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『fishy』胡散臭くても、愛。


金原ひとみさんの小説『fishy』を読みました。

久しぶりの金原さん。
今回の毒も強かったなぁ。

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金原さんの世界観は苦手な人は苦手だと思うのですが、私はほぼ読んでいます。

現実では目を逸らしたくなるような、嫌悪したくなるような、スルーしたい場面も描かれています。
小説だからこそ、敢えてそういうものに挑みたい。

女性たち3人が主な登場人物です。

28歳の美玖は独身でどこか危なっかしい恋愛をして、しっぺ返しで手痛い目に合っても、意外と飄々としている。

32歳のユリと37歳の弓子は家庭があり、子どももいる。

なんとなく幸せそうな2人も見えない秘密を抱えている。

ユリは正論で論破して周囲から浮いてしまうようなアクの強い女性。
同時にどこか薄暗い過去を秘めているような、謎めいた人物でもある。

弓子は本音を飲み込んで、本当に大切なことをうまく伝えられない。

夫婦仲は危機を迎えながら、母親としての体面をなんとか保とうとして疲弊する日々。

それぞれの、仕事、恋愛、結婚、育児。

3人は友情で結ばれている訳ではなく、胡散臭い刹那で空虚を埋める関係だ。

一同に会すれば、歯に絹着せぬトークで応酬し合い、持論を展開する。

相手をディスり、蔑み合い、共感もない。
言いっぱなしの言葉が浮遊する。

ただ、自身の存在理由を見つけようとしているかのごとく、ジタバタと足掻いている。

女たちの、反吐の出るような秘密の共有。
ただそれだけの、繋がり。

それなのに、この女たちや、付随する男たちの狡猾さに、どこか共感を覚えるのは何故だろう。

私もすでに自らを振り返るほどには、長く生きてしまった証左なのかもしれない。

泥臭く這いつくばっていたって、同じように明日は来る。

そうしてまた、毒を吐きながらも、この生にしがみつくだろう。

誰の人生も、それぞれにきっと、意味がある。
それがすれ違いの中、孤独に取り残されるだけだ。

純愛より不純な愛に真理を求めてしまう。
そんな歯痒い気持ちを掬い取ってくれるかもしれない。





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