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はじまりは、僕に夢を語らせた

僕は、栗を使ったケーキのモンブランが好きです。

栗が好きで、甘いものが好きで、日本的なものが好きなのです。さらに、店によって全く異なる姿かたちをしている。そんな“モン”のことを、出会うたびに写真に収め、味わい、そしてここで語ってきました。

note広しと言えども、モンブランの投稿をいくつか書き、さらにそれをマガジンにまとめている人はきっといないかも知れません。下のリンクは、投稿ではなくマガジンです。


先日、久しぶりに、自由が丘の「モンブラン」へ行くことができました。

運の良いことに、妻と一緒でした。結婚当初に行ったきりだったので、5、6年ぶりという時間が経っていました。その間、僕はさまざまなモンを食べていましたが、いつかまたここのモンブランを食べたいと、ずっと思っていたのです。

「自由が丘のモンブラン」と言えば、その店名が示すようにモンブランが看板商品です。

そして、日本におけるモンブランの発祥は、このお店なのです。

国産の栗を使った黄色いマロンクリームと、台は本場のメレンゲとは異なるスポンジ。スポンジの中には、カスタードクリームと栗が隠れていました。上に乗っているのは、メレンゲです。

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日本におけるモンのパイオニア、心して一口目を食べましたが、甘さがとても優しくて、それは意外な再発見でした。ケーキといえば、甘い、のですが、このモンは甘さが抑えてあり、それぞれの素材の味が分かるような、とても繊細な構成でした。

マロンクリームは、昨今の傾向である(と僕が思っている)バターやキャラメルのような香りはせず、栗の粒感の残る舌触りで、口溶けが抜群でした。軽い。

中のホイップも、かなり軽めになっていて、本場のホイップを踏襲しているような雰囲気。こってり甘い本場と比べても、マロンもホイップもさっぱり目の甘さでした。台との境目の味がちょっと違うと思ったら、バタークリームだったようで、そこは日本で考えられた洋菓子っぽさがでているのかも知れません。

ホイップがここまで流行る前って、バタークリームが主流だったんだよね・・なんて聞いたことがあって、さもありなん、という思いです。(誰?)

トッピングのメレンゲは、レモン風味。淡いマロンと合わせるというよりも、口直しの要素が強いように感じました(食べる順番によるけれど)。個人的には、カシスのガツンとした酸っぱさよりも、こちらの方が”優しい”と感じられました。

台は一般的なスポンジよりもキメが粗い印象。でも、しっとりとして香ばしい美味しいカップケーキのようでした。台のカスタードクリームの中に一粒栗が隠れていました。スポンジに穴を開けて、そこに栗を入れてカスタードを絞っているようで、栗の登場が意外と台の底に近い場所だったのは、ほかのお店ではなかなかない特徴だと思います。

以前、モン食べ比べをしたときに、一粒栗を入れるか入れないか、どこに入れるのか、作り手同士で議論を重ねたという逸話を教えてくださったケーキ屋さんがありました。その始まりが、このやり方だったのだと思うと、発売当時は、相当珍しかったのだろうと思うのです。

最初の一口を食べた時に、落ち着いた甘さと、見た目の割に粒感の残るマロンクリームに、ちょっと驚きつつ、なんとなく安心したような気分になりました。

同じタイミングで、妻が「一周回って、美味しいね」と言ったのですが、本当にそんな印象でした。

色々と発達しているモンの中において、本当のはじまりは、きっと古びていると思っていたのですが、違いました。

伝統の逸品というよりも、海外から仕入れたモンというケーキを、お店独自の工夫で作りましたという、提案を見ているかのようでした。

最近では、“和栗”がアピールされていますが、実は元祖はもともと和栗だったのです。いつのまにか洋栗が当たり前のように広がっていったのかも知れません。独自の変化の始まりこそ、一つの挑戦だったのでしょう。

当時の開発者は、モンブランを商標登録”しない”と決めたという逸話もあり、その決断は、まさに英断だと僕は思うのです。日本人に、モンブランが受け入れられたのは、栗の美味しさももちろんありますが、自由度の高いケーキだったことも要素のひとつだと思うわけです。

元祖であるモンを食べながら、それとなく周囲を見回してみると、モンを食べている人はやはり多く、さらにほとんどの人がモンを倒して食べていました。というのも、上部の方がクリームなどで重たくて、もともとバランスが良くないのです。

僕や妻はそれを倒さずに慎重に食べ進んでいたことに気がついて、なんだか不意に嬉しくなりました。大事に食べることができているのかもなぁなんて思ったりして。

この、元祖であるモンを食べていたら、やっぱりモンブランってケーキは、店によってかなり違っているし、それでも人気が高いまま現在まで食べられているのは、きっと味や値段以外にも理由があるのかも知れないと考え始めていました。

だからこそ、ただのモン好きのやることとはいえ、全国のモンを食べてみたいし、比較できるならやってみたいし、それをきちんとこんなふうに文章としてまとめてみたいと思う・・・と、妻に向かって語っていました。本当に、気がついたら話していた・・みたいな不思議な心境でした。

そういうのって、どうやったらできるのかなぁ・・と考えています。

旅行に行くたびに、ケーキ屋さんでモンブランを食べるのも良いのですが、ふるさと納税を活用してモンブランをもらう(昨年に寄付した分の返礼品の一つにしました)とか手元でできることはあるので、まずはそこから。

とても嬉しいことに、僕が書くモンの投稿を読んでいただくたびに、モンを食べたという報告をもらうことがあります。モンの同志として嬉しい反面、またその人の食べたモンがチェーン店でない場合、僕が食べたことのないモンを食べているわけです。

同じだけれど違う、ちょっと不思議です。モンが違うからこそ何度も食べたくなる、そんな魅力があるのかも知れません。とはいえ、ほかのケーキも同じかも知れませんが、僕の場合はモンでした。

はじまりの店で、ずっと変わらないモンを食べながら、食べる側の僕がどんどん変わっていくのかなと考えました。きっと、はじまりの店はこれからもずっと同じレシピでモンを作るでしょう。

僕が変われたかどうか確認するために、またしばらく経ってから訪れたい、そんなお店とモンブラン、ずっとずっと残っていて欲しいです。


#モンブラン #とは #自由が丘 #発祥の店 #フードエッセイ


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