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『原作者NFTの歴史的転換点になるか『カノジョも彼女』作者、「書店特典のイラストは基本的に原稿料が出ない問題」解決に向けた実験』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.9.28

『カノジョも彼女』作者、「書店特典のイラストは基本的に原稿料が出ない問題」解決に向けた実験が話題に

 ヒロユキさんの言う「書店特典のイラストは基本的に原稿料が出ない問題」とは、漫画などの新刊発売時に描き下ろしのイラストカードなどが付く書店特典のための作業が、基本的に無償での作業となっていることを指しています。
 そこでヒロユキさんが考えたのは、「そのイラストを色紙に描き、販売することで原稿料を発生させる」というもの。

新刊が出た時の販売促進活動の一環としてノベルティを制作するのはよくある話ですが、そのノベルティの原画作成には原稿料が出ない商慣習はシンプルに改めるべきだろうと思います。

出版社からすると「自身の作品の拡販につながるのだから」という理由付けなのかもしれませんが、利益は出版社も得ます。また新人など出版社の方が強いケースでは異論が言えないパワハラ臭もします。

今回は作者自身がノベルティの原画をヤフオクで売って原画作成の価値づけするという「実験」を行っていますが、IPビジネスの仕組みを考えると結構ギリギリなことかもしれません。

今回の「実験」は、もっと年月が経った後に、既存媒体での流通がメインなIPがNFTに参入するにあたっての試金石になる実験だった、と振り返られるのかもしれません。


■版元は今回どこまで認知・許可したのか?

版元と作者の契約関係は個々違う場合はありますが、基本的に版元がIPを持ち、何にどう使っていいかを決定する権利を持ちます。原作者がその決定に意見できるか、否決できるかなど関与の程度は個々の契約に依ります。

今回のケースで言うと、新刊の販促グッズを作成することは出版社側の発案と作者への原画依頼があって始まっているものですが、その原画を作者個人が販売する権利はどこまで認められるべきものでしょうか。

正確には

「そのイラストを色紙に描き、販売することで原稿料を発生させる」

にあるように、販促グッズ用に描かれた原画そのものではなく、同じ絵を別の色紙に描いたものです。絵柄は同じですが別のアイテムです。

販促にまつわって描かれたもので、結果的に販促キャンペーン自体を宣伝する効果もあったでしょうから版元としても黙認もしくは公認しているのだろうと思います。

しかし作者本人でも原作にまつわる関連グッズを勝手に商品化する権利はないのが一般的なIPの契約モデルです。今回の「実験」はよくトラブルにならなかったな、とヒヤヒヤします。

ヒロユキさんの作品はオリジナルで、コミカライズや原作付きのように複数の権利者が絡まないため、スムーズに実験が行えた側面もあります(後略)

加えて出版社の版元としての理解や協力があってのことでもあるはずです。販促物に原稿料を出さない商慣習の是正が本質的かもしれませんが、作者個人の営みとして関連グッズの直接販売を許可した前例を作ったのは結果的に大きなことです。

販促物の原稿料を払うようにすることよりも、同業者・同業界はもとよりエンタメIP業界へ大きく波及する可能性があると思っています。


■クリエイターがエンパワーされるweb3の潮流

この実験結果にネットでは「原作者自身から出品されると安心感が違う」「コミックスの特典がネットで転売されるなら作者自身が本物のサイン色紙売った方が良いよね」「本当はちゃんと原稿料が出るのがいいのだろうけど出ないのならこうやって漫画家さんにお金が還元されるシステムがあるととても嬉しい」と好意的に評価する声が続出。

今回の原画色紙が原作者自身からではなく出版社から出ていたらどう見えていたでしょうか?

問題提起と課題解決という「正しい」レールに乗ったものには見えず、通常の「商品」に見えていたはずです。

冒頭で「ノベルティの原画作成には原稿料が出ない商慣習はシンプルに改めるべき」と言いましたが、原稿料を払う代わりにグッズ販売権は引き続き版元が持つという関係が継続するより、一定のグッズ化権・グッズ販売権を原作者自身が留保する方が今後のためによいかもしれません。

流れとしては版元やプロモーターなど周辺ビジネスが主体になるより、作者自身・クリエイター本人が主体になる方が好まれるのが今の流れです。

しかしクリエイター本人の力だけでセールスマーケティングができるものではありません。周辺ビジネスの人たちとチームを組み、専門分野ごとに分業することで効率よく広げていくことが必要です。要はバランス。

さらにweb3になるとファン自身がセールスマーケティングに関わり、レベニューシェアも受けられる可能性が模索されています。

版元や周辺ビジネス関係者と原作者の間のバランスだけでなく、ファンも交えたバランスを整えて効果を最大化するのがトレンドだと見た時に、まずは原作者すら「原稿料が出ない」状況を変える一歩を踏んだのが今回のケースだと捉えると、その先にはファンも「推し活の報酬が出ない」状況を変える一歩を踏むには今回の出来事は必然必要だったことだと位置づけられそうです。


■IPの権利バランスはweb3で変わるのか?

さてNFTの話。

今は買える人が少ない、フィジカルグッズの方が欲しい人が多い、という現状から色紙に手書きの現物が販売されましたが、NFTを買える人がこれからもっと増えるのは間違いないですし、原画自体がフルデジタルという作品もより増えてくるはずです。(手書きできない作者も既に大勢いたりしますし。)

NFTであれば、
・転売されてもロイヤリティが入ってくる
・流通させるのも瞬時で現物を郵送する手間もコストもない
・世界共通通貨としての暗号資産で売買され、世界中がマーケットになる
というメリットがあります。

しかし既存の有名IPがNFTを出していない印象があります。世界で人気の漫画やアニメ作品の関連グッズがほとんどNFT化されていません。

グローバルに販売する前提ならマーケットサイズが小さいわけでもないはずで、やはり版元の判断・大人の事情なのだろうと推察します。

原作者自身もNFTに興味を持っている人は増えているんじゃないかと思います。しかし原作者個人の判断で人気作品のNFT化ができないのが現状。

同業の漫画家からも「ヒロユキ先生の方法が許容される流れになると良いな」など共感する声も見られます。

ヒロユキ先生の方法が許容されるというのは、版元が原作者自身のグッズ化権・グッズ販売権を許諾し、ファン・市場もそれを好意的に受け入れている状況を指します。

今回は版元の「許諾」の上でファン・市場が「許容」したケースになりました。これが加速すると、原作関連NFTを作者自身が販促キャンペーンと連動してなら出せるのが「新たな慣習」になるかもしれません。

これまでノベルティの原画作成には原稿料が出ない商慣習を続けてきた業界に対するカウンターです。

原作者自身が販促NFTを出すことが当たり前になった未来、振り返るとキッカケは今回のヒロユキ先生の色紙だった、なんてことが起きる。かもです。

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