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年下彼女~太郎の場合~

この前、会社の先輩と久々に飲みに行った時に、一回り歳の離れた若い子と付き合っている、という話を聞いた。

冴えないというわけでもないが、目立ったところもない先輩が、急に羨ましいと思ってしまう存在になり、ちょっとした尊敬の眼差しでさえ見るようになった。

・・・という俺の本音は”みんな”に変えて、その話を彼女にすると、思わぬ反応が返ってきた。

彼女曰く「それは当人自身と、その話を聞いた人(俺)が勝手に”若い子にも需要がある良い男”という大きな勘違いをしてるだけ」というのだ。

「女は男と違い複雑な考えを持つ生き物」

だそうで、歳の離れた相手を選ぶ女のその深層心理には、男が知らない闇が隠されているとも知らず、自慢したり羨ましいと思うのはバカだ、とまで言う。

男のロマンを砕こうとする女の正体の話なんてのは、聞きたくはないが、バカだとまで言われた男のプライドが聞けといっている・・・

なんて俺の葛藤はフル無視で、彼女は見解を話続ける。

彼女の話はこうだ。
近年の若い男の子は、「キレイ」が褒め言葉になるようなヴィジュアルの子、俗にいう”韓国系男子”?というのが流行り、らしい。

ファッションセンスが高く、それを着こなすスラっとした体形、女性よりも手入れが行き届いていそうな肌・・・そんな「キラキラ男子」の横に並ぶとなると、女としてもそれなりのスペックと努力が必要になる。

みんながみんな、キラキラ男子と付き合えるわけじゃないし、そういう男子以外もたくさんいるが、そんなキラキラ男子が身近な存在でいる環境で、果たしてそれ以外が眼中に入るか?

否。

もちろん、キラキラ男子に興味がない女の子もいるだろうし、憧れはあっても、そこにこだわることもない子も多いと思う。

でもいくらかの割合で、「イケてる男子と付き合えない劣等感を和らげ、女としてのプライドを保つ為に”離れた年上の男”をあえて選ぶ”女”がいる」
と、彼女は熱く語る。

・・・どうして「女」を語る時の女は、少し怖いんだろう。
そんな、少し引いて聞く俺に、彼女はさらに詳しく続ける。

普通に考えれば、同年代で探す方が良物件は多いのに、なぜあえて年上、しかも歳の離れた男なのか。

まず、少しくらいの年上ならば、若い年代でいえば同年代と同じく良物件で、そういう相手と付き合えるスペックがあるなら、歳の離れたオッサンにいく必要がない。
・・・俺の先輩もオッサン区分なんだな、というのはさておき、
そう、重要なのは「歳が離れている」ということ、らしい。

歳が下となれば相手は高確率で甘い査定で可愛がってくれることが安易に想像できる。自分の周りの若い男の子よりも経済力があり、年の功でしかなくとも経験、というスキルはいちをある。

・・・という表向きの特典はもちろんあるとして。

見た目は通常、一般人であるほとんどの男性は、30代に入るとオッサン化は避けられない。が、そこを「相手に」求めるならば歳の離れた男は選ばない。
肌にしろ体形にしろ、若い女である自分が引け目を感じる要素がなく、寧ろ簡単に「可愛い」と言ってくれて、たとえ自分の同年代の中ではパッとしなくても、彼の周りと比べられれば特別な存在として扱ってもらえる。
自分が褒めちぎられて肯定されることで得られる優越感と満足感は大きい。

「よく言えば、自尊心が向上し自信がつく。ストレートに言えば、自分自身の価値を相手に高めてもらう、っていうことね。」

「つまり、オッサンが良いというわけではなく、全て自分の為ってこと?」

「緩んだ体形を”かわいぃ~”とかって言われるのを、愛されてるとか思ってるオッサンは頭がだいぶお花畑だね。痛い目みるよ、その先輩も大丈夫?」

明らか心配している口調ではない彼女に、「本当に好意がある場合もあるだろ」なんて、別にそのことを論議し合いたいわけでもないし、確実に面倒になるから言わなかったが、女は自分よりも歳の若い同性に厳しい、ということはよくわかった。

・・・もちろん、そんなことも絶対に口にしないが。

「まぁ、本人同士良ければいいんじゃね」
と話を終わらせようと、投げやりに言った俺を彼女が睨んだように見えたが、俺は気づかないふりをして、煙草を買いに部屋を出た。

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