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【暦を楽しむ】

2017年1月20日に大寒を迎え、節分が過ぎれば、暦の上では一年が終わる。日本人は、二十四節気として、立春から大寒まで、季節を感じ、和歌を詠んできた。この風習を風化させてはもったいない。二十四節気とともに、それに関連した私の好きな和歌を紹介する。

立 春(二月四日頃)
「袖ひぢて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ」紀貫之
雨 水(二月十九日頃)
「今行きて 聞くものにもが 明日香川 春雨降りて たぎつ瀬の音を」作者未詳
啓 蟄(三月六日頃)
「我が畳(たたみ)  三重の河原の 礒の裏に かくしもがもと 鳴くかはづかも」伊保麻呂
春 分(三月二十一日頃)
「呉竹に ねぐらあらそふ 村雀 それのみ友と 聞くぞさびしき」二条院讃岐
清 明(四月五日頃)
「燕来る 時になりぬと 雁がねは 国偲びつつ 雲隠り鳴く」大伴家持
穀 雨(四月二十日頃)
「水を多み 高田(あげた)に種蒔き 稗を多み 選らえし業ぞ 我がひとり寝る」作者未詳
立 夏(五月六日頃)
「春過ぎて 夏来るらし 白栲の 衣干したり 天の香具山」持統天皇
小 満(五月二十一日頃)
「たらちねの 母が養ふ蚕の 繭隠り いぶせくもあるか 妹に逢はずして」作者未詳
芒 種(六月六日頃)
「高円の 野辺の容花 面影に 見えつつ妹は 忘れかねつも」大伴家持
夏 至(六月二十一日頃)
「夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ」清原深養父
小 暑(七月七日頃)
「かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける」大伴家持
大 暑(七月二十三日頃)
「大滝を 過ぎて夏身に 近くして 清き川瀬を 見るがさやけさ」兵部川原
立 秋(八月八日頃)
「秋風の 吹きにし日より いつしかと 我が待ち恋ひし 君ぞ来ませる」山上憶良
処 暑(八月二十三日頃)
「月見れば 千々にものこそ 悲しけれ 我が身ひとつの 秋にはあらねど」大江千里
白 露(九月八日頃)
「白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬき留めぬ 玉ぞ散りける」文屋朝康
秋 分(九月二十三日頃)
「吹くからに秋の草木のしをるれば  むべ山風をあらしといふらむ」文屋康秀
寒 露(十月八日頃)
「水のおもに 照る月なみを かぞふれば 今宵ぞ秋の 最中なりける」源順
霜 降(十月二十三日頃)
「葦辺行く 鴨の羽交ひに 霜降りて 寒き夕へは 大和し思ほゆ」志貴皇子
立 冬(十一月七日頃)
「木の葉散 秋も暮れにし 片岡の さびしき森に 冬は来にけり」 源実朝
小 雪(十一月二十二日頃)
「田子の浦ゆ うち出でて 見れば真白にそ 富士の高嶺に 雪は降りける」山部赤人
大 雪(十二月七日頃)
「わが里に 大雪降れり 大原の 古りにし里に 降らまくは後」天武天皇
冬 至(十二月二十二日頃)
「朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に ふれる白雪」坂上是則
小 寒(一月五日頃)
「宇治間山 朝風寒し 旅にして 衣貸すべき 妹もあらなくに」長屋王
大 寒(一月二十日頃)
「夜を寒み 朝戸を開き 出で見れば 庭もはだらに み雪降りたり」作者未詳

情景を詠んだものだったり、情景と恋を関連付けたものだったり、季節と気持ちの移り変わりを詠んでいたり。三十一文字の中に、無限の想像力を感じる。暦を楽しむ習慣を続けたい。そして、子どもたちに伝えたい。

すぐれた文学作品、古典に親しむことは、あなたの言葉をより美しくする。

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