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#161 ありがたやの『ブライアン・ウィルソン』

#ビーチ・ボーイズ のリーダー #ブライアン・ウィルソン が、長い麻薬からの脱却のリハビリを経て、46歳の時に作り上げた初のソロアルバムがこれです。

最初は11曲の収録でしたが、後に大量のボーナストラックを追加したデラックス版が発売になりました。そちらを前提に記事を書いています。

ビーチ・ボーイズの後追いファンだった僕は、もちろんリアルタイムで聞いてはいないのですが、何度も何度もありがたく聞いたものです。

全体的には重たい音作りで、キャッチーとはすこし違うのですが、聞けば聞くほど、色んな発見があり、その発見が愛おしくなり、次第に忘れられなくなるといった趣の作品です。

余談ですが、音楽って、ある程度繰り返し聞かないと、良さがわからないものです。逆に言うと、「たくさん聞けば結局は好きになる=音楽の批評などあてにならない」といった公式も成り立つかもしれません。

けれど「聞けば聞くほどその浅さが露呈する」といった音楽も存在するのも確かです。理由として考えられるのは、その音楽の知られている範囲と、その聞かれている深度によって、その音楽の心地よい居場所が決定されるというものです。

ポピュラー音楽業界は、「リーチは広く、深度は浅く」が求められる。正確に言い換えると、「深度」のせいで「リーチ」が阻害されてはいけないのです。

ブライアン・ウィルソンは、自身では否定されるかもしれませんが、世間的には、芸術至上主義者で、完璧主義者で、それは、ポピュラー音楽のあり方としては、齟齬が生じるのは言うまでもないでしょう。レコード会社というのは、完璧なものより、売れるものを求めるのです。

ビーチ・ボーイズ内では、その偏執的な要素が薄まり、なんとも素晴らしい音楽が生まれるのですが、ブライアン・ウィルソン単独になると、ナチュラルにそのバランスを取ることはできなかったのでしょう。レコード会社も危惧したのでしょうか、いろんな人間がこのアルバム制作に携わることになりました。ブライアンからすれば「誰が呼んだ?」ということになりますが。

このあたりのレコード会社との軋轢は、ブライアンの最初の自叙伝「素敵じゃないか」に詳しいです。

言い方を変えれば豪華で多彩なアルバムです。ブライアンの普段のカラーとは違う曲、例えば、ダンサブルな「ナイト・タイム」や、構築的な歌もの「レット・イット・シャイン」や「シングルヒット」を求めたレコード会社を納得させるために作った「ミート・ミー・イン・マイ・ドリーム・トゥナイト」など、ややブライアン色と違うのですが、それはそれで楽しい。

「ベイビー・レット・ユア・ヘアー・グロー・ロング」や「ゼアズ・ソー・メニー」や「メルト・アウェイ」などの一ひねりある曲こそが、ブライアンのクリエイティビティの素の姿であり、このあたりを楽しめてくると、このアルバムがかけがえのないものに思えてくる。ブライアンの名刺代わりの曲ともいえる「ラブ・アンド・マーシー」はもちろんだけれど、この曲はどちらかというとシンプルさの方が目立っており、それを補うための重厚な編曲の方が印象的だ。

ボーナストラックも素晴らしい曲が満載で、例えば「トゥー・マッチ・シュガー」や「ヒー・クドゥント・ゲット・ヒズ・プア・オールド・ボディ・トゥ・ムーヴ(彼は哀れな老体を動かすことができなかった)」などの3コードのシンプルさは、彼の作曲技法の原点をうかがわせる。歌詞の内容は、彼の太ってた時代を振り返るもの。面白い。

のちに「ウォーター・ビルズ・アップ」という曲に生まれ変わる「僕の車で天国へ」もかっこいいし、さらっと「ビーイング・ウィズ・ザ・ワン・ユー・ラヴ」なんて複雑な曲をさらっと出してくるのも、すごい。ボーナストラックは、本編より、ものすごく肩の力が抜けている曲が多くて、とても好ましい。だから、中途半端なデモトラックがいくつもあるのはは少し残念な気がする。

残念と言えば、本編最後に入っている「グッド・ヴァイブレーション」的な激しい場面転換を使う手法で作られた「リオ・グランデ」も、安い西部劇風で、正直いただけない。これもレコード会社の介入で作られた曲で、もともとは、もっとブライアンの自伝的な内容の強い「アダルト・チャイルド・ペアレント」という曲だったらしい。どれほど完成されていたのか分からないけれど、こういった、様々なレコード会社の介入により、精彩を欠き、無理を感じせせるものが含まれているのが、このアルバムの弱点である。

この後に、未発表で終わった「 #スイート・インサニティ 」は、レコード会社の介入を避ける形で作られており、勢いがあって私はとても好きなのだけれど、そもそもレコード会社が発売を拒否してしまった。ミックスを変えても、ダメだった。そういうことじゃない、ということっぽいけど、いつか公式に陽の目が見られるように願っておこう。

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