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【短編小説】Everything〜すれ違う時の中で〜

#短編小説 #すれ違う時の中で #Everything #ラブソング #ピアノバー #小説 #フィクション #Ai_Ninomiya

毎月1日は小説の日という事で、
今月も短いストーリーを描きたいと思います。
ここ最近、
お気に入りの音楽をモチーフに書いていたら、
物語が繋がってきてしまいましたね。
今回もなんとなく、
前回の続きになってしまいました。

さて、今回のテーマ曲はこれです。

ジョイのピアノに魅かれたリコ。
そして、路地裏のピアノバーの2階で
二人の生活が始まって行ったのですが・・・

今回はどんな物語になるのやら・・・
今回もスクラップブックに、
お気に入りの写真を貼るような感覚で、
描いてみました。

1話はこちら

2話はこちら・・

今回も約3000字の物語です。
お時間がある時にお読みください。

Everything〜すれ違う時の中で〜

「ちょっと黙っていて」
リコはつい言葉を荒げた。
ジョイはリコが仕事にでかける際に、
いろいろ世話をやいただけだったが、
リコにはそれが気に入らなかった。

リコ自身もなぜ苛立っているのか?
自分自身も解らなかった。
女性特有の気持ちの上下なのか?
体調の問題なのか?
今までにない感覚を覚えていた。

リコはその夜、路地裏のピアノバーには
戻らなかった。

リコは1週間ほど会社を休んでいた。
その間ジョイからの連絡はなく、
リコ自身も連絡をしなかった。

リコはアパートの片づけを始めた。
もやもやした気持ちを晴らす意味もあった。
気分を変えて引っ越すのも良いと思った。
気持ちを整えるように荷物を整理しはじめた。

家具や家電はリサイクルショップへ。
服は古着屋へ。

そうこうしていると、
リコの1DKの賃貸マンションの部屋には、
何も残らなかった。

数冊残していたハードカバーの隙間から
2枚の写真がでてきた。
1枚は浮気性の前の彼氏のものだった。
リコは彼氏との思い出に、
少し心揺さぶられながらも、
破いてゴミ袋に押し込んだ。

もう一枚はジョイと一緒に映っている
写真だった。
雑誌のバー特集の取材で来たカメラマンが、
二人で歌っている時の写真や、ピアノの前で
話をしている時の写真を何枚か撮った。
その時の1枚だった。
ジョイの笑顔がとても素敵に映っていた。

リコは胸が締め付けられる思いでいた。
<会いたい><今すぐ会いたい>
素直な気持ちに気が付いていた。
環境や、国籍や年齢は関係ない。
一番大事なのは今の自分の気持ち。
誰を想い、誰を愛したいか?
そんな気持ちに気がついたリコは、
速足でピアノバーへ向かっていた。



リコが路地裏のピアノバーの重い扉をあけると、
そこにジョイが居るはずだった。
しかし、ピアノの前にジョイは居なかった。

「やぁリコさん」
マスターが声をかけてきた。
目でカウンターを促した。
リコはカウンターに座りマスターを見た。
「ジョイは居ないの」
ちょっと荒げた声のリコに、
マスターは首を横に振った。
「ジョイはアメリカさ」
そういうとリコの前に封筒を差し出した。
中には二階の部屋の鍵が入っていた。
使い古された鍵だった。

ジョイが帰ってくるのか来ないのか?
なぜリコにこのカギを渡したのか?
リコは頭の中が真っ白になった。
また大事なものを失ってしまう不安に、
襲われていた。

マスターは黙って、
ジントニックをリコの前に置いた。
リコはカギを見つめたまま、
動けないでいた。

リコはカギを握りしめたまま
ジョイの部屋にいた。
少しずつ増えたリコの洋服や化粧品も
そのままだった。

リコは心の底から涙を流して泣いた。
そしてジョイを深く愛している事に気が付いた。
些細な喧嘩もそれは愛情の裏返しである事に、
リコは気が付いた。
リコが本当に必要としているのは、
ジョイである事に気が付いた。

リコはいつも二人で寝ているベッドに、
顔をうずめて泣いた。
ジョイの香りが残るベッドで泣いた。
いつの間にかリコはジョイのベッドで眠っていた。
子どもが泣き疲れて眠るように。

「やぁリコ、目が覚めたかい」
リコがジョイのベッドで目覚めると、
リコの前にジョイのいつもの笑顔があった。
リコはジョイに抱き着き
何度も何度もキスを交わした。
「ごめんなさい、すごく寂しくて、
 すごく不安だった。あなたが居なくなると思ったら
 私の胸が苦しくて息ができない程だった」
そう言うと、リコはまたジョイの唇を塞いだ。

「リコ、分かったから、少し寝させてくれないか、
 この部屋に帰ってきて、
 ずっと君の寝顔を見ていたんだ。
 少し時差ボケを直したいから寝させてくれ。
 今夜はステージで一緒に歌おう」

そう言うとジョイは、リコの横に潜り込んだ。
リコは黙ってジョイの胸に頭を乗せて
眠った。

路地裏のピアノバーには、
沢山のお客さんが来ていた。
まるで今夜ジョイが演奏するのを、
知っているかのようだった。
リコも店の手伝いをした。
カクテルはさすがに作れないが、
ビールやおつまみをテーブルに
運ぶことくらいは手伝えた。

やがてジョイが演奏を始めた。
お客さんたちがそれぞれの飲み物を飲みながら、
ジョイの演奏に聞き入っていた。

「じゃー今夜最後の曲です」
そう言うと、一層拍手が大きくなった。
「リコ、一緒に歌ってくれないか」
マスターがリコに目で行っていいと言っていた。
リコは半分嬉しそうに、半分不安そうな表情で、
ジョイのピアノの横に立ち、マイクを手に取った。
「Everything」
ピアノのイントロからハミングそして歌へ。
リコとハモルように歌い出した。

・・すれちがう時の中で・・
・・・・・・・・・・・・・
・・My Everything・・

エンディングのピアノの音が静かに消えていく。
ジョイは立ち上がり、リコの前でひざまずく
「リコ、僕と結婚してください」
そういって差し出したのは、
ブルートパーズの指輪だった。
リコは何が起きてているかわからず、
ジョイを見ていた。
ただリコの大きな瞳からは、
大粒の涙がこぼれ落ちていた。
リコはジョイの手を取り
Yesの代わりに口づけをした。

お客さん達から歓声が沸き上がり
次々に花束を持って、
ジョイとリコたちのもとにやってきては、
「おめでとう」「おにあいよ」という言葉を
残して席に戻っていった。
ピアノの周りが花束でいっぱいになった。

ジョイが
「皆さんありがとう、今日は最高の記念日です」
そういうと、ジョイがリコの左手の薬指に
ブルートパーズの指輪をはめてくれた。
「これは母の形見なんだ、
 アメリカにこれを取りに行っていたんだ
 もらってくれるかい」
リコは黙ってうなずいた。
ジョイは最高の笑顔でリコを抱きしめた。
会場からもう一度拍手が沸き上がった。
リコはジョイをまっすぐ見て。
「ありがとう」と一言だけいった。
リコの声には、
大きな想いと強い意志が感じられた。
<ありがとう>はもう迷わないかからと
言っているようでもあった。

マスターがシャンパンの栓を抜いた。
<ぽん>と大きな音が
路地裏のピアノバーに響きわたった。
二人の門出を祝う出航の合図のように聞こえた。

おわり

編集後記

今回MISIAのEverythingが気になった理由がある。
それはコロナ明け、3年ぶりのカラオケだった。
ラウンジで飲んでいるのは、
私のグループと病院の先生2人の、
二つのグループだった。
一人の先生がマイクを手に取る。
恰幅の良い体から、
何とも言えぬ声を出すのだった。
もうずっと聴いていたい程に、
甘い高音の声で歌い、
余裕がある歌い方だった。

その先生が歌ったのが、「Everything」
この歌が忘れられず、
何度も何度も頭の中でリピートした。
今回小説のモチーフを考えていた時に、
この「Everything」
すーーっとはまった感じがしたので、
描いてみました。

恋は盲目です。
すれ違いや思い込みもあるけど、
ほしいと思った時には、
タイミングを逃していたりするんですよね。
けれど、最後の最後に、
一筋繋がっている運命の糸は、
必ずあるようにも思うのですよね。

これは恋愛に限らず、様々なご縁の中にも
運命の糸はあると感じています。
皆さんも運命の糸を見逃さず、
ちゃんと掴んでください。
きっと希望という名の鐘に繋がっているはずです。

本日も長文を最後まで読んでいただき、
ありがとうございます。
皆様に感謝いたします。


サポートいただいた方へ、いつもありがとうございます。あなたが幸せになるよう最大限の応援をさせていただきます。