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サウナーの国から

涼しいからすでにかなり寒い…に移行している北国の初冬。
冷え込む夜は、サウナで温まりたくなる今日この頃。

ここはサウナ発祥の地と言われ、二千年以上も前からすでにサウナはあったらしく、"サウナ"というのも元々この国の言葉なのだ。
その昔サウナは、お産をしたり亡くなった人を安置したりもする神聖な所だったという。まさに、揺りかごから墓場まで過ごす場所だった。

この国のサウナは、日々の暮らしの中で当たり前に入るもの。
家にもサウナがあるのが一般的で、アパートメントなどの集合住宅で個別になかったとしても地下や最上階などには必ず共同サウナがあり、申し込めば家族単位で時間を割当てられる。
サウナには週1〜3回は入り、週末の土曜日はだいたいどの家庭もサウナの日だ。夏至祭やクリスマスなど大切な祝祭日には、体を清めて祝うためにもサウナへ入る。

森の中のサウナ小屋
サウナ小屋から
こんな木製のスロープを降りて湖や海で泳ぐ


いろいろなサウナ

この国のサウナは、サウナストーブの上にサウナストーンを積んで熱し、そこへ水を掛け蒸気を発生させて入るというもの。日本式のサウナに比べてかなり湿度が高いので、まさにお風呂に入っているような感覚。
この水蒸気の事をロウリュ(実際の発音は日本語で表記出来ない…)と言う。最近は日本でもそのままそう呼んでるらしいですね。ロウリュはサウナの蒸気を表す時にしか使われないサウナ専用の言葉。

サウナには裸で入るのが一般的。たまに混浴もあるけど、大部分は男女別になっているので、まぁ銭湯みたいなもんです。公衆サウナでは水着着用可のところもあるけど、それもまずはシャワーを浴びてから。
お尻の下にサウナマット(紙製の使い捨てを使うことが多いかな)を敷く。これは衛生面もあるけど、直にサウナベンチに座ると熱いからという理由もある。

そしてサウナにもいろいろな種類がある。

電気サウナ

一般家庭に設置されているのは電気でサウナストーブを熱するタイプで、一気に温度が上がり、ノボせるのであまり長く入れない割には、体の芯までなかなか温まらないのが難点。
現在、露からの石油・ガスなどの供給がストップしているため、この国の電気使用
量は大幅に上昇しており、これから冬にかけて深刻な電力不足が懸念されている。
政府は、サウナの利用回数を減らすように、電気代節約にもなるから自宅じゃなく公衆サウナまたは電気じゃないサウナを利用するように、と国民へお願いしてるし、"暖房1度下げて!サウナ控えてね" キャンペーンも展開中だ。
真冬に1日何時間か計画停電で電気が止まるのでは、とも言われており、いやいやいや!この国の極寒の冬にそんなことになったら、命の危機に関わりますって…通常セントラルヒーティングは24時間フル稼働だし。だからサウナくらい我慢しようや、という話になっている。そりゃそうだ…サウナに入らなくても死にゃしないって…。外国人である自分は今から戦々恐々としている。

薪サウナ

サマーハウスの外にはサウナ小屋が建てられていることも多く、それはだいたい薪をくべて温める昔ながらのタイプだ。こちらはもう少しゆっくりと温度が上がる。
この冬は深刻な電力不足の恐れがあると書いたけど、今夏は "今ならまだ間に合う!あなたのに庭にサウナ小屋を建てよう!" キャンペーンもあった。やっぱりこの国の民にとって、サウナにどうにかして入ることは重要らしい。
サウナ小屋は水辺に建てられているのが一番理想的で、熱くなったら湖や海に飛び込んで体を冷やし、サウナと交互に入るのを繰り返していると体がポカポカと温まってくる。
ただしこれ、真冬でも極寒の水に飛び込むのだ。もしこの国で入る機会があったとしても、心臓の弱い方はやめておいたほうがいい。
私も初めての時は、冷たいの通り越して痛い!ムリッ!って尻込みしたけど、勇気を出してサウナと交互に繰り返していると全然OK!汗かいて来たよ!ってなりました。
さらには、サウナの合間に雪の上をマッパで転げ回ったり、湖や海に氷が張っていようとも穴を開けてまで入る民もいる。毛糸の帽子を被り手袋して、水着かマッパで入っている …(驚愕)。
水温がマイナス10度以下になろうと寒中水泳してる民もいるし、この国の民はどこまで寒さに強いんだよ…と思う。

スモークサウナ

今では国内でも滅多にお目にかかれない、サウナの原型とされるスモークサウナというのもある。サウナ小屋に煙突はなく中に煙を充満させて入る。
まさに燻されるようなサウナで、出たあとは髪にも体にもスモークの匂いが残る。
スモークサウナは準備するのに8時間位かかり、夜に入りたければ朝からずっと薪を絶やさず燃やし続けなければならない。誰にでも扱えるものではなく、火事にもなりやすいため熟練者が準備しないと危険らしい。
私は今まで4回くらい入ったことがあるが、年季の入ったスモークサウナ小屋内部の壁は煤で真っ黒になっており体が触れると煤がつき、スモークの香りに包まれていると自分が燻製にされているような気分(笑)。実際にこの煙を利用して一緒に魚や肉の燻製を作ったりする人もいるそうだ。
温度は低めで優しくゆっくりと温まるので、じっくり長く入れる。
この国の民といえどもなかなかスモークサウナに入る機会はないので、スモークサウナの香りのするサウナ用アロマオイルなども売られている。水に入れてサウナストーンに掛けるとスモークサウナの雰囲気が味わえる。


誰かが海辺に勝手に(いいの?)設置したテントサウナ。
誰でも入っていいよ!と書いてあった。

サウナのあるところ

この国では、サウナはありとあらゆる場所にある。
自宅はもちろんのこと、街中にも公衆サウナやホテル内にも必ずある。市民プール内などにも併設されており、泳いだあとはサウナで温まる。私のお気に入りの市民プール内にはミストサウナがあり、アロマオイルのよい香りに癒されリフレッシュ出来る。このミストサウナに入りたいが為にプールに行く感じ。
市の図書館が新しく建設された時も、サウナが併設されるか市民の間で話題になったが結局作られなかった。非常に残念だ!という声も多かったが、なんで何処にでもサウナが必要なんだよ!という貴重な反論もあった。
国立公園内にもサウナ小屋が建っているし、クリスマスマーケットや野外市場などにも移動式サウナが来ている。

仕事での商談やビジネスミーティングもサウナでしたりする。まさにお互いを曝け出し腹を割って話すのだ(笑)。
この国の民の気質はシャイで打ち解けるまで時間がかかるのに、サウナではいきなり裸のお付き合い、というのも面白い気もする。
まだ夫と付き合ってるのか?どうかな?くらいの時から、すでにサウナには一緒に入っていたなぁ(笑)。交際を始めたのがいつなのか?付き合って下さい、なんてはっきりとは言わずにいつの間にかそうなってるのが、この国の民の付き合い方なのだ。プロポーズもなかった…。
家族に限らず、恋人同士や友達同士で一緒に入っておしゃべりしたり、サウナはコミュニケーションの場でもある。

たいていサウナ小屋の中は薄暗く、入り口に蝋燭の灯があるだけということもある。一糸纏わぬ姿になり、白樺の葉を束ねたヴィヒタで体をバシバシ叩き血行を促すと、白樺の葉の匂いがほんのりと香る。
ジュワーッ、ジュワーッというロウリュの音と水蒸気に包まれ、じわじわと汗をかきながら、仄暗い空間でサウナベンチに座っていると、原始に還ったような気持ちになってくる。
何千年という時の中で、この国の民はこうしてずっと同じようにサウナに入ってきたのだなぁ…と、遥かな時の流れに思いを馳せ、やがては何も考えなくなり、目を閉じ瞑想状態に入る。
サウナの中にはサウナの精霊がいるとされ、サウナストーンに混じって置かれた、
ちょっと不気味っぽい顔の石で作られた精霊の小人が、気付くとじっとこちらを見ていたりもする。

僅かな明かりだけの仄暗いサウナ小屋は落ち着く


ところで日本のサウナには、熱波師ねっぱしという、濡れタオルをぐるんぐるん振り回してロウリュを上手い具合に拡散してくれる人がいるそうですね。きめ細やかな気配りが出来る日本人らしいサービスだなぁと思います。
こちらではそんな親切な人はいないので、サウナストーブの近くに座ってる人が柄杓でサウナストーンに水をどんどん掛けたりすると、階段状になっているサウナベンチの座っている位置によっては、ロウリュがガンガン顔に直撃し、熱波に一瞬窒息しそうになったりする。
"ととのう"どころか一気にノボせそうになってしまう。
そんな時はいつも、ああ、熱波師ねっぱしが居てくれたらなぁって思ってしまう。
そもそもこの国の民は、"ととのう"とか全然気にしちゃいないし (苦笑)。
防御策として私はなるべく後ろ向きに座るようにしている。どんな格好で座ろうと特に何も言われないので、横向きや立て膝やら、手摺に脚を乗っけたり、スペースに余裕があれば寝そべる人もいる。
日本人から見るとちょっと行儀悪い感じがするかもしれない。
まぁフリースタイルっていうのが、この国らしいなとも思う。

サウナはリラックスして疲れをとるために入るわけで、中に入る前にはシャワーを浴びるなど最低限のルールさえ守れば、サウナは自由に寛いでいい場所なのだ。




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