本美術館 森のおうち”は、「児童文化の世界を通じて多くの人々と心豊かに集いあい、交流しあい、未来に私たちの夢をつないでゆきたい」という願いで開館をしております。 これからも、どうぞよろしくおねがいいたします。