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第47話 愛されている、ということで良いですか?
ミッテシュテンゲル侯爵家が保養地として使っている私有地。湖の畔に建てられたそれは正に別荘そのもの、それも驚くほど豪華な施設だった。
当たり前だ。それに驚いているのはアリシアくらいで、他の参加者は何の感動もない様子だ。王家と守護家の彼らにとって、これくらいの施設は驚くに値しない。ミッテシュテンゲル侯爵家のこれも、近場でちょっと楽しむ程度のもの。領地にある別荘はもっと大きく豪華な施設なのだ。
こ
第46話 楽しい学院生活、なのでしょうか?
学院生活の状況が、アリシアにとっては良い方向に、一気に傾くことになった。アリシアを、ある意味、サマンサアンよりも強く敵視していたフランセスが、その態度を一変させたことがその理由だ。
自分を助けてくれたアリシアに恩を感じて、というのがフランセスが態度を変えた一番の理由だが、それだけでもない。その場に現れるはずのないレグルスが姿を見せたことは、常に彼がアリシアのことを気にかけていることを示している
第45話 商いは簡単ではない
レグルスがアリシアに隠していることはいくつもある。その中の、割と大きな隠し事のひとつが商売を行っていること。特にやましいことがあって隠しているわけではない。行っている商売は、レグルス自身が始めたくて始めたものではない。なんだかよく分からないが自分に絡んでくる元花街の男衆であったバンディーとその仲間たちに仕事を与える為に、仕方なく始めたものだ。
商売の内容は元花街の男衆であった彼らの経験を活かし
第44話 女性の強かさに驚くことになった
アリシアに対する虐めの激しさを知ったレグルスの反応は、彼女が心配した通りであり、それでいて少し異なるものになった。これを彼女が知るのは、ずっと先のこと。その時まで、レグルスが隠し続けていたのだ。実際にはレグルスは、さらに先まで隠し続けた。アリシアが知ったと思った事実は、事実ではなかったのだ。これは先の話だ。
「……少し驚きました。女性はこのような大胆な誘い方をするものなのですね?」
「ち、違
第43話 他人には分からない想い
ゲームが始まった。とっくに物語は始まっているが、アリシアがよく知る状況が始まったということだ。最初は小さなことからだった。実技授業を終えて更衣室で制服に着替えていたら、普段履きの靴がなくなっていた。仕方なく、実技授業で使う戦闘ブーツのまま学院内を探してみると、割とすぐに、更衣室のすぐ近くのゴミ箱の中で見つかった。わざと見つかるように隠したのだと、アリシアには分かった。嫌がらせが始まったのだと分か
もっとみる第42話 視えているもの
ジークフリート第二王子主催のパーティーが開かれた。ジークフリート本人としては、可能な限り、参加者は少数に、それも気を使わない人たちにしたかったのだが、それは王国が許してくれなかった。
本人はまったく意識していなかったのだが、ジークフリートが成人して初めて主催者となるパーティーということになってしまっている。王家に限らず守護家であっても、初めてのそれは派手なものにしようとしてしまうはずだ。実際に
第41話 見方が変われば評価も変わる
レグルスとアリシアの日常が変化した。共に過ごす時間が増えたのだ。学院生活があるので、さすがにかつてのようにはいかないが、それでも時間がある時は一緒にいることが多くなった。アリシアが強引に押しかけてきても、レグルスがそれを強く拒むことはなくなった。それが理由だ。
周囲はそんな二人を見て……なんとも思わない。婚約者同士が共にいるのは当たり前のこと。文句なしの美少女であるアリシアと悪評はあっても美男
第40話 二人の関係
王立王国学院の実技授業は、かなり自由に行われている。それぞれが自由に鍛錬を行い、聞きたいことがあれば教官に尋ねる。教官は基本、その様子を見ているだけで、細かな指導は行わないのだ。
こういう形を取るのにはいくつかの理由がある。今はそれほどでもないが、かつては各家ごとと言っても過言ではないほど、剣術の流派があった。元々国内に複数の流派があった上に、いくつもの小国を併合した結果、さらに流派が増えた。
第19話 悪役令嬢の望みは
まだ辺りは暗く、天には星が瞬いている。静まり返った校舎の裏庭。森と見間違うほどに豊かに生い茂る木々の間を、リオンの振る剣の風切音が響いていた。
ここがリオンの毎日の鍛錬の場所だ。
朝の鍛錬は、もっぱら体力づくりと素振りなどの基礎が主なものとなる。一人しかいないのだ。それ以外はやろうにも出来ないというのが実際の所だ。
走り込みから始めて、筋トレに移る。初めの頃は、この筋トレまでで朝の鍛錬は終
第18話 悪役令嬢が舞台に上がった日
次から次と馬車が到着しては荷物を降ろしていく。その荷物とそれを運ぶ人々で、校門の前はごった返している。
毎年、入学の時期に見られる光景だ。
混雑を避ける為に校門から少し離れた場所で、リオンはヴィンセントと並んで立って、その光景を眺めていた。
「来ました!」
目的の馬車を見つけて、リオンが声をあげた。
「あっ、そうだな。じゃあ、行こうか」
「はい」
校門に向かって、二人は駆けていく
第17話 行動、行動、行動
決断してからのリオンの生活は、一段と忙しいものになった。やらなければならない事は山ほどあるのだ。
まず力を入れたのは自己の鍛錬。最終手段はマリアを殺すこととしても、その力がなければ話にならない。
何といっても、魔法に関してマリアは天才と評される実力者で、学年どころか学院でも一番であることは、今となっては誰もが認めるところだ。そして剣に関しても、かなりの腕前を誇っている。魔法とは違って、学院で
第39話 再会の時、時が戻る
物語が始まるとすぐに、アリシア・セリシールは苛めを受けることになる。名家ではあるが貧乏貴族家の出であるアリシアが、ジークフリート第二王子と急接近したことを妬んだ女子学生たちの仕業だ。さらにその彼女たちを裏で操っているのはサマンサアン。動機は他の女子学生たちと同じだ。自分の婚約者に近づくアリシアが目障りだから。
アリシアにとっては辛い日常が続くことになる。これがゲームでの設定なのだが、今のアリシ
第38話 自分にとって大切なのは何か
王国中央学院でのクラス分けはホームルームや数少ない共通授業、年にいくつかある学院行事以外では、ほとんど意味をなさない。ほとんどの授業は文系と武系に分かれており、さらに実力テスト等によってグループ分けされて、行われることになる。生徒の実力に合わせた授業を行う為だ。
特に武系はグループによって、かなり授業内容が変わってくる。入学時点で、それが必要なくらいに実力差があるということだ。
「……まさか
第37話 学院生活初日からなんだか騒がしい
王国中央学院は身分に関係なく誰でも入学出来る学校だ、というのは当然、建前。平民は、貴族の子弟のようにほぼ無条件で入学出来るわけではなく、一般入学試験に合格しなければならない。文字の読み書きも出来ない庶民の子が、試験に合格できるはずがないのだ。貴族の子弟以外で入学出来るのは、王国に仕えている文官の子や有力貴族家の上級使用人の子、あとは商家や富裕農家など子供に教育を受けさせることが出来る財力を持つ家
もっとみる第36話 変わったもの、変わらないもの
ブラックバーン家を訪問してから一週間が過ぎているが、アリシアの心の動揺は未だに収まらない。アオがレグルス・ブラックバーンであった事実を受け止めきれないでいるのだ。
レグルス・ブラックバーンは世の中を乱す悪。王国に平和をもたらす側であるアリシアと対立する敵だ。そんなはずはないという想いがアリシアの心にずっと浮かんでいる。アオは多くの人を救う存在。自分と同じ側に立っているはずだと。だが、彼がレグル
第35話 始まりの時が訪れた
王都を囲む外壁の内側に入り、王都中心部に続く街道をさらに進む。馬車の窓から見える景色。「懐かしい」という気持ちが彼女の心に広がった。やがて何千回と行き来した場所に辿り着く。馬車を降りて駆け回りたいという衝動が湧き上がるが、それは出来ない。目の前に座る彼女付きの侍女、という役職のお目付け役が、それを許してくれない。貴族の令嬢がドレス姿で道を駆け回るなど、セリシール公爵家ではあり得ないことなのだ。