「ガラは悪いが、腕はいい」富山・高岡の若手職人たちは濃い・アツい・面白い! 高岡クラフツーリズモ2022体験レポート
富山県高岡市の高岡伝統産業青年会から取材依頼があり、主催する『高岡クラフツーリズモ2022』の体験会に参加してきました。
高岡伝統産業青年会って?
ガラが悪いが、腕はいい。インパクトのあるフレーズです。高岡伝統産業青年会(以下、伝産※でんさんと読みます)は、50年の歴史を誇る団体です。現在のメンバーは約40名で、その全員が40歳以下であることに驚きました。40歳になると「卒会(そつかい)」するのがならわしだそうです。
高岡クラフツーリズモ2022
伝産は毎年イベントを開催しています。2022年9月25日開催の『高岡クラフツーリズモ2022』は、久しぶりのリアル開催ということで、編集部は一足お先に体験させていただきました。
編集部が体験したのは、Cコースの『銅物(どうぶつ)を付けよう!オリジナルコースター作り』です。
🌟高岡クラフツーリズモの特徴
仏具や銅器で栄えている高岡市は、細かい分業制でものづくりをしています。今回体験したCコースでは、鋳造→着色→金箔加工という順番で、3ヶ所の工場を周ることで、コースターを少しずつ完成させながら分業制である高岡のものづくりを体験することができました。
先に完成品をお見せします。このコースターがどういった流れでできあがっていくのか、是非ご覧ください。
1)ロストワックス精密鋳造の現場を見学
最初に訪れたのは、高和製作所さんです。ロストワックス精密鋳造を用いて、仏具や置物などを製造している企業です。
高和製作所さんでは、コースターとなる銅板の面取り、ロストワックス精密鋳造であらかじめ作っていただいた動物のパーツの取り付けをしました。
やすりを手にしたことも、銅板を手にしたことも初めてだという参加者の方も、時間をかけて削っていくうちにコツを掴んできたとおっしゃっていました。
代表の上坂 成次(こうさか せいじ)さんは、この道40年以上というロストワックス精密鋳造の職人さんです。ロストワックス精密鋳造の歴史、製法をよくご存知の方です。上坂さんがかつてまとめたという自作の「ロストワックス精密鋳造本」を片手に、お話ししてくださいました。
「こういうのをきちんと本にまとめて伝えていきたいんだよね。」と成次さんは語ります。同社のメンバーで伝産にも参加している上坂 佳広(よしひろ)さんは、「昔は、技術を外に出さないため製法や内部のことをこんなふうにしゃべることはなかったんです。だから、みんな伝えたくて仕方ないんです。」と笑っておられました。
2)銅の着色を見学、体験
次に一行が訪れたのは、有限会社モメンタムファクトリー・Oriiさんです。Oriiさんは、銅をはじめとする金属の腐食や錆という特性を人為的に発生させ、青銅色や鉄漿色(おはぐろ)などの色を出すという着色技術をお持ちの企業です。高岡ならではの仏像やお茶道具の着色はもちろんのこと、自社製品も多数開発しておられます。着色技術の詳細は以下のリンクをご覧ください。
着色というものは、ものづくりの世界でもちょっと特殊な立場にある技術だと感じています。寸法とは違い、これが正解だという数字がないことが多く、見る人や環境によって感じ方が異なるからです。感じ方という言葉からも、芸術の要素を感じます。この件についてモメンタムファクトリー・Oriiの従業員の方に質問してみると、「たしかに同じように見えても色は違います。同じ人がやっても、5年前と今日では微妙に変わっていると思います。」とのことです。
Oriiさんで体験したのは、作ったコースターの着色工程です。糠焼き(ぬかやき)という技術を体験させていただきました。
糠焼きとは、その名の通り糠を焼くことで着色する製法です。
糠みそに塩などを混ぜたものをコースターに塗ります。壺に入れられた糠からは、独特の発酵した匂いがしました。
次にコースターをバーナーで焼きます。糠焼きの「焼き」とは、文字通り火で焼くことだったのです。Oriiの櫻野 祐一(さくらの ゆういち)さんのサポートのもと、ひとりひとり焼き入れの体験をさせていただきました。このバーナーはずっしりと重く、緊張の瞬間でした。
全体的に焼けたら、水に入れて一気に冷却します。
するとこんな模様が現れました!
同じ銅板、同じ糠を使っていても乗せ方や火加減の違いで、こんなに模様が変わることに一同驚きです。
次に、緑青(ろくしょう)というあおみどり色を出すために、着色用の液体を塗り、乾かします。これを何度か繰り返すと色が定着していきました。
糠焼きの色に、あおみどり色が重なり、一気に風合いが増しました。糠焼き同様、付け方や量の違いで模様が変わります。着色するまでは同じような見た目だったコースターが、その人だけの模様に変わりました。
3)仏壇、仏具を学び、金箔づけを体験
最後に訪れたのは、株式会社大越仏壇さんです。仏壇仏具の製造販売店です。仏壇の修理も多く、今回は修理の様子や過程を見学させていただきました。
大越仏壇さんでは、修理の依頼を受けた後まずは仏壇を全てバラバラに解体するそうです。「壊れているところだけ修理すればいいのでは?」と思いましたが、それは愚問でした。仏壇は木で作られているため、内部の腐食が結構あるそうです。
昔は着色に使われた金箔がとても高価だったため、見える部分しか金色に塗らないということもよくあったそうです。参加者一同「知らなかった!家に帰ったら見てみよう。」と盛り上がったシーンでした。
仏壇や仏具で有名な高岡市ですが、「そもそもどうして仏壇が必要なの?と思いませんか?」と営業の山田 純也(やまだ じゅんや)さんに問いかけられ、「たしかに・・・」と考え込む一同。仏壇の装飾ひとつひとつに込められた意味や、毎日仏壇に手を合わせるのは、今日1日の自分の行いを振り返り、人に感謝し穏やかな心で明日を過ごすためと教わりました。
「地獄というのは、あの世に行ってからではなく、日常の中にあるものなんです。」という衝撃的な言葉から解説が始まった「六道」の世界のお話し。一同食い入るように話を聞き、改めて身が引き締まる瞬間でした。
大越仏壇さんでは、最終工程の金箔付けを体験しました。液体の接着剤を塗り、その上から金箔を貼っていきます。言葉にするとこんなに簡単ですが、とても繊細で難しい作業です。
金箔は薄くて柔らかいため、持つだけでも一苦労です。油断するとすぐによれてしまいます。細かい部分や入り組んだところは、小さくほぐした金箔を筆にとり、トントンと押しつけるようにして付けていきます。
みかん箱に乗せて
移動の際は、みかん箱にコースターを入れていたのですが、果物や野菜の段ボール箱を通い箱(かよいばこ:製品を輸送する箱)として使う昔ながらの方法を再現しているそうです。
改めて、冒頭でご紹介した完成品はこちらです。参加者ひとりひとりのカラーが出たコースターとなりました。1日かけて完成させ、達成感もひとしおです。
分業制と言葉ではわかっていても、それぞれの工夫、こだわりを積み重ねて一つの製品を作るというその現場を体験することができ、より理解が深まりました。
こういったものづくりはほとんど初めてだったという参加者の方からは「実際に手を動かしてやってみることで、話していることが“こういうことだったのか!”と理解できて、良い経験だった。」「製品だけではなく、それを作っている職人さん方の仕事や思いを知ることができて面白かった。」という声がありました。
ものづくりが好きなら、富山県高岡市へ!
残念ながら2022年9月25日の「高岡クラフツーリズモ」のツアーへの募集は終了していますが、前日に『暮らしにいきる伝統のかほり展』が開催されます。
下のリンクは昨年の様子です。
この展示は、高岡の職人の「ワザ」にフォーカスを当てた展示会です。それぞれの職人の持つ技が事細かに展示されています。注目なのは、できあがった製品をただ置くだけの展示会ではないということです。できあがる途中の製品を展示して「ワザの見える化」を試みています。伝産のみなさんは、どうすれば自分たちの技術や強みを伝えられるのかと日々探求しておられます。
室内を飛び出し、駐車場を展示会場にしている点もポイントです。広いスペースを使うことで、大きなものでも展示できます。
『伝産 技術マッチング』という取り組みもあります。高岡の職人とデザイナー・クリエイターとのマッチング企画で、「こんなもの作ってみたいけど、作り方がわからない・・・」という人は必見です。
以下のリンクは、昨年の様子です。
また、伝産が深く関わっている『高岡クラフト市場街』というイベントも同時開催されます。(2022年9月23日〜25日)ものづくりに触れてほしいという思いからはじまった「ヒト」、「食」、「マチ」が一体となるクラフトイベントです。展示販売やものづくり体験が市内のあちこちで開催されます。
是非、富山・高岡に足を運んでみてはいかがでしょうか?
あとがき
ものづくり体験といってもその中身は多種多様で、最終仕上げだけをさせてもらえる体験もあれば、ちょっと難しい作業でも挑戦させてもらえる体験もあります。高岡クラフツーリズモの体験は圧倒的に後者です。
贅沢に時間を使い、こんなにもたっぷり見て、聞いて、ものづくりさせていただける体験ツアーは珍しいのはないかと感じました。伝産のみなさんは「その分、人数を絞ることにはなってしまったのですが・・・」とおっしゃっていましたが、高岡のものづくりを濃く、アツく、たっぷり伝えたいという思いが伝わりました。
ものづくりが好きな方は、とにかく一度高岡に行ってみてください!と言いたくなるそんな濃い体験をしました。
この度お世話になった高岡伝統産業青年会の皆さん、ありがとうございました。この場を借りて御礼申し上げます。