電子書籍、売れてる

僕はいま出版関係の仕事をしていて、本に触る機会が良くある。
その時に毎回思うのは

「本って繊細だな」

ということ。


紙は少しでも擦ると汚れてしまうし、帯も破れがちだ。
真っ白いデザインの本に汚れが付いたりすると、もう売り物にはならなくなる。中身には何の問題もないのに、だ。

なので高級なダイヤモンドを触る時のように、仕事中はものすごく丁寧に本を扱っている。まぁダイヤモンド触ったことないんだけど。


なぜこんな話を始めたのかというと、先日このようなツイートを目にしたからだ。

このアンケート結果によれば、紙で読書をする人が8割で電子書籍が2割となっている。

僕はこれを見て「5人に1人は電子書籍?意外に多くない?」と思った。

僕が思っている以上に電子書籍は普及しているらしい。だが次の記事を読んでほしい。


電子書籍の日本と外国の普及率


海外の電子書籍の先進国といわれるアメリカでの普及率は51.9%と言われていて、日本は24.2%なので倍近く普及率が違うことが分かります。海外でも同じアジアだと韓国が53%、中国では83.2%と日本の電子書籍普及率が低いことがよくわかるかと思います。
引用:電子書籍の普及率はどのくらい?(2019年)

1年ほど前の記事だが、日本が他の国ほど電子書籍が普及していないことがわかる。ていうか中国、割合でいうと5人に4人以上が利用しているのか、凄いな。


電子書籍が普及しない理由


日本は諸外国に比べて電子書籍の普及率は低い。なぜ日本で電子書籍が普及しないのか?


2012年と少し前の記事だが、電子書籍が普及していない2020年現在にも通ずる内容だ。

記事では『著作権処理が煩雑で手間がかかりすぎる』『紙に比べ電子書籍の価格にお得感がない』等、日本の市場を電子書籍の墓場と形容している。


電子書籍は売れてない?


だが実は普及していない=電子書籍が売れてないというわけではない。

2019年の出版市場の売り上げグラフがこちら。

画像1

紙と電子を合算した出版市場(推定販売金額)は、前年比0.2%増の1兆5,432億円。
紙の市場は同4.3%減少しましたが、電子出版が同23.9%増と大きく成長したため、全体の市場は2014年の電子出版統計開始以来、初めて前年を上回りました。

参照:全国出版協会 2019年の出版市場


僅かではあるが、前年に比べて全体の売り上げが上昇したのだ。本屋さんがどんどん閉店し、「活字離れ」だの騒がれているご時世にこれは凄いことだと思う。

書店の数や出版業界は衰退傾向にあるが、電子出版の売り上げは上昇し続けるのかもしれない。

これは2019年1月〜12月の結果なので、自粛期間が原因では無さそう。
鬼滅の刃が売れすぎて書店から消えたため、電子書籍で買った人の影響か?


電子書籍のメリット

電子書籍には本の書籍には無いメリットがある。

①在庫切れが無い

ここ数年、人気の話題作を読みたい!と思って書店やAmazonで探すも在庫切れ。もしや?と思いメルカリを見ると、高額で転売されている……。
みたいなことが沢山あったが、ダウンロード版なら大丈夫である。転売ヤ―を撲滅し、本を正規の値段で購入できるようになることは良いことだ。

本屋さんから姿を消した鬼滅の刃を、Kindle版で買った方も多いと思う。電子書籍は、買ったらその場ですぐ読めるのも良い。いくらAmazonの配達が早いとはいえ、ネットのスピードには敵わない。


②とにかく便利

と~にかく便利。家に本棚が無くても平気。紙の本は結構場所を取るし重たいので、普段の収納や引越しの時に大変な思いをする。

その点、電子書籍は何十冊何百冊あろうが場所を取らずに保管できる。
そしてそこから何冊でも持ち運ぶことができる。移動先で「ちょっとアレを読みたい気分だ」って時にスグ読める。

しかも何年経とうが汚れないし、一生傷付くことがない。無敵じゃん。


③紙媒体より少し安い


絶賛爆売れ中、ブレイディみかこさんの『ぼくイエ』(今勝手に略した)だが、実物とKindle版で値段が異なる。

実物の単行本だと1485円するのに対し、Kindle版だと1,336円だ。149円と、わずかではあるがKindle版の方が安い。


実はもっと安くなる?

ただ、本来であればこれはもっと安くできるらしい。
これは岡田斗司夫さんという方のインタビュー記事だ。


この記事で岡田さんは「なぜ電子と紙で値段が同じなのか?」という質問に対し、次のように話している。

コスト上、電子は3分の1の値段にすることが可能

電子を安くした分、売上を取るために紙を高くする必要がある

紙が売れなくなり、日本中の書店が潰れる

このように、電子書籍を安くすれば、日本中の書店が潰れてしまう結果が予想されている。本の問屋の取次会社も潰れてしまうだろう。

さらに岡田さんはこう続ける。

まあ、欲しい本は手に入れやすくなると思います。だって、値段が安くなるんだから。

でも、「はたして、私はどんな本が欲しいんだろう?」とか、「僕が欲しくない本には何が書いてあるんだろう?」ということが、どんどんわかりにくくなるんですね。

すべてのものが「これが欲しい → 検索した → 見つけた → 安く買える」というふうになってしまうと、自分の関心がある部分の物事しか見えなくなってきて、その周りが盲点のように、どんどんボヤケてしまう。

自分の興味のある事柄しか見ないようになると、大局観が失われたり思考に偏りができてしまう。

モノが安くなること・世の中が便利になることは、必ずしも自分のためになるとは限らないのだ。


一方で

早い安い旨いの3拍子揃った電子書籍だが、デメリットもいくつかある。


まず、電子書籍には見開きが無い。

端末を横にすれば万事解決するのだが、その分画像がが小さくなり、迫力が伝わりにくい。以前、SLAM DANKを電子書籍で読んだいたらあのハイタッチが1ページずつ流れてきて『んもったいない!!』とがっかりしてしまった。

次に、本の貸し借りができない。これは本の交換や貸し借りをよくする僕やあなたにとっては辛いことだ。

ついこの前も、高校の友達と本を交換し合った。数日後彼女から連絡があり、『心がドキドキした!』とこっちがドキドキしてしまう感想が送られてきた。

しかし電子書籍だと本の貸し借りができない為、ドキドキやワクワクといった感情の共有ができない。これは『エモいこと共有したいマン』の僕にとっては辛い事実だ。


あとは在庫が常にあるということで、『いつでも買えるし今じゃなくてもいっか!』と結局買わずに読む機会を失う、みたいなことになる。
Netflixのマイリストを永遠に消費できない僕みたいな人、いるでしょ。

別物として考えるのが良い

長く書いたが、結局はそれぞれの良さがあるよねって話だ。

「紙だからこそ」というのは分かる。大いにわかる。
小説を読んでる時の、ページが擦れる音や紙の匂いも全部併せての読書体験みたいなとこある。小雨の夜に孤独を感じながら読む小説ほど、自分に浸れる世界は無い。

そして「電子書籍だからこそ」の良さも分かる。僕はビジネス書や啓発、話題の新書等は電子書籍で読んでいる。通勤の満員電車の中で片手一本で読めるのは有難い。

あなたもネットニュースや好きなミュージシャンのインタビューとかはスマホで見ることが多いだろう。なので情報収集としての読書には電子書籍が適していると考えられる。

小説や漫画は紙、それ以外は電子書籍。
個人的にはこの考え方がスタンダードになると思う。

ここまで出版業界のこと、電子書籍のこと、なぜ値段があまり変わらないのかを僕なりに纏めめてみた。読んでくれたあなたが『なるほどな〜!』となってくれれば嬉しい。

2019年に電子書籍の売り上げが伸びたのは鬼滅の刃の貢献があったからだと思う。

それが終わった今、今年以降も電子書籍の売り上げが伸びつつ、出版市場全体の売り上げも上昇することを期待したい。




【お知らせ】5月21日の文学フリマに出ます

2023年の5月21日に、文学フリマで本を販売します。僕が書いた小説が3つ、友人が書いた小説が3つ。それぞれのエッセイ3つを合わせた全300ページの小説です。タイトルは「無自覚デコンストラクション」。著者名は25歳ズです。

表紙です

TwitterのDMにて取り置き予約を受け付けていますので、是非ご連絡ください。


#電子書籍 #漫画 #鬼滅の刃 #本 #Kindle #会計悟空 #出版 #読者

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?