見出し画像

ゲーム音痴を克服したくて

絶望的にゲームが下手だ。

子どものころファミコンを買ってもらえなかったのだ。

母が「バカになる」だの「役に立たない」だの、それらしい理由をつけてどんなに頼んでも絶対に買ってくれなかった。今考えるとタダの偏見だったのだろう。

その証拠に、現在60歳を過ぎた母は「そんなことあったっけ?」などと笑いながら「ポケモンgo」にハマったり、「リングフィット」に手を出したりしている。腹立たしさのあまり捕まえたポケモンを全部博士に送ってやろうかと思う。

小学生3年生になった時には一応、ファミコンとマリオのソフトをゲットした。裏技「おばあちゃんにファミコンをねだる」を使ったのだ。

しかしながら母の執念の妨害により挫折した。

ファミコンのルールを「日曜日の朝6時から30分間」と決め、その時間以外は触ることすら許されなかった。日曜日の朝6時に設定するイジワルさよ。

最初のころこそ意地で早起きして遊んでいたが、週に1回30分間ではまったくゲームが進まず、上達もしない。買って半年もしないうちに遊ばなくなってしまったというわけだ。

友達の家でゲームをさせてもらう機会もあったが、私は見学専門だった。

一度やらせもらった時に私があまりに下手クソで、その場が変な空気になってしまったのだ。それがトラウマとなり、以来ゲームに対する苦手意識が染み付いている。

こんなこともあった。

中学生になった時、私は貯めたお小遣いで初めてPlayStationを買った。そのころは母に文句を言われても気にしなかった。

ホラー好きの私は「クロックタワー2」をプレイしてみたかった。

画像1

「クロックタワー」シリーズは脱出系ホラーゲームの金字塔だ。建物に閉じ込められて巨大なハサミを持った男こと「シザーマン」に追いかけ回される、という絶望を手軽に味わえる。

シザーマンに見つからないようにアイテムを探したり友人を助けたりしながらゲームを進めて行くのだが、これがまあ、当然ながらめちゃくちゃ怖い。

シザーマンが現れる予兆として、

ゴーーン(鐘の音)ドゥンドゥクドゥンドゥクドゥンドゥクドゥンドゥクドゥンドゥク…

と効果音が鳴るのだが、その音ときたら……恐怖を最大に煽る。後ろから追いかけられたり、急に衣装ダンスから飛び出してきたり、扉を開けるとそこにいたりする。

初めてシザーマンに遭遇した時、私は絶叫してコントローラーを取り落とした。そしてなす術もなく巨大ハサミでグサグサと串刺しにされながら、思った。

全然楽しくない。めちゃくちゃストレス溜まる。

それから私はシザーマンと対峙するのが怖くて、PlayStationの立ち上がり音を聴くだけでナーバスになった。ホラー映画は観ていれば先に進むが、ゲームは勝手に進んでくれない。自動プレイモードのようなものがあればいいのに…。

それでどうしたのかというと、本屋で攻略本を購入した。

シザーマンが現れる場所とタイミングをあらかじめ予習し、遭遇した時の対処法を読み、コントローラーの操作を叩き込んだ。後はパーフェクトクリアへの道を本のとおりにたどり、あまり怖い思いをすることなく、最短時間でのゲームクリアを遂げた。

ホラーゲームの醍醐味って何なんだったっけ? 

数万円かけてホラーゲーム風短編映画を一本観ただけだった。 

------------------------------------

それから数年後、会社の同僚の間で「モンスターハンター」が流行った。

画像2

「モンスターハンター」シリーズは、大剣やボウガン、鎧などの好みの装備を纏い、巨大なモンスターを狩猟するハンティングアクションゲームだ。ソロプレイのほかオンラインで友人らと協力して狩猟することもできる

ゲーマーの同僚たちが一緒にプレイして教えてくれるというので、恐竜や怪獣なと巨大生物が大好きな私は、Nintendo 3DS本体と当時発売したばかりの「モンスターハンター クロス」を買った。

まったくの素人の私に、先輩ハンターたちは根気強く教えてくれた。会社の昼休みなどに"ひと狩り"しながら、私は少しずつ上達した。

初めてゲームが楽しいと思った。

モンスターを狩猟して集めた武器や装備品が充実していき、同じモンスターに何度も挑んで負けても、私は匙を投げなかった。

もう、シザーマンに追われてナーバスになっていた私ではない。ひとりで戦って、達成感を味わえるようになり、ゲームコンプレックスが薄れてきた。

そんなある日のこと、所属するWEBマガジンの編集部に、「モンスターハンター クロス」発売記念イベントの案内状が届いた。メインイベントはメディア対抗のモンスター討伐大会とのことだ。

イベント主催者の方から「女性の方に大会に参加してもらえたら嬉しい」と直々にご連絡いただいたこともあり、私は編集部を代表して取材がてら参加することにした。

イベント当日までの間、私はこれまで以上に熱心に練習した。大会は参加者のレベルによってクラス分けされており、私は一番下のクラスでの参加が決まっていた。頑張れば、もしかすると……優(自粛)という期待に胸が膨らむ。

イベント当日は取材をしながら大会にも参加するので忙しく、大会が始まる直前までバタバタしていた。

そしていざ大会が始まり、自分の出番になって初めて、とんでもないところに来てしまったと悟った。

大会参加者は広い会場内の大きな舞台に上がり、拡大モニターで顔やプレイ画面を大写しにされながらプレイするのだ。舞台下にはカメラを構えた取材陣が詰め寄せている。

デスマッチ形式のリングに投げ込まれたような異様な緊迫感と熱気の中で、私はパニックになった。

ゲーム機を持つ手が震えて、いつも無意識でやっていた武器選択や装備品の携帯など基本操作が何ひとつまともにできない。他の人はとっくに狩猟準備ができているので私待ち状態だ。

なんとか準備を整え、大会が開始したが、私の動きは無駄だらけ、的はハズしまくり。無様な討伐動画が拡大スクリーンで放映されているかと思うと何もかも投げ出したくなった。

そしてここは初心者クラスのはずなのに、ライバルたちのゲームの上手いこと!

流れるような連続技でモンスターに大ダメージを与えたり、ここぞという時に爆弾やワナを使って見せ場を作って盛り上げている。

せめて、そんな盛り上がりの邪魔にならないよう、ビリでもいいから討伐の成功だけを目標に頑張った。

しかし、他の参加者が次々と討伐を達成していってしまい、私ひとりが残されてしまった。

集まる視線。

その変な空気に、デジャヴを感じた。

友達の家でスーパーマリオをプレイさせてもらった時、私ひとりだけジャンプができず、最初のクリボーでやられた時の「え、うそ?」という空気だ。友達は優しくて誰も笑わずに何度もチャレンジさせてくれたが、せめて笑ってほしかった。

その時とまったく同じ心境を、比べ物にならない大舞台で味わっている。笑ってくれ!とんだ下手くそが紛れてる!とバカにしてくれ!

変な空気の中、司会者の応援の声だけが響き、私は半泣きで狩猟を終え、バラバラと微妙な拍手が起こった。


ゲームにも才能やセンスがあるのではないだろうか? 私も子どものころから慣れ親しんでいれば赤っ恥をかかなくて済んだのだろうか……。少なくとも、母の「役に立たない」というのがまるで間違っていたことが証明された。

私のゲーム音痴コンプレックスはどうやったら解消されるのだろう? 苦手意識はあるが決して嫌いではないのだ。

流れるような大技でモンスターを討伐してみたいし、三国無双など(よく知らないが)で敵をワサワサ切り倒してストレス解消してみたい。

超ド下手クソ限定で、結果にコミットしたオンラインゲーム学校があればお金を払ってでもぜひ参加するのに、と思う。









この記事が参加している募集

#心に残ったゲーム

4,957件

#ゲームで学んだこと

3,020件