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裸の大将ごっこ

ふと思い出した子どもの頃の話です。

たしか小学校低学年の頃だったと思いますが、私は『裸の大将』にどハマりした時期がありました。

たぶん再放送で見ていたのだと思います。
ただのマイブームだったのか、同級生のあいだでも流行っていたのか、その辺の記憶は曖昧なのですが、とにかく私は憧れていました。裸の大将に。変な子どもでした。

裸の大将のように丸いおにぎりが食べたくて、母によく作ってもらいました。
食べる度に「ぼ、ぼくは、お、おにぎりが、す、すきなんだな」と言っては母に「さっさと食べなさい!」と怒られていました。

そんなある日、私は裸の大将みたいに過ごそうと思い立ちました。
さすがに白いランニングシャツは持っていませんでしたし、まだおにぎりも作れなかったので、かわりにお菓子とスケッチブックに見立てたノート、そして雨も降っていないのに傘を持って出掛けました。
出掛けるといっても遠くに行けるわけもなく、家の周辺をウロチョロする程度でしたが、「野に咲く花のように〜♪♪」と口ずさみながら歩くだけで知らない土地を旅している気分になりました。
ひとしきり歩いたあと、どこかでお菓子を食べながら休憩しようと考えました。
裸の大将が小高い丘の斜面でよく寝っ転がって空を眺めたり、おにぎりを食べたりしていたので私もそうしようと思い、ふさわしい場所を探しました。
選んだ場所は家のまえにある、細くゆるやかな坂道でした。
裸の大将になりきった私には、ただのアスファルトの道路が草花に覆われた丘に見えたのでしょう。
私はお菓子を食べて、裸の大将にならって寝っ転がり空を見ました。

その時の空は、今でもはっきり覚えています。
良い天気でも悪い天気でもない、ほどよく雲が泳いでいる中途半端な空でした。
「雲ひとつない快晴でした 」と言えてたらちょっとはカッコよかったのにと、残念に思います。きっと当時の私もそう思ったでしょう。


とにかく家との距離わずか20mの場所でそんなことをしていたので、当然すぐ母に見つかりました。
家のなかにいた母は、窓を開けて「あんた!そんなとこで何してんの!帰ってきなさい!!」と叫びました。驚いて飛び起きた私は「ちぇっ」と思いながらもその指示にしたがいました。
家に戻ると母は「なんであんなところで寝てんの!あほちゃう!?しかもなんで傘なんて持ってんの!」とかなり怒っていました。
その時の母の鬼のような形相も今でもはっきり覚えています。

しかし私だって腹が立っていました。ひとが気持ちよく裸の大将に浸ってるところを邪魔をされたのですから。
私は、「裸の大将になりたいんや!裸の大将も寝っ転がってるやん!」と反論しました。
呆れた顔をした母は何も言わずに窓を閉め、部屋のなかへと去っていきました。
そして私はなんで気持ち分かってくれへんのやろうと、子ども心に強い憤りを感じた、というところで記憶は終わっています。

なんで急にこんなことを思い出したのかよく分かりませんが、思い出したことで子ども心と親心について少し考えさせられました。

親になったいま、娘の感性を尊重したい、見守っていきたいと常々思っています。
娘があかんことをしても、ただ怒るのではなく彼女のこころに寄り添い諭していこう。
そう思ってはいるのですが、
もし将来娘が「裸の大将になりたい!」と道路で寝転んでいたら...
まぁ、とりあえず怒ってしまうと思います。



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