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ユウとカオリの物語

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LGBTQ+当事者カップルの2人が描く恋愛小説。ユウ目線でのお話と、カオリ目線のお話を2人で書きあっています。セクシャルマイノリティの世界ではない、ごく日常の中で出逢った2人の物… もっと読む
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第2章[第7話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》ユウの想い

前回話 カオリ目線のお話はこちら 第6話はこちら  初めて出逢った時の君は、ステンドグラスの光に照らされて、とっても寂しそうに微笑んでいた。「座りませんか」そう言って僕に微笑んだ君は、その寂しさを覆い隠すような、優しさに包まれていた。  気づけば僕は、暗い裏路地に突っ立っていた。あれ?僕なんでここにいるんだろう?ここはどうだろう?カオリ、どこ行っちゃったんだろう?道に迷ったのかな。僕を探しているだろうな。ん……?待てよ?……あ、ここ、覚えてるぞ。あっちの道をまっすぐ行っ

第2章《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》両想い(カオリのつぶやき)

わたしの恋愛は基本片想いだった。側にいられればそれでよくて、そもそも両想いになれるって思ってなかった。ただ、隠すことはしないのでバレることもあるし、相手もわたしを憎からず思っていたら付き合うことになる。 結局、相手から言ってくるわけで、わたしはそりゃあ嬉しいからお付き合いしましょってなるわけ。 あ、わたしが片想いしてない相手が言ってきたときは、ごめんなさいってなるわよ、当然。 まあ、そんな感じで両想いになると楽しいよね。しあわせだったりもする。 けど、これが曲者なのよね。

第2章《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》わたしとユウと友人たち(カオリのつぶやき)

ユウと付き合い始めたことを、わたしは親しい友人に知らせた。これまでのわたしの恋愛のあれこれをずっと見守ってくれていた友人だ。 恋愛はやりきったしもういいや、やさしい友人たちに囲まれて幸せだし、こうして穏やかに生きていくんだ。 わたしはそう思って日々を過ごしていたことを、言わなくても感じとってくれていた人たちに、自分でもびっくりしているユウとのことを伝えたかった。さすがに今回はびっくりするだろうな。。 わたしの予測なんて当てにならない。みな、びっくりするよりも喜んでくれた。

第2章[第6話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》

第5話はこちら 幸せのカタチなんてね、 100人いれば100通りあるわよ。 何が正しいのか、なんてのもね、 立場や環境が変われば、簡単に変わるのよ。 幸せも、正しさも、一つじゃない。  僕はこの日、仕事を定時に切り上げて、急ぎ足でとある場所に向かっていた。電車とバスを乗り継いだ後、はやる気持ちを抑えながらアーケードを急いだ。しばらく歩くと、カオリから聞いていた建物が見えて、僕はドキドキしながらエレベーターに乗った。エレベーターが開くと、そこにはカオリがニコニコしながら立っ

第2章《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》わたしはわたし、ユウはユウ(カオリのつぶやき)

わたしにとって恋愛対象に性別の区別はないということは、割合早くから知っていた。それがマイノリティだということにも気づいていたけれど、だからといってなんの不自由も感じていなかった。 いつも好きになるのは身近な人だった。心の距離が近くならなければ恋愛として惹かれるなんてことは、わたしには起こらない。(これをデミセクシャルというのだと、最近知った。) 要するに、仲のいい友達に恋をするのだ。仲がいいので側にはいられるわけで、わたしはそれでいつも満足していた。片想いで十分で、伝えよう

第2章[第5話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》

第4話はこちら 「胸なんてさ、朝起きてポロっと取れてたらいいんだよなぁ。手術しようとまで思わないしさ。あ、でもだからと言って男性の身体もいらなくない?ユウちゃんはどう思う?」 「そうそう!それめっちゃわかるな。僕はトランスでもないしさ、どっちつかずがあってもいいよね。そんなにバシっとどっちかに振り分けられないよ。僕らは中途半端でいいんじゃない?」 「あはは……中途半端かぁ、そうだよねぇ…...うん、中途半端な人間だって、いるんだよ!」  僕はふと、若い頃に仲良くしてい

第2章《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》パンセクシャルの感覚(カオリのつぶやき)

ユウと付き合い始めてみたら、おかしなことに、ユウは付き合う前より固くなってしまった。なんだか、自分に厳しくなった?気負ってるのかなぁ。。 付き合う前は、わたし専用のtwitterか?っていうくらい、その時々に感じてることを送ってきてた。 わたしはそれが面白くて、仕事の合間に見るのを楽しみにしてた。そんな彼女の日常に触れているうちに、どんどん惹かれていってたのよね。 そうなのよ。ユウはいろんな姿をそのまんま見せてくれてて、どんどん惹かれちゃったんだ。 出逢いはボロボロだった

第2章[第4話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》

第3話はこちら 「時々すごく男の子の顔になる時あるよね!おもしろーい」 昔片思いで好きだった女性に言われた言葉を、ふと思い出していた。男の子の顔の時、か......それはきっと、好きな人と話す時だったからだよな。あの時は深く考えてなかったけど、だったら女の子の顔の時もあったってことだよな。うん。でもそれが振られた原因になったんだよな。 あ、でも、そか、カオリが言ってたな。 「あなたは相手に合わせてきただけよ」 うん、そうだ。カオリに言われて気づいたんだった。 好きな

第2章 [第3話]《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》

第2話はこちら だって子供でしょ。 子供時代の自分を、 子供扱いしてあげてよね。 ※ ※ ※ 通勤途中、最寄り駅までのいつもの田舎道。ここの風景が僕は大好きだ。 特に夏は、真っ青な空に浮かぶ動物みたいな雲を数えながら歩くと、揺れる青い稲が目の前一面に広がって、そこを抜けると大きな向日葵が僕を待っていてくれる。小さかったあの頃、僕を勇気付けてくれたあの道のあの風景みたいだからだ...... 幼稚園に入園した日僕は、母と離れるのが不安で1日中泣いていたのを今でも何故か覚え

第2章[第2話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》

第1話はこちら 相手に合わそうとしてきただけなのよね。 相手に合わせて生きてきたから、 気持ちを隠そうとしてしまうのね。 やっぱりわたし達、似た者同士なのね。  ※ ※ ※ それからも僕には幾人か、好きになった人はいた。だけどどれも片思いで、いつも言われるのは「友達じゃダメなの?」という言葉だった。「友達として失いたくない」とも、何度言われたことか。そしてその都度僕は、苦しみながらもその言葉を受け入れてきた。 その愛の種類が何でもいい。愛する人に、必要とされる人でいた

第2章[第1話]《ユウとカオリの物語-ジェンダー編-》

どんなユウも、わたしの好きなユウよ。 こんなに可愛い人がわたしを好きになってくれるなんて。 こんな幸せはないわよ。  ※ ※ ※ 僕はずっと子供の頃から、着ぐるみを着て生きてる気がしていた。 着ぐるみは何着も持っていて、その時々で周りの人たちが笑ってくれる着ぐるみに、僕は着替えるものだと思っていた。着ぐるみを脱ぐのは両親の前だけで、着ぐるみがないと他人とは接することができなかった。 10代の頃は色んな着ぐるみを試しては変えて、いつしかその中にいる本当の僕のことなんて、いっ

[小説・ユウとカオリの物語] 初めての幸せ │ユウ目線12話

※前回はカオリ目線のこちら  僕はとっても心地いい夢を見ていた。カオリが僕をぎゅっと抱きしめて、頭を撫でながら鼻歌を歌ってる。なんの歌だろう?あぁ、早くキスしてくれないかなぁ... 「唇、伸びてるわよユウ......どんな夢見てるのかしら?」  頭をポンポンされてびっくりした。あ、また寝ちゃってたんだ僕。 「あ、ごめん、マジで寝ちゃってた」  起きると僕ら以外のお客さんは誰もいなくなっていた。 「あれ?もう閉店?僕、結構寝ちゃってた?え、もしかして変な顔してたの僕!?」

[小説・ユウとカオリの物語] Bar ROSE(2人で)

「ROSEに行かない?」 わたしが誘うと、ユウはとても喜んだ。わたしがひとり飲みする場所だから、気遣って行かなかったのだという。 「とても気に入ったバーだったんだけど、カオリの邪魔しちゃ悪いかなって。。」 出逢いの場所に2人で行くのはとてもいいな。お互い仕事を終えて待ち合わせて、ROSEへ向かった。 「いらっしゃいませ。今日はお揃いで?」 マスターの口元が笑っているのがわかる。 「なにになさいますか?」 ユウに目をやると 「お薦めのものってある?」と、ナイショみたいに

[小説・ユウとカオリの物語] 月はずっと綺麗でした │ユウ目線11話

 あの日の僕は、仕事でとても疲れていた。以前カオリさんが「魔の5時過ぎね」と言って笑いながら教えてくれたんだけど、僕はいつも夕方5時過ぎになると、疲れたとかしんどいですとか、憂鬱なLINEを送ってるみたいで。あの日も僕は夕方、カオリさんに何度もLINEしてしまっていた。 「あぁ......もう嫌われてるかもな......だれもあんなメッセージ送ってこられて、嬉しかないよ。ダメだな、僕。なんでこうなんだろ。カオリさんは、面白いわよって笑ってくれてたけど、きっといつか嫌がられる