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台湾ビールとは!? -ビールにおけるサラダボウルか、あるいは混沌か-

未だベールに包まれたオリエントミステリー、台湾ビール
皆様初めまして、昨年末より台湾クラフトビールの輸入販売をスタートしております、「むぎうぎ」と申します。
以後、お見知り置きいただけたら幸いです。

ところで台湾ビールといって、ピンとくる人はかなり少ないんじゃないかな、と思います。
もしかしたら青島ビールが思い浮かんだ方もいるかもしれませんが、青島ビールは中国のビールですので、台湾のビールとはまた別のものになります。

また、緑色のパッケージが特徴的な「台湾啤酒」が思い浮かんだ方もいるかもしれません。
こちらは最近、日本のコンビニでもよく見るようになりました。
「台湾啤酒」は国営の台湾煙酒公司が販売する最大のブランドでありますが、国営という背景から、台湾のビールのイメージとして取り上げるのはいささか適していないように感じられます。
また台湾煙酒公司には日本が果たした役割も非常に大きいものがありますが、それはまたの機会に・・・。
(それにしても「煙」と「酒」とは、どこの国でも、タバコとお酒は政府の専売特許になるのですね)

最近になって、少しずつ耳に聞くようになった台湾のビールとは、一体何なのか、どんな特徴があるのか?
その謎を紐解くために、まずは台湾のビールの歴史について見てみたいと思います。

台湾最大のベストセラービール「台湾啤酒」

台湾ビールの歴史
結論から申し上げますと、台湾のビールの歴史は、控えめに言ってもかなり浅いと言わざるを得ません。
イギリスがエールを、ドイツがラガーを、そして日本がそれらを取り入れて品質改良の研鑽に勤しんだような、長い歴史というものがありません。

この歴史を紐解くに当たり、むぎうぎでは契約ブルワリーの一つである"Jim & Dad's Brewing Company"の社長であるJim Sung氏にインタビューを行いました。

インタビューを快諾してくれたJim Sung氏は若き舵取り役


前述の通り、台湾では台湾煙酒公司が最大のビールブランドを持っているように、政府専売の力が強く働いている期間がとても長かったようです。
中には、コンビニなどで「台湾啤酒」からフルーツフレーバーのビールなどが出ているのを見たことがある方もいるかもしれません。
国営企業としては、先進的な取り組みと感じるでしょうか?あるいはそうかもしれませんが、これには台湾のビジネスシーンで起こったエピックな出来事が関連します。

台湾、自由市場という荒波へ
台湾のビジネスシーンで起こったエピックな出来事、それは2001年の「WTO加盟」です。
WTOへの加盟は、言うまでもなく世界の国々に対して市場開放を行うことが前提となっており、これを機に台湾のビール業界では大きな変革が起こります。
それは「民間による醸造の許可」です。
それまでは台湾煙酒公司が特権を持って、「台湾啤酒」などのビールを醸造していたものが、ここに民間に解放されるという、大転換点を迎えたのです。
Jim氏は2002年をして「台湾のビール業界の運命が別れた日」と形容している通り、ここから台湾のビールシーンは大輪の花を咲かせる ーために奔走することになります。

それにしても2002年に民間醸造が許可されたとは、何と若い市場でしょうか。日本最古のブルワリーであるスプリングバレーが横浜山手の天沼に創設されたのが1870年、閉鎖後にジャパン・ブルワリーから「麒麟ビール」が発売されるのが1888年ですから、Jim氏が「台湾にビールの深い歴史は無い」というのは、あながち自虐ネタという訳ではなさそうです。

民間ブルワリーのビッグバン
2002年の民間醸造許可以降、台湾では民間ブルワリーの創設が雨後の筍のように沸き起こります。
2023年現在、台湾のビール作りを支えているのは、この2002年をチャンスと捉えた開拓者精神に溢れる者たちと、その子ども世代になるのです。

J&D Brewing Companyは観光ブルワリーを確立

Jim Sung氏もそうですが、今の台湾ビール業界を支える人たちの多くは、親世代が子どもを留学させ、アメリカ、イギリス、ドイツなどで優れた品質のビールに出会い、その技術を吸収してきた世代が多いようです。

初めに「台湾にはビールの深い歴史が無い」と記しました(Jim氏の談)が、これは逆に、「伝統」という足枷がないこととも同義です。欧米で醸造の王道技術を身につけたブルワーは、台湾に帰って独自の醸造を試み始めます。深い歴史がないからこそ、そこには自由で、実験的な土壌が存在したのです。

花開く、台湾ビールのフレーバービール
クラフトビール愛飲家の皆様にとって、クラフトビールの醍醐味の一つは、何と言っても様々なフレーバーのビールではないでしょうか。
特に地域によって異なる地場の特産品を用いたビールは、舌にも満足なばかりか、それを制覇していく楽しみも、またひとしおでしょう。

台湾のクラフトビールは、まさにこのフレーバービールが大きく進展した市場と言えます。
むぎうぎで取り扱っているビールで、代表的なフレーバービールをいくつか取り上げると、"Dragon Fruit Orange Sour Ale"、"Passion Fruit Beer"、"Mountain Pepper Witbier"、"Grandma's Lemon Cake"、"白鷺紅茶ビール" などなどです。

むぎうぎでは、これ以外にも多くのフレーバービールを用意

こう見てみると、やはり台湾のビールは確かに南国の装いです。パッションフルーツやドラゴンフルーツなどは、何となく南国や台湾と結びつきやすいものだと思います。
その中で"Mountain Pepper Witbier"は、馴染みのない「馬告」(マーガオ)というスパイスが加えられています。調べてみると、学名は"Litsea cubeba"と言い、日本では「山胡椒」と訳されるようですが、台湾特産スパイスだけあって正式な日本名はありません。
紅茶ビールというのも興味深いものです。お茶とビールがマリアージュするのはクラフトビールでは珍しくないものですが、「台湾の紅茶」となるとその風味も味わいも気にならないでしょうか?

この他にもむぎうぎでは、雑穀、アッサム茶、ベリー、ゆず、珍しいものでは真っ赤な花が特徴の多年草「ローゼル」を使ったビールも取り揃えていて、飲み比べるには最高です。

愛飲家の発掘魂をくすぐる市場、台湾
これまで見てきたように、台湾のビール業界の「イマ」は、まだまだ歴史の大きなうねりの中にいると言えます。
自由市場として解放され荒波へと泳ぎ出し、数々のフレーバービールがその特徴として花開いている段階です。
もちろん、王道のIPAも豊富です。Hazy IPADouble IPASession IPAなど、IPAだけでも簡単には攻略できないのではないでしょうか。
もちろん馴染みのビールも、ラガー黒ビール白ビールと、その品質は目を見張るものがあります。
世界のビール博覧会で栄冠に輝いたビールもあるのです。

本記事の題の副題を「ビールにおけるサラダボウルか、あるいは混沌か」と設定しました。
伝統と革新、王道と実験ー。様々な要素が、複雑に絡み合ったまま一つの体を成していないのが、台湾のビール市場、ビール文化のような気がいたします。
これがこの先、それぞれの要素が一体となって素晴らしいハーモニーを奏でる文化を作っていくのか、はたまた捉え所のない無秩序のままフェードアウトしていくのかー。
そんな面白さと危険の両方を孕んだ、ワクワクする市場が台湾ビール市場なのです。

愛飲家の皆様は、いてもたってもいられないのでは、ないですか?

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