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地域は名店

5月も終わろうという土曜日、地域の美味しいお店のテイクアウト対応が最後の日。

妻は、ひとり出かけて行きました。

◆ ◆ ◆

買い物は控えて。宅配を利用して。

 4月の半ば、いつもなら、新年度の忙しさに浮足立ったような毎日を過ごしているけれど、今年は違いました。保育園に通うはずだった子どもたちと家で過ごすこと、・・ができずに、こわごわ電車に乗って職場に通っていました。

出来るだけ通勤を避けたかったのですが、まだまだ環境が整わない職場だったので通勤していました。自分や家族の健康がとても心配な毎日でした。

買い物は控えて、宅配を利用しましょう。

巷では、外出を抑制するための方法として、たびたびこの提案を見かけました。僕には、それもまた不安でした。というのも、社会人のスタートが物流企業だったからです。

運ぶという作業への手のかかり方は想像を絶するものです。特に宅配便は、受け取ってもらえるまでに、何度も運び続けていたりします。送料問題が、少し前に議論されたのがせめてもの救いでした。

そんなことから、近づいていた母の日は、いつも頼んでいる宅配の花をやめました。

そして、地域で暮らしている友人の陶器作家さんの店で、プレゼントを買うことにしました。東京都稲城市内に工房とギャラリーを持つ「濱陶器」がその作家さんの屋号です。

我が家にもある器たちは、温かみのある形と色が特徴的で、地域のお洒落な飲食店の器も作られています。春はいくつもイベントに出店しているのを知っていたので、イベントが軒並み取りやめになっている当時、僕たちに何か出来ることはないかと思ってもいました。

母の日には、きっと実家に届けられるようになるから、買いたかった友人の作品を買おう。

友人家族と僕たち家族は、不思議な縁でつながっています。ここに書くと、話が逸れてしまうので割愛させてください。お店は、陶芸家である彼の作品のほかに、人形作家である奥さんの陶人形もあり、器をだけではない楽しい空間になっています。

かつて、彼ら家族の生活の場でもあったその場所に、ほっこりとした生活感がある器たちが並んでいると、自分たちの生活に取り入れるイメージも出来るので、つい買いたくなります。

プレゼントを買いに行ったはずなのに、いつの間にか娘が使う器も探し求めていました。その場で迷う買い物の楽しさも不足しているし、誰かと話しながら悩むのも不足していた・・そんな時期。

買いたかったのは、誰かへのプレゼントだけではなかったんだなぁ・・と思える楽しい時間でした。あっという間に、夕方になっていました。

プレゼントは、深い紺色が印象的なのと、取手の安定感が抜群だったコーヒー椀にしました。家族用は、色が可愛かった小皿を、全員分買っちゃいました(笑)。上の写真のように毎朝の目玉焼きに活躍しています。

在宅勤務とランチ問題

 4月の下旬、僕の職場でも、在宅勤務の日が設けられることになりました。正直な気持ちを書けば、とても嬉しかったです。それまで、満員電車を避けたくて時差通勤をしたり、週1日でも何とか休みを取っていました。

職場では、環境整備どころか、問題意識の違いが明白に感じられることもあって、テレワークなんて遠い世界の話しだと感じていました。在宅勤務と言っても、なかなか難しい面もありましたが、家族にとって在宅であることは少なからず安心だったのではないでしょうか。

在宅勤務をしていると、食事のことがとても負担になっていることに気がつきました。以前、別の投稿で書いたのですが、稲城では地域のお店を助けるべく、テイクアウト情報をまとめたアプリが作られました。

普通の市民によってつくられた仕組みで、同じ地域に暮らす人が助かる、顔は見えないけれど情報や仕組みが人のつながりのように地域を支えていたのです。それを利用するだけではなく、“中の人”として編集作業を手伝っていたのは、妻でした。

すぐに、昼食はテイクアウトで楽しむ、というのが我が家の日常になりました。

アプリに載っているどの店も、個性豊かで、それぞれに常連さんがいるような、比較的長い時間をかけて地域に溶け込んできたようなお店でした。

それぞれ工夫をこらして、お弁当を作ってくれました。「テイクアウトなんてやったことないからねー」と困りながらも、その店でしか出せない味がしたのです。毎回、発見の連続という感じでした。新しい店を開拓したとき、つい嬉しくなっちゃうあの感じを、家で味わっていたのです。

ここで助けないと!なんて上から目線で思っていたけど、実際には、それぞれのお店のチカラいっぱいのもてなしを受けていたのです。

地域で長く続いている蕎麦屋では、そば粉を使ったイタリアンも加わっていたり、いわゆる「まち中華」のお店が美味しいオムライスを出していたり、別の蕎麦屋の親子丼も美味しかったし、ずっと気になっていたお店のカレーも良かった。

居酒屋のテイクアウトは、ベテランお母さんの愛が詰まったお弁当そのもの・・・こうやって思い出すだけでも、色んなお店の料理が浮かびます。

その中でも、僕たち家族というか妻の心を掴んだのは、イナキッチンというお店でした。

稲城駅のそばにあって様々な料理が美味しく、元気なご夫婦が印象的なお店。もともとテイクアウトをやっておらず、このタイミングで始め、土日にはピザを焼くようになったり、用意していたお弁当が完売したり、とても人気が出てきたのです。

数年前、家族で利用したとき、ごはんも美味しいけれどスイーツの完成度がすごい!と感動してしまい、「イナキッチンのスイーツはすごい」と思っていました。そのスイーツもまたテイクアウトのランチとともに並び、僕たち家族にとってイナキッチンのテイクアウトは、まさに夢のようなランチタイムのかたちでした。

何度か、テイクアウトを抱えて近所の公園でピクニックをしたこともありました。ただ、娘は外食があまり得意ではないので、娘の分だけお弁当を作っていました。やや手間ですが、親としては外食に興味が薄いというのは、複雑ではありますが、ちょっと嬉しいことでもあったりします。

生活には飾りも必要

 お腹がいっぱいになると、家の中のモノなど、生活の飾りが欲しくなる人も多いのではないかと思います。地元にできた花屋カフェ「トラジェ」はまさに救いのような存在でした。稲城駅の駅ビルの中にある、花屋がやっているカフェは、この騒動が始まる少し前からビュッフェの営業を始め、カレーやから揚げも美味しくて、育休中だった僕は何度か利用しました。

しかし、緊急事態宣言で感染の危険性が高いとして「バイキング形式のレストラン」などと例示を受けて、かなりのダメージだったのではと心配していました。しばらくして、カフェ営業は一旦お休みし、花屋として週末限定で営業するようになりました。キレイで長持ちする花が店内にならび、100円で買えてしまう大輪もありました。

特に、バラの種類が豊富で、買って帰った花たちは長いこと花瓶にいたと思います。ということで、僕たち家族は毎週のように少しづつ花を買いに行きました。娘が選ぶのも楽しそうだったし、家族みんなが、家に花があると気持ちがいいと感じていました。

そんな日々を過ごし、やってきた母の日、短時間ながらもお互いの両親を訪ねて、濱陶器で買った器を渡しました。僕の両親には「コーヒー碗」。妻の両親には「花火紋」という平皿を。この皿は放射状に模様が刻まれ、鮮やかな釉薬で仕上げられた作家さんならではの器です。

それぞれ、とても喜んでもらえました。ふだん使いしてほしいと思っていたら、すぐに開いて使いだしてくれたのが嬉しかったです。父の日も期待していいのかな?なんて冗談を言ってくれるほどでした。選ぶときにも色や手触りなどかなり吟味したので、気に入ってくれて良かったです。

その日の夕方、稲城に戻ってきてから、妻が「また花買ってくるねー」とトラジェに行きました。しばらくして、妻は花と花器を買ってきました。

「母の日だからねー」

!!!!

・・あぁ、反省。

当日までに何かするべきでしたが・・とはいえ、妻の日じゃないんですけどね(と言うと、色んな方からお叱りを受けそうです)。来年には必ずや。

がっつり主張する花たちを支える、シンプルなガラスの花器。さぞお高いんでしょう?と思っていたら、花を飾り終えてひと通り喜んでいた妻からも「値段あてクイズ!」の一言。結果は、僕が予想した金額の半額以下でした。

毎週のように花を求め、たまにカフェラテを買ったりしていたトラジェのおかげで、花との生活が身近になっていました。値段が安いから、という理由で買っているのでなく、今回はどんな花があるのか、いま家に残っている花たちと組み合わせたらどうかな、という視点になってきているのにも気づいて、もう生活の一部になっているなぁと感じたのです。

皿の上のスコーン

5月も終わろうという土曜日、先ほどのイナキッチンのテイクアウト対応が最後となる日でした。天気もいいから、イナキッチンで買って公園でピクニックしよう、そんなふうにして予定が決まりました。

そして、妻はひらめいたのです。

そろそろランチのことを考える時間になって、僕は娘のピクニック対応のため、お弁当を製作。妻は、ひとり出かけていきました。まず、毎週のように通うトラジェで花束を買い、イナキッチンへ立ち寄り、お弁当やパンを買いました。

そして、さきほど買った花束を渡したのです。

イナキッチンは、僕たち家族のランチを支え、スイーツで励ましてくれました。子どもが同じ保育園に通う友人たちも、イナキッチン美味しい!と言っていましたし、地域のために営業日を変更して頑張ってくれていました。その御礼に、花を渡したいというのが妻の気持ちでした。

その場にいなかったのが残念ですが、お店のご夫婦はとても喜んでくれたそうです。なんと、涙ぐんで喜んでくれたとか!

突然の花束(しかもとてもキレイ!)に、あまりにも驚いたのと、とっても嬉しかったのかも知れません。御礼にと、自慢のスイーツを渡してくれたと言って、妻が戻ってきました。手渡されたスイーツは僕たち家族よりも多かったらしく、近くに住むママ友におすそ分けしていました。

その日のピクニックは、お弁当とスイーツのイナキッチンランチでした。美味しかったなぁ。

写真は、その時にいただいたイナキッチンのスコーンを妻とはんぶんこしたものです。青が印象的なお皿は、濱陶器の器です。写真には写らなかったけれど、トラジェの花束がなければ、この写真は撮れませんでした。実は、写真を撮ったとき、この話を書けたらいいなと思っていました。

ここに出てきたお店は、地域のお店のほんの一部。こんなに温かなことが起こるんだなと、感動しながら、どうにか感謝の気持ちを伝えたいと、そう願って書きました。

給付金の報せから、いろいろなことがあったけれど、地域にあるお店の存在を知り、お店の価値がどんどん高まっていったように思います。そんな個性あるお店が、地域から無くなったら、僕は嫌です。

そして、この期間に起こったことに、気が滅入ることも多かったけれど、家の中では活き活きしている妻がいました。ステイホームのストレスも抱えつつ、アプリの中の人(の手伝い)として、本人の言葉で発信し、地域に暮らす人やお店とのつながりを作り出したことが、とても嬉しい様子でした。

先日、給付金の申請書を投函しました。

いま欲しいものは、地域の魅力的なお店が続いていく、そして家族が笑顔で暮らす、そんな未来です!

まとめ

ステイホーム期間は、遠出ができない分、近くのことを見つめ直す機会となりました。

素敵な店をいくつも見つけることで、地域の豊かな価値に気付き、利用したいと思うようになりました。不本意だけれど、新しい可能性が生まれた時間でもありました。

書きながら考えていたことは、お店も地域も”枠”は違うけれど、人間なんだということでした。家族だけが人間、ではなくて、人間がそこに居て作られているんだなと思います。そのことが、ふだんから意識できていなかったという、自分の視野の狭さみたいなものにも気が付きました。

お金が道具だとしたら、

人間は何だろう?

助け合うとか、支え合うとか、人という字は・・とか。決して道具ではないはずです。それは、主体性があり、何でも出来るから。僕は、人間は人の間、道具ではなくて存在そのものではないかと考えています。

数の多寡ではないし、名声のあるなしではなく、私とあなたの存在そのものが、人間なのだと思う。地域のお店との関わりについて書いてきたけれど、最終的には人間とは何かという問いが浮かんだのは、個人的な収穫でした。

人生で何度も経験したくはないことでもありましたが、これから先また同じように困ったときに地域や人間を信じることができる、そんな安心感と期待を抱えて、温かな気持ちです。

いまいち決まっていなかった「給付金の使い道」のこと、身近な存在によって考えを進めることができました。そして、この話を書くにあたり、noteのいくつかの投稿を読みました。みなさんの素敵な使い道に触れ、未来がますます楽しみになるのでした。

まとめと銘打った割に、まとまらず失礼しました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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