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空白

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無題作品。
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空白

二日目の夜、君と泣きました。
君は、「あなたは何も悪くないよ」って、言ったんだ。
僕が僕と君と未来にかけていた保険は、どうやら君を悲しくさせていたらしい。
もう一つ、帰り道に、泣きました。
そこには僕一人、どうしても涙が溢れてしまうんだ。
僕は、この気持ちを知っている。
けど、たまに母親に会えた日の夜も、妹が家を出ていった日も、転校したときも、誰かが死んだ日も、この気持ちで涙が出たことはない。

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空白

久しぶりに日の温もりを感じながら、君と連絡を取っている。
エレベーターは点検中でどこにも行けない。なぜだかテレビも点かなくて、どうしようもなく玄関に立っている。
日に日に他人と目を合わせられなくなっている気がして、君ともほとんど目が合わなかったことを思い出したよ。いや、合わせていなかったのは僕の方かもしれない。

君との一週間が、すこしだけ、さみしくなるものだと思った。

空白

たしかあの日は天気予報を見ていなかった。暑くなく、雨が降らなければいいと思っていた。実のところは曇りだった。
時間に遅れた僕を君は怒らなくて、笑いながらおはようって言ったんだ。謝る隙がなかった。
乾いた道路の水たまりの跡、一体誰が飲み干したんだ。
喉の奥にまとわりつく君の声はなくなっていた。
君が置いて行ったものは僕も置いてきた。というより、失くしてしまったかもしれない。

ところで、大金を叩いて

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空白

ふと気づいたら心臓が痛くて、いつも、気づいた頃には遅いんだ。時間が経てば治っていて、明日の夜には忘れてしまって、また痛くなるものなんだ。
探せば片隅に座っている、いつの間にそんなところにいたんだ。
押し殺しきれないものを、僕はまた、拾ってしまった。

空白

ずっと雨が降っていた。明け方に上がって、君とふたりで外を歩いた。五月だけど寒くて、上着を羽織って家を出た。空は結構明るくなっていて、残念だと思った。
一睡もしていない夜だったんだ。二時間半くらい歩いて、靴下は汚れてしまって、少しだけ眠った。

深呼吸をして、言い訳を考えながら、君からの連絡を待っている。そんなことをしていたら、もう寝る時間になっていた。瞼は数時間前から重かった。

僕はずっと、君の

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ほんとうの空白

数年後を考えていた日々から数年経って、ほとんど何も変わっていないことに気づく。
唯一、数年前よりも考えることがかなり増えた。例えば社会のこととか、例えば空の色のこととか、例えば君の爪の長さと僕の瞼の重さとか。
生きるとか死ぬとか死にたくないとか、弾道ミサイルも核兵器も戦争も言葉もなびく髪の毛も起きたくない朝も眠りたくない夜も、君の前では無力なんだ。

君の死はきっと、好奇心でさ。

なんだか、なん

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空白

黒炭だった君の髪をふと思い出して、なんだか眠れなくて、気がつけば外が明るくなっていた。
眩しく輝く恒星ほど、燃え尽きるのも早いと、僕の神様が歌っていた。僕が撮る空の写真はいつも解像度が低くてさ、君と見たものと全然違うんだ。

休日なんてあってないようなものだし、中央線を並走する電車みたいな関係だったと思う。
君のつま先は徐々に、確実に、違う方を向いていって、僕は曖昧に、確実に、後ろばかりを見ていた

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空白

9月に僕を置いていった君は、なんだか暑いねと言った、その月はまだ、朝でも秋の匂いはしなくて、星だけが正確に時を刻んで、僕の時間は進まなくて、それでも生活は続いていくんだ。
夜になって朝がきて、今日も陰鬱な気分になる。朝は嫌いだ、昼も嫌いだ、君に教えてもらった星が見えないんだ。
僕が僕に開けた風穴を、君と歩いた道のぬるい風がすり抜けていった。

忘れたことだけは、忘れられないんだよ。

空白

海底1000メートルから飛び立った僕は、未だに新しい君を見つけられないまま、回天に乗って、僕の周回軌道上にいる。
微かなシリウスが、今でも僕の瞳の奥で瞬く、明るく濁った街の上にある。
中野から新宿を繋ぐ街夜景がとても綺麗だと思った。
偽りの現実、所詮偽りだし、美しい本物を見たいよ。
僕はまだ、駅につかない。

日記4

私は、特に長生きしたいと思わないし(なんならチャンスがあればさっさと死にたいし)地震が起きても津波がきても通り魔がいても逃げるつもりとかさらさらなくて、だけど、そんなので死ぬくらいなら、星に殺されるか、君に殺された方がいいなと、思うのだった。

空白

たとえば君が、僕のことを好きだったとして、それでも夕焼けが綺麗だとか、今日も月が見えるだとか、流星群を見に行こうだとか、そういうことを言い出すのはきっと僕だろうから。

***

陽が沈みかけている時刻、真冬、帰り道、理科の授業のことを話す中学生とすれ違い、中学校の教室、生徒玄関の明かりがまだ点っている午後五時三○分。久しぶりに外を歩いたのだ。冷たい空気、冬の匂いがして、胸がきゅっとならなかった僕

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これはとても、よくないことなんだ。

君の君を君と君に君して君から君まで君が君へ
君と君を待っている。

私にとっての愛は、言葉であり、存在であり、感情であり、想いであり、思い出であり、あの夜であり、切り取れない月光であり、咲くものなんだ。
夢で、また会おう。

空白

僕の安っぽい人生を、白々しい夏を、差し出した口約束を、盗まれた痛みを、思い出してしまった、駅前のちらちらとするイルミネーションすらも朧気になっていた。僕の周回軌道上にいた君は、いつのまにかそこから外れていて、僕だけが取り残されていた。ふたご座の二つある心臓はひとつにはなれず、死んでしまった君との記憶を反芻、反芻、反芻。君と出会った夏の終わりを思い出しながら、今日も他人に君を重ねて、はやく死にたいと

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