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わたしを離さないで 三浦春馬ドラマレビュー

三浦春馬くんが旅立ってからのファンである私は、このドラマも見ていなかった。
春馬くんを知らなければ、一生見ることはなかったかもしれない。

原作との違い

カズオ イシグロは好きな作家だ。
ドラマ化の話を当時ネットニュースで知った時は、正直、なぜ日本を舞台に?この小説の世界観を表現するのは無理があるのでは?と思った。
実際ドラマを見てみると、登場人物の設定やエピソードには、だいぶ原作にはないものが盛り込まれ、着想だけを得た別物という感じだけれど、原作の淡々とした語り口と比べ、ドラマ版の方がより情緒的で登場人物への感情移入もしやすい。
原作を読んだのはもう何年も前で細部が曖昧になっていたので、レビューを書くに当たり再度読み直してみると、いろいろな気づきがあった。
原作では、友彦にあたるトミーとルース(美和)がいつの間にか付き合っていて、キャシー(恭子)の葛藤があまり感じられない。
だから、ルースがこれまで二人の間に割って入っていた事を詫び、キャシーとトミーに二人で猶予を勝ち取ってほしいと言うくだりも、原作はやや唐突な感じがして、ドラマの方がそれまでの経緯が丁寧に描かれていたので心に響いた。

トモと三浦春馬

物語の中で春馬くんたち役者が演じるのは、人間と姿形は同じだけれど人間ではない者たち。ドラマでは、生身の人間が演じるからこその、小説にはない体温のようなものが感じられた。
子供の心を持ったまま成長したような、純粋なあまり傷つきやすいトモ(友彦)という人物像と春馬くんがシンクロして見えて、痛々しい気持ちになる。
自分の出番がない幼少期のシーンも現場に行っていただけあり、子役から成長して青年期の春馬くんに変わっても違和感がなく、仕草や癖まで幼少期に寄せているのは、演技力のなせる技。

美和のルーツに会うため ”のぞみが崎” に皆んなで出かけた帰りの車の中で、トモと恭子が、誰にも気付かれないように無言のまま指を絡め、そっと手を握り合うシーンは、とても印象的だ。
春馬くんは、言葉ではなく指の動きだけの表現もとても上手い。
二人の秘めた気持ちが伝わってきて切ない。
このシーンが後の、最後の提供にむかう直前に、美和が作っていた "握り合った手の石膏像" に繋がって、3人の愛憎が交差する人間模様に深みを与えていた。

春馬くんの、あの、くしゃっとした笑顔、
無常に打ちひしがれた虚ろな表情、
闇の中で慟哭する姿を見ていると、
どんどん話に惹きこまれ、仄暗い架空の世界にどっぷりと浸った。

“夢なんて叶うから持つものじゃない、持ってることが多分幸せなことで…。” というトモのセリフも、春馬くん自身が言っているかのような気がした。
これまで春馬くんがしてきた沢山の努力は、辛く苦しみしかなかったわけではなく、夢に向かっていた時間こそがきっと、充実して幸せだったのではないだろうか。
彼が生きてきた軌跡は、誰にも奪うことはできないし、これからも消え去ることはない。

“生まれてきてくれて、ありがとう。ありがとうございます。” と言った、龍子先生の言葉に涙が止まらなくなった。

Julia Shortreedが歌う主題歌「Never let me go」も、儚く切ないメロディーが美しい楽曲で、物語に寄り添っていた。

一筋の光が微かに見えたかのようなラストも、余韻が残った。






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