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自転車旅見聞録メキシコ編 / 砂漠のヤシの木

広大なサラサラの砂砂漠の中にポツンと現れる陸の孤島の街。そこは椰子の木が生い茂り鳥がたくさん鳴いていて、街のまんなかには立派な噴水がある。街の人たちは仲間たちとどこかの家の前に腰掛けて大きな声で喋り、行商人はラクダに果物やら荷物をたくさん乗せてなにやら口論している。

どこから来たのか私にとってのオアシスは、こんなイメージ。今回実際に訪れたオアシスは、メキシコはバハカリフォルニア半島にあるムレヘ(Mulege)という名の海沿いにあるオアシスだった。鉱山の町サンタロザリアを出て岩石砂漠の山道を越えながら自転車を漕いでいたら、突然椰子の木が密集した光景が目に入った。オアシスだ!と思い、ついつい漕ぎ足が早くなる。街の入り口にあるbienvenidos(ようこそ)の看板をくぐり、まずは水が足りなくなってたので水を計り売りしてくれる商店を探す。ボトルに入った水は桁違いに高価なのだ。3件目でようやく見つかり、店主の爺さんが英語を喋るので少し挨拶をして、次は果物を探しに行く。

クリスマス休みの季節だからか、アメリカから来てる車やバイクの旅行者がたくさん目に入り、どうりで商店のお爺さんも近くの海岸の監視員も英語を喋ってたし、よく見ると街のお店の看板やメニューの所々が英語で書いてあった。他の街ではあまり見ない風景だから、ここのオアシスはアメリカからの観光業が大きな資源の1つなんだろう。センスが良くて庭の広い家をたくさん見たけど、もしかしたら全部アメリカ人の別荘とか、貸し宿なのかもしれないな。

このオアシスに滞在する予定は無かったので、珍しい植栽を探したり色鮮やかな商店を見て街をブラブラ観察しながら通り過ぎようとしたら、街の端に突然大きな川が現れた。バハカリフォルニア半島に来て約1ヶ月の間、地図で見ると川があっても実際に現地に行くと必ず干上がっていた乾季の砂漠地帯。久しぶりに見る淡水の水源には心躍った。見た事のない白くて足の長い小さな鳥が水中の魚を捕まえようとしていて、川の両岸にはたくさんのヤシの木が立ち並び、その向こうには岩石砂漠の山と、濃紺の海が見えた。

キャンピングカーの旅人がくれたロンリープラネットのガイドブックによると、ムレヘのあたりから砂漠とは呼ばなくなるらしい。確かに北部に比べるとサボテンは減ってきて、緑の葉のある植物も増えてきたから、土質は変わってきているのだろう。それでもあの密集したヤシの木は水辺にしか自生しないし、バハカリフォルニア半島を1500km走って初めて見つけた淡水は、まぎれもなくオアシスだ。噴水は無かったけれど植物も鳥も人も集まる賑やかな場所だった。生命は例外なく水ありきで、全ては水から始まっている。大きな循環の中に自分も有るということを忘れずに、次の場所へ向かおうと思う。


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