結局のところ、医療の質とは何なのか?
最近、社会保障やDX関連、働き方改革のニュースで頻発される「医療の質」という言葉を聞かない日はありません。
また、院内外の方に自分の仕事について「医療の質を改善してるんですよ」と伝えて返される言葉ナンバー1は、
「医療の質を上げるって指標(数字)を上げる(もしくは下げる)ために管理するってことですよね?」
まあ間違ってはないが…もやもやする毎日を過ごしています。
そもそも
みんなの「医療の質」の言葉の定義が揃っていない!
医療の質の改善を推進する部署で、日々医療の質に対峙しているので、その定義はしっかりしておきたいな…と思っています。
いろんな著名な先生や団体が医療の質について定義されています。
みんな同じことを違う観点からおっしゃっていると思うのですが、難しくてピンとこないのが現状です。
もっと簡単に、みんながわかりやすく正確な定義の表現がないか考えてみましょう。
そもそも、質とか、品質とは、どのような意味でしょうか。
ISO(国際標準化機構)では、質や品質のことを次のように定義しています。
こちらもちょっと難しいので、すこしずつ分解していきます。
「製品やサービス」というのは、製造業の企業であれば製造したもの、サービス業であれば提供したサービスになります。
ということで、病院にとっては、医療・サービスとなります。
それが「意図している機能やパフォーマンス」、つまり医療であれば治そうとした患者さんの疾患が治癒しているかどうか、無くそうとした疼痛が改善しているかどうか。
さらには意図しない副作用、合併症や事故が起きて患者さんにとって不利益が生じていないか、安全に患者さんが治療を受けているかどうかが「質」ということになります。
ただ、これは医療・サービスを提供する側の視点です。
病院が「疾患が治癒できた!」「疼痛が改善できた!」「良い医療を提供できた!」と思えば、それは質が高いと言えるのでしょうか。
そうではないことが、次の一文を読むとわかります。
「顧客によって認識された価値」
「顧客に対する便益」
つまり、顧客=病院で言うと患者さんが感じた価値、便益そのものが質、品質であるということです。
確かに自分が顧客となったとき、企業がいくら質が高いと広告していても、自分にとって価値がある、便益があると感じていなければ、自分にとって質が高いとは感じませんし、その商品を買おうとも思いません。
同様に、疾患が治癒したり、疼痛や苦痛が改善されたとしても、患者さんが望んでいない、または望んでいないプロセスや方法であれば、質が高いとは言えないのです。
逆に言えば、疾患が治癒せず、残念ながら障がいが残ったり、お亡くなりになったりなったとしても、ご本人やご家族が受け入れられている、ご納得されていれば、質の高い医療といえます。
ということで、この病院が提供する「医療の質」を分解して整理すると、このようになります。
こう表現すると、医療の質を改善させることが、指標を良くすることだけではないことがお分かりかと思います。
ひとつの例で考えてみましょう。
転倒・転落発生率が高くなってきているため、下げるようにと上司から指示を出されたとしましょう。
下げるための対策として、「転倒・転落が発生しやすい人には、身体拘束を行う」としたら、それは患者さんのためになっているでしょうか。
見かけ上、「転倒・転落発生率が下がって、患者さんの安全性は保たれたね。よかったよかった」となるかもしれませんが、「患者さんの権利」は守られておらず、患者さんや患者さんのご家族はその医療に価値やメリットを感じることはできません。
このように、指標を上げた(下げた)としても、それが患者さんのためになっていなければ、指標を取ったり、上げたり下げたりすることに何の意味もありません。
指標はあくまで、「提供する医療やサービスの結果や安全性」「患者さんが医療・サービスなどの治療を受けたことによって感じた価値やメリット」を見える化するための手段です。
「医療の質」という言葉が出てきたら、常にわたしたちにとっての顧客(地域住民や患者)にとっての良い結果、安全性、価値、メリットということを思い浮かべるようにしましょう。
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