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遅ればせながら、ドラマ「silent」に心奪われた

巷で話題のドラマ「silent」。
かつて付き合っていた彼女と、失聴し音のない世界で生きていた彼が、再会するというラブストーリーから、これは令和版「愛していると言ってくれ」なのか?と、当時のリアル視聴世代だった自分は勝手に決めつけていた。
私も「愛していると言ってくれ」には泣いた。2020年に特別版として動画配信された時は、25年振りに若かりしトヨエツにノックダウンされ、切ないストーリーに身悶えした。流石にこちらの在住日本人の中でも観たよ!という友人がいて、白シャツにサンダル履きのトヨエツはやっぱり色気がありカッコええ!と盛り上がった。
しかし私は天邪鬼なので、話題沸騰の「silent」にはあまり興味がなかった。
それなのに、ちょっと時間がある時にどんなもんか試しに1話だけと観始めたら、まんまとハマってしまい、7話まで一気に観て、8話が待ち遠しくなってしまったじゃないですか… 苦笑。


silentというタイトルだけあり、音のない世界をストーリーだけでなく映像でも最大限に表現し、登場人物の関係性や気持ちの変化、時間の流れを丁寧に描いている。

具体的に、良かったところを上げるとすると

セリフで説明し過ぎない

何気ないやり取りや会話に、気持ちが滲んでいる

登場人物のふとした表情や目線で語る

心に直接訴えかけてくるような、カメラワークがエモい

ここぞというタイミングで流れるヒゲダンの主題歌も、毎回グッと胸に迫る

以上の点から、昨今増えている倍速視聴なんてしたら、情緒もへったくれもなく、全く展開も理解出来ないと思われる。

ワァーっと感情を揺さぶられたシーンを上げると

そうつむぎが8年ぶりに再会した場面で、興奮して矢継ぎ早に話しかけてくる紬に、動揺し呆然とする想が、今まで言えなかった苦しい胸の内を、声でなく手話で絞り出すようにぶつける。
"何言ってるかわかんないだろ?"
"俺たち もう話せないんだよ"
混乱し、やがて想の耳が聞こえないことを理解する紬。
泣きながら、どうすることも出来ない二人のもどかしさが伝わって来たところに、ヒゲダンの主題歌「Subtitle」が流れ、観ている方も胸を締め付けられ号泣。

今は紬の恋人である湊斗みなとは、高校生の時から紬が好きで、親友の想がいなくなった後やっと思いが叶い付き合い始めたというのに、再会した紬と想を前にして自ら身を引く。
失意のなか眠りについた湊斗が朝目覚めると、横には紬が眠っていて、愛しそうに見つめると、 "寝起きでいきなり目があった。ビックリ" と紬が話しかけてくる。
この時のカメラが、ベッドに横になり向かい合っている湊斗と紬の目線になっているところがエモい。
"俺じゃないと思ってたから、ずっと。ここにいるの"
あれ?別れたのは夢だったの?と思っていると、また朝のシーンになり、ベッドに横たわり誰もいない隣を見つめている湊斗…切ない。

ふっと音が途切れたり、画面が暗転するという手法も余韻を残す。

想役の目黒蓮くんも、紬役の川口春奈さんも、繊細な演技が心に響いてくるのだけど、湊斗役の鈴鹿央士くんが予想外に良い。いつも優しくて穏やかに微笑んでいる湊斗は、どこか自信無さげで、なんかこう庇いたくなるような儚さも感じさせる。

そして、私的に一番凄いと思ったのは、奈々を演じている夏帆さん。
生まれつきの聾唖者で手話だけで話すという役どころなのだけど、手話に生き生きとした表情があり、自然に感情を乗せていて、とても惹きつけられた。
紬と再会してから、少しづつ自分から離れてゆく想に対する切ない想いを、言葉は一切使えない中で、表情や目線、仕草で雄弁に表現するその演技力が素晴らしい。
自分が想にしたように、今度は想が紬に手話を教えていることについて、
"好きな人にあげたプレゼント、包み直して他人に渡された感じ"
という奈々のセリフは秀逸だった。
手話は、奈々にだけ伝わればいいから、と想は言っていたのに…。

想と声で話す夢を見た奈々に、想も同じような夢を見て "奈々も声を出して話していた" と言う。
奈々の夢には音がないけど、想の夢の方で "ちゃんと声出てるならよかった、私にも想くんの声聞こえてるならよかった" と笑う、奈々の恋心が意地らしい。


今の時代は、耳が聞こえなくても音声文字変換アプリやLINEを使い会話したり、「愛していると言ってくれ」の頃(ファックスでやり取り)にくらべると、いろいろな方法でコミュニケーションを取れるようになって良かったと思うけれど、やっぱり相手の顔を見て話したい、という気持ちはいつの時代も変わらないんだな。
紬が手話を習い始めたのも分かる気がした。
自分の気持ちを直接伝えたいし、相手の言いたいこともわかりたい、という思いが伝わってくる。


想がいなくなったから付き合ったわけじゃない、湊斗のことが本当に大好きだったのに、別れることになってしまった紬。
言葉が通じるのに、湊斗に気持ちが伝わらない、と紬が言うシーンも印象的だった。

少しづつまた距離が近づいてゆく紬と想。
頑張って声で話そうとする想に、
"無理しなくていいよ。しゃべんなくても好きだから"
と言う紬を、聞こえてないのに抱きしめる想。
言葉が通じなくても、伝わる時はちゃんと思いは伝わるのだ。

8話では紬の手話の先生である春尾(風間俊介さん)と、かつて付き合っていた奈々の出会いが描かれた。
春尾はただ喜んでほしくて奈々から手話を教わり、言葉が通じるようになるが、やがて気持ちがすれ違い、二人は別れてしまう。
こちらも8年ぶりに奈々と再会した春尾が、紬と想の二人は上手くいくと思う?と聞くと
"上手くいくといいなと思ってる"
"聞こえるとか 聞こえないとか 関係ないって 思いたいから"
と答えた奈々は、かつての自分たちを思い返しているようだった。 


紬と想、湊斗、奈々、春尾、それぞれの心はこれからどこへ向かってゆくのか。
繊細に紡がれてゆく物語を最後まで追いたくなった。






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