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秋の夜長にジャズを

引越し後、ずっとそのままだったアンプとスピーカーをやっと繋げた。
最近、音楽を聴くのはストリーミングが主になり、スマホで再生し何処にいてもワイヤレスイヤホンで聴いているため、スピーカーで聴くことは稀だ。

30代に入った頃に、ありったけのお金をはたいて手に入れたJBLのスピーカーとMarantzのアンプとCDプレーヤーは、この国へ移住の際にもどうしても手放せず日本から船便で送った。
しかし移住後あっと言う間に息子が生まれ、育児に追われゆっくり音楽を聴くこともままならず、やがてオーディオセットは埃を被ったままになっていった…。

夫も息子もいない週末の夕方、何年ぶりかでゆっくりスピーカーで音楽を聴こうと思い立ったものの、まずは配線からしなければならなかった。
Marantsのアンプは激重なので、オーディオラックからCDプレーヤーと一緒に持ち上げたらギックリ腰になるかと思ったわ…(汗)。
なんとかセッティングが完了し、ほったらかしだったJBLのスピーカーから、サラ・ヴォーンのしっとりとした歌声と、深みのあるテナーサックスやトラッペットの音色、ウッドベースのこもったような低音が流れて、ああ、やっぱりスピーカーで聴くジャズっていいなぁ、としみじみと思った。

今住んでいるのは20世紀初頭の百年以上も前に建てられたアパートメントで、壁が分厚く天井も3メートル近くあり高いので、音響が良い気がする。
音の振動が部屋中に広がり、空気を震わせてゆく。
体の奥までゆっくりと音が沁みこんでゆく感じ。
これはイヤホンでは体感できない感覚だ。

Sarah Vaughan

「Lullaby of birdland」

自身の名前を冠したアルバム「Sarah Vaughan」は名盤の1枚。
アルバム中の全ての曲がいいけど、中でもジャズ・スタンダード「Lullaby of birdland」は別テイクも収録されている名曲。
このアルバムは30歳頃に録音された初期のものだけど、サラ・ヴォーンのヴィブラートの効いた少しハスキーで情感豊かな歌声は、すでに艶がある。


「Autumn Leaves 枯葉」

1982年「Crazy and Mixed Up」に収録。こちらは脂の乗り切った50代の歌声。
最後までスキャットのみで歌い上げるサラの、ドラマティックでパンチの効いた迫力のヴォーカルが堪能できる1曲。
3オクターブ以上の声域があると言われている、滑らかに音の階段を駆け上がっては下りるようなサラのスキャット。ジャズヴォーカリストの最高峰と言われるのも納得の歌声。
ジョー・パスのスリリングで流れるような超絶早弾きギターにも魅せられます。


Ella Fitzgerald

「Misty」

まろやかで、優しく包み込まれるような心地良さを感じさせるエラの美声。

Ella Fitzgerald, Louis Armstrong

「It Don't Mean A Thing」 (If It Ain't Got That Swing)

エラの軽快で嵐のようにシャウトするスキャットは圧巻。デューク・エリントンのビッグ・バンドとの掛け合いも素晴らしい、ノリノリのスウィング・ジャズ。
途中から加わるサッチモのダミ声との組み合わせの妙。
お客の掛け声や手拍子も臨場感があり、思わず体が揺れてくるナンバー。

「Cheek To Cheek」

エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロング(サッチモ)のコンビは和む。
まったく対照的な声質の二人の間にしか起きない魔法は、最強のデュエット。
「Ella and Louis」は、寝る前に聴くとリラックスして、良い夢が見られそうなアルバム。


Holly Cole

「Calling You」

映画「バグダッドカフェ」の主題歌でヒットした「Calling You」。この曲が流れることで、さらに映画のストーリーを味わい深いものにしていたと思う。
本家Jevetta Steeleの歌もいいけど、ホリー・コールのジャズバージョンも沁みます。

こうして並べてみると、ジャズはどちらかというと女性ヴォーカルが入っている曲が好みだけど、演奏のみの曲もいくつか挙げてみよう。


Miles Davis

「Round Midnight」

セロニアス・モンク作曲のジャズ・スタンダード「Round Midnight」。
ジャズの帝王、マイルス・デイヴィスと言えば、この曲は外せないでしょう。
マイルスのクールな熱のあるトランペットに痺れる。
この曲は、ありとあらゆるジャズメンが演奏してるけど、やっぱりマイルスがトップを独走。セロニアス・モンクのオリジナルより個人的には好き。
終盤のジョン・コルトレーンによるテナーサックスのソロも聴きごたえがある。

「So What」

「Blue In Green」

夜聴くのにぴったりな、1959年の名盤「Kind of Blue」。
マイルスの気迫というか目力も凄い。
演奏メンバーも、テナーサックス:ジョン・コルトレーン、アルトサックス:キャノンボール・アダレイ、ピアノ:ビル・エヴァンスと名プレイヤー揃い。

熱狂的マイルス・ファンだった父親に、子供の頃は家や車の中でマイルス・デイヴィスを大音量で聴かされていた。当時は、顔が怖いオヤジ…というのが一番の印象で、大人になってからやっとその良さがわかった。
父は家庭を顧みず趣味に走り、ついでに女性にも走り…。「祭りに行くぞ!おまえもサボれ」と、突然迎えに来た父に学校を早退させられたり、彼女とのデートに娘も一緒に連れて行ったり、なんちゅう親父だろうか。自由奔放、好きなように生きて面白いところもあったけど、親子となると話は別なわけで…事業に失敗し借金取りに追われた挙句に自己破産したり、家族は迷惑のかけられ通しで現在は音信不通…次に会うのは葬式の時かもしれない。冗談抜きで。
"So What?"はマイルスの口癖だったそうだけど "それがどうした?知ったこっちゃないよ" というのはまさに父らしい言葉…。妹に言わせると、親の自覚もなく父親にも成りきれなかった人、でした。
そんな父との苦い思い出でもあるマイルス。

フランスのルイ・マル監督の映画「死刑台のエレベーター」で音楽を担当したマイルスのサウンドトラック・アルバムも、ゾクゾクするほどクールでカッコいいんですが、長くなるのでそちらは映画の方でいずれ記事に出来たらと思ってます。

Wes Montgomery

「Round Midnight」

マイルスの「Round Midnight」とは一味も二味も違う、我が道をゆくウェス・モンゴメリーのバージョン。
秋の夜長に一人しみじみ聴きたいジャズということで選んでみました。
ホーンなしでシンプルに聴かせるウェスのギター演奏も良き。
ジャズギターの礎を作ったとされるウェス・モンゴメリー。彼が編み出したとされるオクターブ奏法は、1オクターブ違いで同じ音を同時に鳴らすという一人ユニゾン状態の弾き方で、独特のふわぁっとした浮遊感があり、メロディを際立たせている。

「Angel」

アルバム「A Day in the Life」の中で唯一のオリジナル曲「Angel」はウェスらしくメロウで洒落てる。バックのオーケストラはいらなかった、という感想を見かけたけど、確かにシンプルにパーカッション、ベース、ピアノくらいの方がウェスのギターが引き立ってよかったかもしれない。


ちょっと長くなりましたが、まだまだ紹介したい「夜に聴きたくなるジャズ」第二弾もいずれ記事に出来るといいな。

それでは今日はこの辺でひとまず、さいなら、さいなら、さいなら〜
よい週末の夜を。


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