旅芝居、「『瞼の母』のおっかさんはどう演じるか?!」事件

お芝居「瞼の母」。
ご存じ「番場の忠太郎」ですね。
幼き頃に母と生き別れヤクザとなった忠太郎が母恋しと母を探し
やっとのこと料亭水熊屋の女将となった母と対面するのが見せ場の定番芝居。
母は「息子は死んだ」と言い張り「金目当て」だと冷たくあたり
「親子名乗りがしたければなぜカタギの姿で来なかった」と追い払う。
そして忠太郎は「おっかさんはいねえ、心の中にいる、会いたい時は瞼をとじるんだ」
というお馴染みのお話なのですが。
「おっかさん、こと水熊屋おはまはどう演じるのが正解か?!」
という騒動に巻き込まれたことがあります(笑)

ひとりの役者さんは「母」という点に重きをおいて演じておられた。
だからね、冷たく当たった後によよと泣き崩れる。
そして「籠を持っておいで」とよよと後を追う。
「だって「母」なんだよ?」と力説しておられた。
後を追うシーンでは忠太郎の妹お登勢に「あの子(忠太郎)怒ってないだろうね?」
なんて台詞まで付け加えていたところに気持ちが滲んで見えた。

一方もうひとりの役者さんは真逆でした。
母ではなく、「女将」という点に重きをおいて演じておられた。
彼曰くさきの役者さんのおはまを観て「あんなに女女してるんはおかしい」
だって女だてらに店の女将なのだ。きりもりしているのだ。
きっと腹の中では息子に会えての葛藤はある、
けれど、だから俺は「女」なところは出さない、出すべきではないと思う。
出さずに気持ちをみせる!

前者は女形芝居を得意としてきた人でした。
後者は男っぽい芝居を得意としてきた、当時、責任ある立場にある人でした。
おふたりとも座長でした。
おふたりとも「俺が正解!!!」と言い張って。
「お前はどっちが正解だと思う?俺よな?!」
えー!!

アホな私は正直に伝えました。
どっちが「正解」はないなあ、と感心したことを。
「いいな」とか「好きだな」とかあったけれど
ああ、どちらも「その人らしい」おはまだなあと感動したことを。

めっちゃ怒られました!!(笑)
「やっぱりお前はわかってない!」
「あんたはあっち(の役者)ファンやから!」
どちらからもその後しばらくずっとブツブツ言われました(笑)

でもね、どちらもがどちらもだからこその「おはま」、
プライドとこだわりの「おはま」。
素敵やなと思ったのです。忘れられない思い出です。

言いませんでしたよ。
私の一番「おはまなおはま」は二人のどちらでもなく
同じ劇団同じ演出で観られたまた別の人のおはまだったということは。
いつぞやゲストで来られたフリーで活動している器用な役者さんの「おはま」。
二人のような「俺が!!!」が滲んでおらず
その技から「おはま」が滲んで浮き出て見えたのです。
いや、でも、このおはまも私的に好みではなかったんやけどな (笑)

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