【掌編小説】森の女神様~金の斧・銀の斧~
今日も、森の湖では、女神様が大忙し。
「お前が探しているのは、金の斧か? それとも、銀の斧か?」
と、湖面に現れたり引っ込んだり。
しばらくすると、小学一年生くらいの女の子がやって来た。
「お前が探しているのは、金の斧か? それとも、銀の斧か?」
「ヨーコ・オノです」
「な、なぬッ?!」
小さな女の子からの、何ともシブい返答に、女神様も驚いた。
「そなたの申すヨーコ・オノとは、ザ・ビートルズのジョン=レノンの嫁はんの、ヨーコ・オノか?!」
「さようっ!」
「武士かッ! まぁ、それはいいとして、オノさんは、ここへは来とらんよ」
「さようでござりまするか、では……」
礼儀正しい女の子に、女神様も感心した。
そのすぐ後、今度は、中学三年生くらいの女の子がやって来た。
「お前が探しているのは、金の斧か? それとも、銀の斧か?」
「ヨーコ・オノです」
「なぬッ?! ブルータス、おまえもか?! ならば、今、聴いておったであろう。オノさんは、ここへは来とらんよ」
「いえいえ、ヨーコ・オノさんご本人さんではなく、女神様が持っておられるヨーコ・オノさんの貴重なCDを……」
「探しに来たのではなく、『くれ!』、と言いに来たのか?」
「さようっ!」
「武士かッ! ま、それは置いといて、ダメじゃ! あんな貴重なCD、誰にもやらんッ!」
「え~~~……、女神様ともあろうお方が、モノに執着して、出し惜しみなさるんですかぁ~っ!」
「いやいや、そういうわけじゃ……」
「我々、衆生のささやかな願いをお聞き下さらず、お救い頂けないッ! こう、おっしゃる訳ですねッ?! は~~~、私、悲しゅうございますわ~……」
「これこれ、泣くな! 分かった分かった! そなたに、しんぜよう」
「ありがとうございます♪ さっすが女神様! よっ! 日本一!」
女神様は、大切にしていたヨーコ・オノさんのCDを、断腸の思いで手放し、何を思ったのか、突然!
「フレ~~~ッッッ!!! フレ~~~ッッッ!!!」
と、団長の思いで、彼女とCDを見送った。
女神様も、少々うなだれていると、今度は、二十代前半ぐらいの、真っ青なロングドレスを着て、真っ青な顔をした、絶世の美女とでも言うべき、ここらでは有名なお姫様がやって来た。
「お前が探しているのは、金の斧か? それとも、銀の斧か?」
「爺の小野です」
「はっ?!」
「長年、私の執事をしてくれていました、爺の小野を探しています」
「それらしきお爺さんならば、先程、静かな湖畔の森の影から、唐草模様の大風呂敷を担いで、オークション会場へ入って行ったぜよ」
「そうですかッ! ありがとうございます! あのエロじじい~ッッッ!!!」
「どうしたのじゃ?」
「あのエロじじい~、私が芸能界デビューして、有名になるや否や、私の脱ぎたてホカホカのニオイ付きパンティだのブラだのと謳って、自分で履いてシミ付けて、マニアに高額で売りさばいてやがるんですッ!」
「御愁傷様です」
「御老公様!」
「誰が御老公様じゃ!」
「あ、女神様、あのエロじじいを、ちょっと懲らしめて頂けませんか?」
「そういうのは、管轄外じゃ。警察なり弁護士さんところなり、そっちへ行っとくれ!」
女神様も、エロじじいにまで、付き合ってはいられなかった。
すると、程なく、女神様の母親によく似た女性が訪れた。
「お前が探しているのは、金の斧か? 銀の斧か?」
「おめえだよ!」
やっぱり、女神様の母親だった。
「何時だと思ってんの! いつまでも女神様ごっこしてねぇで、家帰って、さっさと晩ごはん食べなっ! こちとら、いつまでも片付かねぇんだよっ!」
「は~い」
森野目芽美ちゃんは、まだ、1,200歳。女神・妖精・あ~せ~こ~せ~・養成小学校の六年生。最近、学校で習った、湖面浮遊の術が楽しくてしょうがないお年頃!
「誰か、早く、金の斧と銀の斧、持って帰ってくんねぇかな~。毎回毎回、重くってしょうがねぇやッ!」
文句垂れの女神様。
まだまだ、修行が足りんようじゃ♪
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