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【新刊試し読み】『いちばん探しの世界旅』〈わたしの旅ブックス36〉|吉田友和

2020年に「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行した吉田友和さんの最新刊『いちばん探しの世界旅』10月13日(水)発売されることを記念して、本文の一部を公開します。


本書について

世界中を旅してきた著者が、自分にとって“いちばん◯◯な国”を紹介。「ご飯がいちばん美味しかった国」「世界でいちばんカラフルな国」「世界でいちばん甘い国」など、ユニークな視点で選んだ25ヵ国を掲載しています。
読むだけで、世界の国めぐりを楽しめる一冊になっています。


試し読み

テーマ1 世界でいちばん美味しい国―タイ
 
 初っ端となる本項では、「ご飯がいちばん美味しかった国」について紹介してみたい。ベタだけれど分かりやすいテーマなので、「はじめに」で書いた、「一番良かったのはどこですか?」という質問を受けたときによく答える内容でもある。
 自分にとってご飯の美味しい国―それは、タイだ。迷うことなく、即答である。
 こればかりは好みの問題というほかない。前世がタイ人だったのではないかと思うほど、あの国の食事は我が口に合う。1週間ぐらい滞在したとして、その間3食すべてタイ料理だったとしても文句はないほどだ。
 単純に辛いものが好き、というのもあるが、タイ以外にも料理が辛い国はたくさんあるから、それだけでは説明がつかないだろう。というより、タイ料理というとスパイシーな味付けを想像しがちだが、別にすべての料理が辛いわけではない。
 たとえば、タイの屋台ご飯の定番である麵料理などは、タイの食文化を知る上で分かりやすい例といえるかもしれない。丼に入った、日本でいうラーメンのような食べ物で、日本では「タイラーメン」などと呼ばれたりもしている。
 注目すべきは、タイラーメンの店ではテーブルに必ず種類の調味料が置かれていること。粉末唐辛子、ナンプラー、お酢、砂糖の4つだ。そのままでは薄味なので自分で好みの味付けにして食べるのだ。
 タイ料理というのは辛いだけでなく、しょっぱかったり、酸っぱかったり、甘かったりする。あらゆる味が混じり合って、不思議と調和が取れている。これぞタイ料理の真髄なのだが、唐辛子と砂糖という真逆の味を一緒に入れるのが興味深い。  タイラーメンの店では、注文するときに客が麵の太さを指定するシステムになっていることもユニークだ。麵は細い順にセンミー、センレック、センヤイという。それらはいずれも米粉でできたビーフンで、ほかにバミーという小麦の黄色麵もある。
 さらにはスープなしにしてもらい、混ぜそばのようにして食べるのも美味しい。自在にカスタマイズできるこの柔軟性もまたタイならではだ。
 ご飯が一番美味しい国タイにおいて、一番好きなメニューは何かというとガパオライスである。挽肉のバジル炒めをご飯の上にかけたもの。目玉焼きが乗っているのが定番スタイルだ。大皿料理ではなく、定食のような一品なので、一人旅で食べやすいのもいい。
タイを旅するときは、到着して1食目はまずガパオライスと決めている。その際、ついでにシンハービールで乾杯するのもお約束のひとつ。夢のような瞬間である。  日本では「ガパオライス」という呼び方が浸透しているが、「ガパオ」というのはタイ語でバジルの意味。注文するときは「パッ・ガパオ・ガイ・カイダーオ」などと言うのが正しい。実際には「ガパオ・プリーズ」だけでも結構通じたりするが……。
「パッ」が炒める。「ガイ」は鶏肉で、この部分を豚肉を意味する「ムー」などに変えることもできるが、個人的にはガパオライスは鶏肉がベストだと思う。最後に「カイダーオ」を付けることで、目玉焼きを乗せてくれる。
 こうして書くと、タイ語に詳しい人間と誤解されそうだが、自分が知っている単語なんてごく一部だ。それも、料理にかかわるものばかりである。美味しいご飯にありつくためにはその国の食文化を理解したほうがいい。食文化について学ぶうちに、自然と関連する現地語も覚えていくものだ。
 タイは自分にとって一番訪問回数の多い国だが、ご飯が美味しくなかったら、きっとこれほど頻繁に通わなかっただろう。ご飯が口に合うかどうかは、やはり重要な条件なのだ。
 世界一周では45ヵ国を旅したが、日本を出て最初に到着したのがタイだった。ついでにいえば、その世界一周は自分にとって生まれて初めての海外旅行でもあった。つまり、タイは自分にとって旅の原点とでも呼べる存在。結果的に、一番最初に「いちばん」に出会っている。つくづく、縁があるなあと思うのだ。

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目次

世界でいちばん美味しい国―タイ/世界でいちばん驚く国―中国/世界でいちばん高い国―スイス/世界でいちばん大きい国―アメリカ/世界でいちばん近い国―韓国/世界でいちばん真面目な国―ドイツ/世界でいちばんバイクな国―ベトナム/世界でいちばん人が多い国―バングラデシュ/世界でいちばん意外な国―ロシア/世界でいちばんメルヘンな国―ポーランド/世界でいちばん幸せな国―ブータン/世界でいちばん寒い国―フィンランド/世界でいちばん猫好きな国―トルコ/世界でいちばん甘い国―フランス/世界でいちばんかっこいい国―イギリス/世界でいちばんカラフルな国―メキシコ/世界でいちばんきれいな国―シンガポール/世界でいちばん買った国―モロッコ/世界でいちばん自転車な国―オランダ/世界でいちばんやさしい国―ネパール/世界でいちばん眠かった国―スペイン/世界でいちばん手軽な国マレーシア/世界でいちばんコーヒーな国―エチオピア/世界でいちばん前向きな国―キューバ/あとがきにかえて 世界でいちばん住みたい国―日本


著者紹介

1976年千葉県生まれ。2005年、初の海外旅行であり新婚旅行も兼ねた世界一周旅行を描いた『世界一周デート』(幻冬舎)でデビュー。その後、超短期旅行の魅了をつづった「週末海外!」シリーズ(情報センター出版局)や「半日旅」シリーズ(ワニブックス)が大きな反響を呼ぶ。2020年には「わたしの旅ブックス」シリーズで『しりとりっぷ!』を刊行、さらに同年、初の小説『修学旅行は世界一周!』(ハルキ文庫)を上梓した。近著に『大人の東京自然探検』(MdN)『ご近所半日旅』(ワニブックス)などがある。


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『いちばん探しの世界旅』著/吉田友和
【シリーズ】わたしの旅ブックス
【判型】B6変型判(173×114mm)
【ページ数】208ページ
【定価】本体1,210円(税込)
【ISBN】978-4-86311-312-1


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「わたしの旅ブックス」とは

“ 読む旅” という愉しみを提供する、がコンセプトの読み物シリーズ。さまざまな分野で活躍する方々が、自身の旅体験や旅スタイルを紹介し、人生を豊かに彩る旅の魅力を一人でも多くの人に伝えることをめざしている。ジャンルは紀行、エッセイ、ノンフィクションなど。