第2章[第7話] 《ユウとカオリの物語 -ジェンダー編-》ユウの想い
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初めて出逢った時の君は、ステンドグラスの光に照らされて、とっても寂しそうに微笑んでいた。「座りませんか」そう言って僕に微笑んだ君は、その寂しさを覆い隠すような、優しさに包まれていた。
気づけば僕は、暗い裏路地に突っ立っていた。あれ?僕なんでここにいるんだろう?ここはどうだろう?カオリ、どこ行っちゃったんだろう?道に迷ったのかな。僕を探しているだろうな。ん……?待てよ?……あ、ここ、覚えてるぞ。あっちの道をまっすぐ行って2つ信号を曲がれば、Bar Roseだ。あ、そだ、Roseに行ってカオリに連絡しよう。そこで待とう。よし、急ぐぞ。
カランカラン・・・「いらっしゃいませ」
Roseの扉を開けるとマスターがいて・・・カウンター奥のステンドグラス前の席にはなぜか、カオリがいた。「あれ?カオリ??」近づいていくとカオリがこっちを見た。とても寂しそうな顔だ……あぁ……あの時見た、カオリの表情だ。「カオ……」カオリと言いかけるとカオリが言った……
「座りませんか」
僕はなんだかクラクラして、息が苦しくなった。
「ぶはっ!!」
びっくりして目が覚めると、カオリが僕の顔を覗き込んでいた。ヤバイ!僕寝てたんだ。
「あ!ごめん、寝ちゃってたね」
バツ悪くごめんと言ってカオリを見ると、カオリはウイスキーグラスを手に、なぜか瞳いっぱいに涙を浮かべていた。それは夢で見た、あの寂しそうな顔だった。そうか……僕が寝てる間、一人で飲んでいたんだよね、寂しかったよね、ごめんごめん。前にも、ホテルで僕が寝ている間、アニメを一本観たわよ、つまんなかったけどって言ってた。カオリとデートの時は僕、超早起きしちゃう上にビール飲みすぎたんだよな。ダメだな……反省だ。カオリのウイスキーグラスをテーブルに置いて、僕は優しくカオリを抱き寄せて、よしよしと頭をなでて、涙を拭ってあげた。
「わたしね。片思いはもう嫌なの」
カオリが突然につぶやいた言葉に、なんだか僕はとても安心した。なんだ、寂しくなったのはそういうことか。なぁんだ。安心したら、笑いが込み上げてきた。だって、ついさっきまで僕は君の腕の中で包まれていたんだよ。優しくて、でも少しいじわるで、かっこいい素敵な君の腕の中だった。そんな君が、今度は僕の腕の中で泣いてるじゃないか。なぁんだ。それならもう、何も心配しなくていいんだよ。僕らはこうやって、お互いに渡しあえているんだから。
そう、カオリは片思いが長かった。そしてそれは、僕も同じだね。お互いに片思いの時間が長すぎて、片思いの時の癖が残ってるんだ。カオリは1度結婚をしてる。かつての旦那さんに振られてからもずっと、好きで居続けた人だ。そして僕だって、片思いの人に告白して振られても、「友達として離れないでほしい」と言われて、ずっとそばに居続けたことがある。自分の思う気持ちを大切に持ち続けるカオリ。そしてお互い、相手の望みも尊重してあげてしまうほうなんだよね。全力で恋愛して、全力で相手を想って。そしてやがてはその熱が冷めていく。
僕は思う。恋愛にしろ、友情にしろ、どちらかの本当の望みや気持ちを犠牲にしたまま繋がっている関係なんて、一方通行で相手からは返ってはこない気持ちなんて、やがては限界が来る。自分の気持ちにも、終わりが来る。そんなものなのだと思う。そうやって辛い繋がりを保ち続けたまま、ようやく自分の気持ちにも終わりが来て、やっと安心できるものなんだ。
だったら僕らは今、お互いの気持ちの何かを、犠牲にしているかい?渡しあっていない何かがあるなら、分かり合えるまで話し合えばいい。僕らはいつも、お互いをお互いに、尊重できてきた。だから今、繋がっていられるんだよ。
セクシュアリティもジェンダーも、手の大きさやカタチも、好きな料理や好きな児童書も、示し合わせたようにピッタリな僕らが今やっと出会えたのは、そんな似た者同士な過去を、歩めてきたからなんだと思うよ。
「今夜は月が綺麗ですね」
月が君に、僕への気持ちを気づかせてくれたあの夜。生きづらくも生き抜いてきた僕らに月がくれたご褒美。
それが君。それが僕。なんだから。
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