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【短編小説】クリスマス ストーリー

#フィクションストーリー #ショートストーリー

クリスマスストーリー


「あなたばかじゃないの・・もっと女性の心理を勉強しなさい」
由香の言葉を思い出していた。

僕は会社帰りにいつも二人で待ち合わせをしていた
公園に車を停めていた。
昨日から降り出した雪で、駐車場は一面雪に覆われ
ホワイトクリスマスになっていた。
FMからはクリスマスソングが流れていた。
僕は車の中でじっとクリスマスソングを聴いていた。

カナダからのLINE

カナダからLINEが届いたのは1週間前だった。
<今年のクリスマスは日本に帰ります>
グループLINEに彼女がカナダの雪景色と一緒に送ってきた。
僕はすぐに彼女にLINEを返した。
<今年のクリスマスはいつもの所でまっている>
グループLINEではなく、彼女個人へ送った。
すぐに既読にはなったが、彼女から返事は帰ってこなかった。

回想

由香と出会ったのは、新入社員歓迎会だった。
3つ年下の彼女が会社に入社してきてすぐの
歓迎会で僕は彼女が気になっていた。
黒髪のストレートが腰のあたりまであり、
その髪をポニーテールにした彼女に
釘付けになったともいえる。

新入社員らしい白いブラウスと濃紺のスーツ姿に
優しい顔立ち
大きな瞳が放つ光が芯の強さと、
何処か引き込まれるような視線を感じていた。
彼女は、年齢よりも少し大人びた雰囲気をだしていた。

僕は彼女に猛アタックをして何とかファーストデートにこぎつけた。
二人で話すと彼女はけらけら笑った。
以外に少女のあどけなさを見せる場面もあった。

右側だけえくぼができる彼女がとってもいとおしく思って
どんどん彼女にのめりこんでいった。

僕は正式に交際を申し込んだ

秘密の返事

会社のオフィスでパソコンに向かっていると
社内便が届いた。
会社では違う部署へ書類を届ける時
社内便というシステムがあり
そのシステムを使って由香がメモを送ってきた。

封筒に入ったパイナップル柄の付箋メモに
OKとだけ書いてあった。
僕が正式に交際を申し込んだ返事らしかった。
LINEではなく、メモを送ってきたところに
彼女の可愛さを感じていた。

僕はLINEカメラでそれを撮影して
彼女にありがとうの返事を送った。

カナダへの想い

由香と付き合って3年が過ぎようとしていた冬
彼女がとつぜん会社をやめると言い出した。
僕はわけがわからず彼女を攻め立てた。
これから結婚も意識して二人で準備をするはずだった。

僕は彼女になぜ会社を辞めるのか何度も聞いた。
彼女はそのたび話をはぐらかした。
険悪な雰囲気のまま3月になり、
僕は彼女に理由をきけないまま、送別会になった。

LINEグループのメンバーは最後に気を使い
二人で話す時間を作ってくれた。
彼女は
「カナダに行くの、UBC(University of British Columbia)へ行くの」
僕はきょとんとして彼女の顔を覗き込んだ
「だまっててゴメン、でもどうしてももう一度勉強したくなったから
 3年間お金を貯めてたの」

ただただ何も言えない僕に彼女は続けた
「自然科学(特に森林資源)を学びたいの、
 みんな、これからの地球環境を考える時期だと思うの、
 このままただ会社に勤めて、結婚して、
 それは幸せな人生かもしれない、
 でもこのままじゃいけないと思うのよ、
 だからカナダにいくわ」


僕は彼女がそんな事を考えているなんて思っていなかった。
ただ今が楽しく、彼女の笑顔が隣にあるだけで
幸せを感じていたノー天気な人間であることに気が付いた。
僕なんかより彼女はもっと先を見ていた事に、驚いていた。

彼女の気持ち

「全部理解できないけど、由香の気持ちは分かった、待っているから・・」
そう言いかけると彼女は突然僕の唇を自分の唇でふさいだ
そして
「お願い、私を待たないで」
少し潤んだ声でそう言った。
僕はまた頭を殴られたような気持ちになった。
「待たないでって言っても待ってるから」
そう言うと
「あなたってバカじゃないの、もっと女性に心理を勉強しなさいよ」
そう強い口調で言ったのだった。
彼女には珍しい強い口調に、僕は何がなんだかわからなくなっていた。

由香とちゃんと話せないまま、
彼女は4月になるとカナダへ旅立って行った。

クリスマス

あれから3年、
LINEグループの何人かは、由香とやり取りをしていたようだった。
今回はLINEグループへ一次帰国のコメントが届いたのだ。

さっきまで止んでいた雪がまた降り出した。
僕は車のエンジンをかけたり切ったりしながら彼女を待っていた。
FMは相変わらずクリスマスソングを流していた。
時計の針が24時をまわりFMも時報を伝えていた。
もう26日、0時1分クリスマスは終わった。

僕は車から降りた。
雪が降っている黒い空を見上げた。
そして、
車に積んでいたシャンパンとグラスを出して乾杯をした。
片方を駐車場の雪の上に、片方を自分が持って乾杯した。
本当は由香と乾杯するために用意していたものだった。

シャンパンを一気に飲み干し、雪の中に車を置いて歩きだした。

雪の中をアパートまで2時間歩いて帰ってきた。
歩いて帰る中、由香の事、
彼女との思い出が浮かんでは消え浮かんでは消えていった。
こんな滑稽な自分と葛藤もしていた。

もうすぐ夜が明けるかのように、東の空が薄いグレーになりかけている。
雪は相変わらずふり続いていた。

手紙

結局、眠る事ができなかった。
僕は由香に手紙を書いた。
「お願い、私を待たないで」
その言葉だけが脳裏を駆け巡っていた。
僕は手紙にはじめて、さよならの文字を書いた。
封筒に彼女がカナダへ旅立った日から少しずつ貯めていた
預金通帳を同封した。
彼女が帰ってきても、
しばらくは生活にこまらないだけの額は預金できていた。
本当なら、結婚資金になるはずのお金、
僕は迷わず封筒に封をした。

シャンパンの酔いなどはなかった。
雪の中を2時間歩いてきたのだから、寒さで酔いはさめていた。
僕は手紙を持って再び外に出た。

さっきまで降り続いていた雪は止み、
少し青空が見えていた。
イブからの大雪で、電車は止まっているようだった。
僕はしかたなく
車を停めた公園へ戻るために歩き出した。

途中のコンビニに常設されている郵便ポストに
手紙を投函した。

未来に向かって

公園は更に雪が積もり、その盛り上がりから
かろうじて車だとわかるくらいまで降り積もっていた。
僕は自分の車の位置を探し、雪から車を掘り起こした。

エンジンをかける。
真っ赤なシトロエンは、ご主人をまっていた犬のように
むくむくと起き上がる。
シトロエンのハイドロニューマチックにオイルが行き渡り
車の車高をむくむくと上げたのだ。
「この車かわいい」
由香が初めてシトロエンに乗った時の声が聞こえてきそうだった。
僕はこぼれそうになる涙をこらえて
「僕はバカだよ・・でもそれが僕だ・・バカで何がわるいか」
<一生女性の心理なんてわからない、それでなにがわるいか>
そう言うとシトロエンのアクセルを踏み込んだ。

登りかけた太陽の光と舞い上がった雪が反射して
スターダストのようになっている公園から静かに走り出した。
未来に向かって。

おわり


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