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[小説・ユウとカオリの物語]ステンドグラス

「おや、今日はお早いですね」
店に入ると、マスターが言った。

いつも通り微笑んでるけど、一瞬意味ありげにニヤッとしたのをわたしは見逃さなかった。
それでも、マスターは「約束の日ですもんね」などとは決して言わない。

「なにになさいますか?」
と、いつも通り。

「ハーパーをシングルで」
わたしが注文すると
「シングルですね?」
と静かに確認したものの、マスターがこらえきれず吹き出したので、わたしも笑った。

「かわいい人でしたもんねぇ」
やれやれ、やっぱりそんな目線か。マスターはこう見えて結構人の色事が好物なのだ。

ま、いっか。そんな視点でマスターが楽しいのなら、それもありよね。わたしはにっこり笑うにとどめた。けどさぁ、マスター、相手はかなり年下よ。それに、わたしは恋愛はもうやりきってしまったのよ。あとは穏やかに暮らしていくの。ここで時々グラス傾けたりしてね。だから、これからもよろしくね。そんなことを思いながら、ハーパーの香りを愉しむ。

開店直後に来たのには訳がある。けれどそれは、色事好きのマスターの想像とは違う。単純にこの席に座って隣をキープして待つため。わたしが来たときに、カウンターの奥のこの席が埋まっていたら残念だもの。カウンター奥の席に座ると、わたしの右側が壁になる。その壁にはステンドグラスを模した灯りある。ユウがわたしを右側に見て、その奥から光が射す。この位置関係を作りたいんだよね。

「空間表象よ」
オールドパーを注文しながら、マスターに説明する。
「人は左に過去、右に未来を感じるの。ここに座ると右側から光が射すでしょう?彼女が隣に座ってわたしの方を見たら、自然に未来方向から光が射すわけ。この場所をキープしたくて早く来たのよ。」

「ほ~ぉ、そうですか」
オールドパーを差し出しながら、マスターの目は意味ありげに笑っている。
やっぱりか、、まあ、それもいい。マスターがしあわせそうなのは、わたしも嬉しい。

「待ち時間がたくさんあるから、ゆっくりペースで飲むわね。」
わたしがそう言うと
「どうぞごゆっくり」
マスターはニヤリと笑って、わたしの隣の席にkeep札をたてた。

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