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読書日記:宮辻薬東宮 人の記憶と物の記憶

 図書館勤務の私が本棚の書架整理をしていると、一冊の本が目に留まった。背表紙には「宮辻薬東宮」とある。
タイトルだけだと内容が予想できない。
著者を見てみると宮部みゆき、辻村深月、薬丸岳、東山彰良、宮内悠介と名前が複数連なっていた。
 この文庫はアンソロジーか。私は本をパラパラめくった。
 宮部みゆきが書いた短編をもとにそれぞれリレー形式で短編を書き下ろしているようだった。
リレー形式のアンソロジーに興味を持った私は迷わずこの本を借りて帰った。

 2日で本を読み終わった、気に入った作品は宮部みゆきの「人・で・なし」と薬丸岳の「わたし・わたし」だった。

 まず、宮部みゆきの「人・で・なし」は場面展開が鮮やかでまるでドラマを見ているように容易に想像することができた。
 

「<人・で・なし>と否定しなくちゃならないのは、基本的に人だからでしょう。」

「最初から<人>でないものに遭遇しちゃって、それが厄介なものだった場合は、もう手に負えません。」

宮辻薬東宮「人・で・なし」よりセリフを一部抜粋

 そんなセリフを皮切りに、語り手と聞き手という役割ができ、回想が進む。
 人以外の幽霊のようなものの話だが、最後まで話の筋が通っていて、人に対してもものに対しても「人でなし」が掛かっている。さすがとしか言いようのないミステリーだった。


 薬丸岳の「わたし・わたし」は物の記憶を巧みに使っていて、初めて薬丸岳の小説を読んだ私は、別の作品も読んでみたいと素直に思った。
 「わたし・わたし」には夏目という刑事が登場するのだが、とても良いキャラで好感が持てる。この物語の読者は皆そう思うに違いない。

 この作品の展開も予想できなかった、もっといろいろ書いてしまいたいが事前情報なしで読んでほしい。もちろんこの物語も良質なミステリーだからだ。

 宮辻薬東宮は良いアンソロジーだった。
リレー形式というのも面白いし、それぞれの作品が他の作品との結びつきを持っていてわくわくした。
    また、タイトルが「宮」で始まって「宮」で終わるように、最後の作品が最初の作品を思い返させるようなところがあり楽しめた。

おすすめできる一冊。


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