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持たない生き方。作るだけの生き方。

久々のnote復帰。MONO JAPANの来年2月の開催をめぐり調整や対話、そしてオランダの認知症介護についての翻訳プロジェクトの締め切り、また自宅のリノベなど、自分のコアの生き方&仕事に集中した7月だった。それはそれで、大切な時間であり、素敵なことだった。

私は、自分とは違う人生の生き方、捉え方をしている人、その中でも勇気ある人や美しい何かを作る人が大好きだ。今日はオランダ人のアーティスト、ポール・ベウマー(Paul Beumer)さんとの出会いについて文章化したくなった。

ポールは、藍染や樹皮などを使った伝統工芸のある世界の国々に行き、そこで現地の職人に学び作品を制作するアーティスト。数ヶ月前にオランダの国際文化協力機関にポールを紹介された。日本の伝統工芸の作り手で彼を受け入れていろいろ教えてくれる先を探しているとのことだった。

彼の作風を見て、日本の伝統的なマテリアルや技で素敵な作品が生まれそうだと可能性を感じ、是非会って話をしてみたいと思った。

私は仕事柄、普段こういうお願いや質問を山ほど受けるので、「仕事として依頼してくださーい」などとお断りするんですが、ポールに関しては別のモチベーションが生まれました。それは、

日本の素材や技は往々にして、日常品だと”ペイされない”(欧州では高額になりすぎる)。アート作品としてその美しさを長く価値として愛でることができるものにする方が良いのではないか

という自分のもともとの持論に対し、何らか行動に移せるチャンス?と感じたからだ。

最初ポールは、特にアイヌの伝統的なものづくりの技の中に魅力を見いだしていたが、少し話して彼がそんなに他の地域のモノづくりの情報を持っていないと感じた。これだけネットが便利な時代でも、きちんと言語情報&視覚化できてないと、どうしても欧米人はリーチできない。

私はアイヌの作り手さんたちと直接のコネクションを持っていないので、私が知っている他の地域の伝統工芸やメーカーさんの中でも相性が良い場所があり、紹介できるんではないかと思った。幸いにも直感的に合いそうなメーカーさんが頭に浮かび、その方も興味を持ってくれているので、もしかしてこの2者はとても良いコラボレーションをするのでは?とすごく期待している。そして私もできる限り関わりたいと思っている。

ポールは、これまでのナイジェリアのアフリカ最古の藍染の産地に行って制作したり、ボルネオに行ったり、いろんな場所に旅している人で、彼は家を持たず、年に2週間ほどしかオランダにはいない。彼の人生の持ち物は、スーツケースひとつ分。

本当なら今頃は彼の展示がインドネシアで行われ、彼もそこにいるはずだったが、コロナウィルスにより彼は今年はずっとオランダにいることになってしまった。現在は友達の家に居候している。

最近ではポールはアジアの国に滞在して制作することが多かったので、生活費も安く済み、彼が制作した作品はすべてオランダの彼が契約するギャラリーが売ってくれるから、お金にも困らない。唯一本だけはたくさん読むので、親の家で本だけは預かってもらうそうだ。

私は現在まあまあいい年頃になってきて、家のリノベで忙しかったりという、「持つ人生のフェーズ」に差し掛かっている。そんな私にポールとの出会いとライフスタイルは、時間をかけてじわじわ効いてくるパンチというか、地味にずーっと考えてしまう衝撃的なコンセプトだった。

快適な家や素敵な服や毎日自分好みのお料理や・・・といった五万とある現代人の欲求を断ち、知らない土地でインスピレーションを受け100%言葉も伝わらない環境で、未知の素材と製法で芸術的な作品を創り出す。

作った後はギャラリーに送る。で、また違う国に旅立つ。

作品は丁寧にギャラリーが彼の作品を愛するオーナーを見つけ、その持ち主の家や施設へと旅立っていく。アート作品なので消耗せず、何年も何年も美しいまま持ち主の人生を愉しませてくれる。

すごくないですか?そういう人生。

私にとって、ポールのそんな生き方は眩しいし途方もなく憧れを感じる。私は人生の中で何度か、こういう生き方に憧れる時期がある。しかし私には、快適さや清潔さを諦めることはできないと経験上知っている。もっとも私はポールのように人が欲求するような美しいものは作れない。

でも、ポールのシンプルでサーキュラーな生き方って自分にもヒントになる。きっと的を絞って生き方をシンプルにし、それがサーキュラーになるようにすればいいんだと思う。

*上の写真はライデン民族学博物館のオセアニアの樹皮を使ったペインティング作品で、ポールさんとは関係ありません。単なる樹皮つながり。


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