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『我慢のGW』ー我慢できなかったわたしー

私はカラオケが好きだ。
決して歌がうまいわけでも、うまくなりたいわけでもない。ただただ楽しくて以前はしょっちゅう通っていた。
大勢でわいわい盛り上がるのも、少人数でぐだぐだ喋りながら歌うのも好きだ。
でも一番好きなのは、ひとりカラオケだ。
なぜなら自分を解放することができるからだ。

私の楽しみ方をざっくり説明するとこんな感じだ。
とにかくひたすら酒を飲みながら、ひたすら歌い続ける。ここはライブ会場かと思うくらいにボリュームを上げ、腹の底から声を出して歌う。
時に踊りながら、時には出来もしないのにこぶしをきかせながら、時にはお前は歌手かと思うくらい感情をこめてバラードを歌う。
テンションはどんどん上がり、全身の細胞という細胞が「ちょー気持ちいい!」と叫んでいるような高揚感を味わう。そして余韻に浸りながら家路につく。

こんなすがた他人に見せられるはずがない。
自分でも「私、アホかな」と呆れるくらいだから、他人が見たら間違いなく引くだろう。
それでも私にとっては、思う存分ストレスを発散して心と身体をチューニングする大切なひとりの時間だった。

しかし娘ができたことやコロナの拡大によって、2年弱カラオケに行っていない。
ふと行きたいなーと思うことはあるけれど、さほどストレスも感じていないので行く必要もない。
そう思っていたのだが、おととい事件が起きて実はずっと我慢していたことに気付いた。


おとといはとても良い天気で、朝から家中のすべての窓をあけて新鮮な風をとおした。
夫と娘が近所の公園に遊びに行ったので、私はずっと先延ばしにしてきたお風呂の大掃除をすることにした。
どうせなら音楽でも聴きながら楽しく掃除しようと考え、耳にAirPodsをセットし風呂場に向かった。

まずは最近ハマった川崎鷹也の「魔法の絨毯」を聴いた。なんて愛あふれる歌なのだろうと、サビを口ずさみながらパッキンのカビや天井を拭いた。3回程リピートしているあいだに少しずつ楽しくなっていきた。

次は少しアップテンポな曲にしようと思い、「梨泰院クラス」のサントラから「Start Over」と「Diamond」を選んだ。こちらもそれぞれ3回程リピートした。
パク・セロイからパワーをもらい、壁や床を磨き、鏡のうろこを落とした。シャワーの音に負けないよう音量を上げると同時に、私のテンションも上がってきた。

次は、私の青春を彩ってくれたglobeを聴くことにした。globeは昔から大好きで、ひとりカラオケでもかならず歌う。
とりあえず「Feel like dance」、「Love again」を流した。これまで千度聴いてきたので、曲が流れれば条件反射で歌ってしまう。
私は浴槽を洗いながら歌った。
一やばい、楽しい!!
私は歌い続けた。
全身の細胞が「ちょー気持ちいい〜」と叫んでいる懐かしい感覚がよみがえってきた。
一そうそう、この感じ!!あかん!めっちゃ楽しい!
久々に解放感を味わい、実はずっと歌いたかったんだと気付いた。
もう我慢なんてできやしない。風呂場にいることを忘れて私は歌い続けた。

そして掃除も終盤にさしかかり私のテンションもMAXになった頃、「Over The Rainbow」をかけた。

♪♪OVER THE RAINBOW
空へ駆け上がる気持ちを持てるなら
例え虹を越えられなくても
素敵な感覚なんじゃない?


「おーばざ れいんぼぅぅ!!」

もはや虹を越えた。
素敵な感覚だった。

その時、夫が風呂場にやって来た。
2人が帰ってきたことに気付いた私はAirpodsを外そうとしたところ、夫はすかさず言った。
「気持ちよく歌ってるところ申し訳ないけど、お前の声、外までダダ漏れやで」
私は血の気が引いた。
そうだった。家中の窓を開けていることをすっかり忘れていた。うちはマンションで、寝室の窓を開けるとすぐそこは共用廊下だ。風呂場と寝室は数歩の距離だ。
あまりに楽しくて私は声のボリュームがバカになっていることに気付かなかった。
最悪や...。
私は虹の彼方から一瞬で帰還した。

このあと私はさくらももこのエッセイのなかで、まる子と父ひろしの風呂場での歌声がご近所さんに丸聞こえだったというエピソードを思い出した。読んだ時は爆笑したが、今となっては微笑ましく思う。親子の歌声なんて、朝っぱらからハイテンションなアラフォー女の歌声に比べたらかわいいもんだ。

こんな恥ずかしいことは早く忘れたいと思いつつも、久々に歌ってスッキリしたおかげでその昼のビールはいつもより美味しく感じた。


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