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掌編小説:Love Again

 夏の日差しが窓から入り、洗濯物を畳んでいる手元にかかる。
 潔癖症の美香は、洗濯物を外に干さず乾燥まで回しているが、強い日差しを見ると『外に干した方が殺菌されるかも…いや、やっぱり乾燥かけた方が清潔だ』と手を動かしながら思い直した。
 時計に目をやると18時、そろそろ翔が帰ってくる時間だ。
畳んだ洗濯物を抱え立ち上がると、クローゼットの中にあるチェストにしまい込んだ。


 私達は今年で結婚10年目になる。
 彼とは大学で出会い、音楽の趣味が合うことから意気投合して付き合い始めた。それからそのまま時間はあっという間に過ぎていき、私達が結婚するのは自然なことのように思えた。
 何年目からだろうか、恋愛と結婚は違うと身に染みてわかったのは。一緒にいるだけで楽しかった大学時代とは違うのだ。
 結婚してからというもの些細な事が気になってしまい、小言を言いたくなる。
 例えばこんなところだ。

 いびきがうるさい。
 おかずが1品だけだと不満そうに口数が減る。
 食事中にスマホを触る。
 皿を片付けない。
 植物を買うくせに水やりを忘れる。
 家事の手伝いをしてくれない。

 思わずため息を漏らすときもある。私は結婚10年目でも慣れた日常の中にイライラを見つけてしまうのだ。

 ----明日は翔と冷蔵庫の買い替えに、ノジマへ行くんだ。

 そう考えたとたん、時間ギリギリまで寝室でだらだらしている彼の姿が目に浮かんだ。

 当日、思った通り彼はなかなか寝室から出てこなかった。

 こうなることは前日から心構えができている。私は時間に余裕をもってのんびりと支度を終えると、リビングのソファーに腰掛け、スマホで簡単なパズルゲームをしながら待つことにした。


「おはよう」

 丁度、出発予定時間になった頃。彼は寝ぼけた声で朝の挨拶をしてきた。

「おはよう、早く準備してよ」

 私はパズルゲームをしながら、短くそう切り返す。

**

 彼は運転席に乗り込み、私も同じタイミングで助手席に乗り込んだ。
 私はシートベルトをした後、運転が楽しくなるように彼の好きな曲を流す。お互い音楽を聴くのが好きなこともあり、車内での会話は少ない。

 助手席から外を眺め、物思いにふけっていると車が突然Uターンした。

 ----えっ、なんで?

 急なUターンに私は驚いて、運転席の彼に目を向ける。

「どうしたの?」

 彼は路肩に横付けして、ギアをパーキングに入れた。フットブレーキをかけるとシートベルトを外しながら言う。

「そこにハザード焚いてる車があるでしょ。女の人が外で立ってて困ってそうだし…声かけてくる」

 ----あぁ、気づかなかった。困ってる人がいたんだ。

 彼は困っている人を見かけると声を掛ける。
 人助けに迷いがないのだ。

 彼がハザードを焚いている車まで駆けていくのを、助手席に座ったまま目で追った。既視感だろうか、急に懐かしい感覚に襲われる。
 付き合っていたころも同じようなことがあったのだ。
 
 困っている女性と彼が会話をしている姿をフロントガラス越しに見ながら、私は小さく微笑む。

 ----家でだらしないところがあってもいいか。私が好きになった翔は変わらずいるんだから。…なんか今日はそのまま外食したいな。

 私は一緒に食事をしながら「昔、似たようなことがあったよね」と話をしたい気分になった。

≪ おわり ≫



 ご一読ありがとうございます。他の作品もいかがでしょうか。


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