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ユウとカオリの物語

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LGBTQ+当事者カップルの2人が描く恋愛小説。ユウ目線でのお話と、カオリ目線のお話を2人で書きあっています。セクシャルマイノリティの世界ではない、ごく日常の中で出逢った2人の物…
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2022年9月の記事一覧

[小説・ユウとカオリの物語] 月はずっと綺麗でした │ユウ目線11話

 あの日の僕は、仕事でとても疲れていた。以前カオリさんが「魔の5時過ぎね」と言って笑いながら教えてくれたんだけど、僕はいつも夕方5時過ぎになると、疲れたとかしんどいですとか、憂鬱なLINEを送ってるみたいで。あの日も僕は夕方、カオリさんに何度もLINEしてしまっていた。 「あぁ......もう嫌われてるかもな......だれもあんなメッセージ送ってこられて、嬉しかないよ。ダメだな、僕。なんでこうなんだろ。カオリさんは、面白いわよって笑ってくれてたけど、きっといつか嫌がられる

[小説・ユウとカオリの物語] 月が綺麗ですね

慕われているのはわかってた。「好きです」と何度も言われたし「わたしも好きよ」と返事をしていた。まさか、恋愛感情だなんて、、10歳も年下なんだし、そんなわけないと思ってた。だから、わたしは気楽に「わたしも好きよ」なんて返事をしてたんだった。「このままだと勘違いしたままになってしまう」とユウは言った、だから告白したのだと。「恋愛はもうやりきった」わたしはずっとそう思ってきた。あとは穏やかに暮らしていければいいって。だから、そう伝えた。 「恋愛はやりきったのよ。今は誰にもそんな感

[小説・ユウとカオリの物語] 自己紹介 │番外編

 どうも、ユウです。とうとう僕の告白まで来ましたね。カオリに1度振られた時は、実は一晩だけ落ち込みましたけどね。「マゼンタと青」のおかげで翌朝には前向きになってました笑 だってそれって恋の色じゃん!みたいな!だけどなぁ、愛の色はマゼンタと青、だなんてさ!その愛情表現がサピオセクシャル的にはもう、胸を打ち抜かれた感じがしたんだよ。うんうん。あ、サピオセクについてはまた、追々書いていこうと思いますね!  でね!カオリの素性がわかったところで!今日は僕とカオリの自己紹介を書いてお

[小説・ユウとカオリの物語] 告白 │ユウ目線10話

恋愛はもう、やりきったの......  カオリさんの突然のカミングアウトに僕が、「知ってましたよ」と言った時のカオリさんは、とてもびっくりしていた。そしてこの前のレッスンの日も、種明かしで「ノンケの人はノンケって言わないですよね~」なんて僕が言って、2人で大笑いをした。カオリさんとはあれからもそんな、穏やかな優しい関係が続いてる。だけど...... 傷つく覚悟、か......  僕はカオリさんが言ったその言葉がずっと、心から離れなかった。カオリさんはずっと僕を気にかけて

[小説・ユウとカオリの物語] カミングアウト │ユウ目線9話

「実はわたし、LGBTQ当事者なの。パンセクシャルってやつかな。恋愛において男女の区別がある感覚がわからない」 「......えぇ、知ってましたよ」  僕がカオリさんのところに、プログラミングの勉強に通いだしてからしばらくした頃のこと。あの約束の日にカミングアウトしていた僕は、レッスン後の雑談の中でいつしか、過去の恋愛のことや、今の自分のジェンダーに対する葛藤の話なんかを、なんでも話すようになっていて。あの日も、昔一度だけ付き合ったことのある彼女の話をしていた。 「僕は

[小説・ユウとカオリの物語]カミングアウト

アクティでの仕事の帰り、いつものように『Bar ROSE』へ。 そして、いつものようにマスターが言う。 「いらっしゃいませ。何になさいますか?」 「アーリータイムズのブラウン、まだあります?」 「この瓶で最後です。ダブル2杯分くらいですね。」 うわっ、ラッキー!「じゃあ、ダブルで!」 マスターが差し出したグラスを見て、吹き出した。これ、、ダブルじゃないよね?なみなみ入ってるんですけど?!そう思ってマスターを見ると、彼は軽く会釈して微笑んだので、わたしはグラスを持ち上げて会

[小説・ユウとカオリの物語] 傷つく覚悟  │ユウ目線8話

勇気ってね、 傷つく覚悟のことよ。  カオリ先生とはあれからレッスンの予約連絡の為に交換したLINEで、他愛もないやりとりを時々するようになった。先生は仕事でSNSやブログなんかもやっていて、僕はそれらを毎日チェックするのが楽しみだった。もちろん僕の事だ。過去の投稿も全部読んださ。この前「全部読みましたよ!」って言った時のカオリ先生、びっくりしてたけどなんだか嬉しそうだったよな。 「えーっ!?全部読んだの!?そんな人初めてよ(笑)びっくりするじゃないの」 「え、そんな驚

[小説・ユウとカオリの物語]環境の変化 │ユウ目線7話

「ユウさんお疲れっした!一緒に仕事できるなんてなぁ、俺、嬉しいっすよ!」  この会社に誘ってくれた友達のシュンさんは、僕より一つ上。だけどなぜか昔からお互い敬語で。ぎこちない仲なのかと言えばそうではないし、不思議な仲だよな。でも僕がしんどそうな時は朝からしょーもないジョークをLINEしてきたり。ほんと、気さくで裏表のない良い人なんだよな。前の事、何にも聴いたり言ってきたりしないけど、メンタル下がりまくってしんどい内容のSNS書いてたのをずっと読んでくれてたみたいだし、僕のこ

[小説・ユウとカオリの物語]共通点

「いらっしゃいませ」 予想外に、かわいらしい声に迎えられた。 カウンターの女性は、わたしを見ると弾んだ声で言った。 「わぁ~、カオリさんだ!何年ぶりだろう。変わりませんね。最近ちょくちょく入ってるんですけど、なかなか会えませんでしたね。マスターは今ちょっと出かけてるんです。」 「ナナちゃん!!またバイトに来てるのね。会えて嬉しいな。」マスターの姪である彼女は、学生時代ここでアルバイトをしていた。卒業して就職したと聞いていたけれど、そっか、戻ってきてるんだ。 「お一人です

[小説・ユウとカオリの物語]共通点 │ユウ目線6話

フフ...... あなたとわたしの共通点、 まだまだたくさんあるのよ? それはまた、その内ね。  いよいよ、今日がレッスン初日。10時からなのになぁ、ずいぶんと早く目が覚めちゃったよ。まるで遠足前の子供、だよな。まったく。昔からずっと変わらない。仕事の時は中々起きれないのに。どうやったらこの子供っぽいところが治るんだろうな。やれやれ。  朝の5時半に目が覚めた僕は、ブツブツと言いながらもやけに気分の良い目覚めに、2度寝は諦めてカーテンと窓を開けて、外の風を入れた。まだ2月

[小説・ユウとカオリの物語]ステンドグラス

「おや、今日はお早いですね」 店に入ると、マスターが言った。 いつも通り微笑んでるけど、一瞬意味ありげにニヤッとしたのをわたしは見逃さなかった。 それでも、マスターは「約束の日ですもんね」などとは決して言わない。 「なにになさいますか?」 と、いつも通り。 「ハーパーをシングルで」 わたしが注文すると 「シングルですね?」 と静かに確認したものの、マスターがこらえきれず吹き出したので、わたしも笑った。 「かわいい人でしたもんねぇ」 やれやれ、やっぱりそんな目線か。マス

[小説・ユウとカオリの物語]優れたセンサー -ユウ目線 その5-

やっと。やっとだ。やっと今日だ。  あの日の僕は、嬉しさと期待と、少しの不安が入り混じった心を抱えながら、電車から見える冬の夕暮れ空をボーっと眺めていた。鮮やかなオレンジ色に染まった空はまるで、暮れ行く1日に思いを馳せて、泣いているように見えた。  暮れ行く1日を止めることなんて誰にもできない。過ぎ去った日を取り戻すことも、誰にもできない。時間は流れて行くんだな。僕は今、なぜここに居るのか。なぜ僕は、この道を歩いてきたのかな。なぜ僕は、彼らに出会ったのだろう。これから歩く