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セルイン思考、セルアウト思考

メーカーにおいて企画開発系の部門と営業系の部門は対立しがちです。
企画開発側が顧客価値の観点でものづくりをすれば、営業側は販売店の観点でビジネスの話をします。
逆に企画開発側が売り場での競争について話をすれば、営業側からは顧客視点の話が返ってきます。
不思議と会社組織によってどちらかの思考に偏ってしまう為、協力すべき関係がなかなか築けません。
場所の違いによる思考のズレはどこから生まれるのでしょう。

流通用語にセルインとセルアウトというものがあります。
販売店の視点でSell in=仕入れるものと、Sell out=販売するものという意味です。
メーカーの営業視点で見ると売上が立つの、販売店に買ってもらうがセルインのタイミングです。
セルインすれば売上が立つので実績として評価されます。
売上は立ちますが、販売店の在庫として抱えている状態ですので、実売が出る=セルアウトしないと追加の発注が来ません。
また、契約の形にもよりますが、返品や値引き販売に対する補填費用を受け入れる場合はセルアウトするまで本当の利益が確定しません。
セルインまでを追うか、セルアウトまで追うかによって物事の判断が変わってきます。
どちらを追う意識が強いのかのズレが部門の対立を生んでしまうのです。

売上を立てるセルインと利益を確定するセルアウトでは、全ての部門がセルアウト思考をすべきであると思ってしまいますが、実はそうとも限りません。
メーカーにも販売店にもセルアウトが利益を確定させるタイミングですが、基本のビジネスモデルの違いが判断の違いを生み出します。
その為、メーカー視点での利益であるセルアウトだけを意識しても上手くいかない場合があるのです。

メーカー視点では売上の立つセルインと利益が確定するセルアウトは同軸上にあり、セルインしたものがセルアウトすればビジネスとして成立します。
ところが販売店の場合、一部専門店を除けば複数のメーカーからセルインしなければならず、売上がしっかりと出るのであればセルアウトが一部のメーカーに偏っても問題ないのです。
複数メーカーによるセルインが競争の原因になります。

顧客の購入時=セルアウト時には安い方が喜ばれますが、だからといって他のメーカーがより安い製品を提案したとしても売れる数が変わらないのであれば販売店の利益が減るだけです。
顧客の求めるもの=セルインとして販売店が求めるものではない場合があるのです。

メーカーは良いもの、競争力のあるものを生み出して売ろうとしますが、販売店の都合が絡んでくるとセルインとセルアウトに求められる価値や意味が変わって来ます。
そこを見落とすと企画開発と営業の反目が生まれるのです。

販売店が求めるのは品揃えの中で違いが明確なものです。
今売れているものより、より良くて安いものが出てきてしまっては今の売上を毀損するからです。
セルインするには違いが重要になります。
顧客が求めるのは自分にとって買う意味があるものです。
セルアウトに繋げるには違いによる品揃えではなく、個々の買う理由とのマッチングが必要です。

顧客だけを見てはセルインしない、販売店だけを見ていてはセルアウトしない。
セルインする競争環境での違いと、セルアウトする顧客にとっての買う意味の両方をバランスよくとることが重要になってきます。

メーカー直販のD2Cには別の力学が働きますが、それはまた別でお話しします。

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