パリ 始発まえ、

去年の夏、朝イチでパリからマルセイユへ向かうため、始発のメトロを待っていた。

前の日に駅へ時刻を調べに行って、確か5:30過ぎが始発だったように思う。少し早く着いて5:00過ぎ、すると、電光掲示板には始発より早い5 :10と5:20の表示が。

構内には列車を待っている人がちらほら。
私は少し離れたところから、アフリカ系の若い男の三人組を見やった。アフリカ系といっても色々いる。彼らは、ヒョロっと背が高いタイプ。引き締まった筋肉がチョコレートブラウニーのように黒光りし、美しい。
まだ朝の早い時間だというのに、元気で、何やら楽しそう。

やがて列車の到着音が鳴り響く。私はトランクに手をかける。
すると、列車は停車することなく通り過ぎてしまった。中には人がいた。
とっさに、始発から駅で働く人を運ぶ列車なのでは、と思い浮かべた。

何だかSFじみて、愉快になった。
時刻表には載っていない、秘密の列車。

同時にそれは別のイメージも思い起こさせた。
運ばれ、供給される人々。
列車の中のほとんどが黒人だった。
ホームで列車を待つ人もブラックばかり。

やがて次の列車がやってきた。
今度の車両は止まった。
私は先程の青年の一人に声をかける。
「もし、これはオーステルリッツ駅で止まるのでしょうか?」
「ええマダム、もちろんです」

オーステルリッツは色々な地方へ向けた列車が発着する大きな駅。到着すると、なるほど、先程のイメージはまんざら的外れでもない、という気になり始めた。

清掃員、警備とまではいかない人員整備員、そしてあちこちで長い列ができているコーヒースタンド。
そこで働く誰もが、黒い人種なのだ。他の人種は見当たらない。

パリは前からこんなだっただろうか?
これほどまでに顕著だっただろうか?
たまにしかパリへやって来ないから、詳しいことは分からない。

別の日の、早朝のトラムの中も似たようなものだった。
人々がまだ眠りについている時間、家族と朝食を摂り始める頃。朝日の差し込む車両に乗り込み、働きにでるのはジーンズにスニーカー姿の黒い若者ばかりなのだ。
彼らの多くは、メタルとガラスでできただだっ広い新興のビジネスビル街で降りていった。おそらくビルの清掃等に従事しているのだろう。朝の光で金色に照らされる、広場のような、広い道幅の通りをヒョコヒョコと歩いて行く彼らの後ろ姿を見て、ぼんやりと思った。

これは、そのうち日本が通る道なのかもしれない。


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